勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【98話】 シャークのねぐら

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山岳地帯に到着したリリア達。
普段リリアは街や村を繋ぐ街道上で仕事することが多い。最寄りの村を大きく外れ、山中を馬車で登れるだけ登ってそこから徒歩で現場に向かう。
馬車も管理しなければいけないので、兵士とプリーストと最低限馬車の見張りに残して、リリアと髭、ディル、ピエン… とにかくゾロゾロと現場に向かう。
「急ぎませぬとトレジャーハンターどもに横取りさますぞ」髭ってくる。
“誰のせいで、必要ない魔物掃討してると思ってんだ”リリアは心の中でツッコミを入れながら、斜面を登っていく。

岩肌質で木がほとんどなく、短い草が生えるばかり、幾つもの峰が空に突きで、谷間がある複雑で、いかにもシャーク共がねぐらにしていそうな地形だ。
峰の陰、岩の間、シャークやら、その他の翼類魔物が潜んでいるよう。
「この斜面はさすがに大変ねピエン… あら…」
リリアが振り向くと、皆だいぶ遅れて、斜面をウロウロ上がって来る。
「全く… 何が急がないと横取りされるぅだ…」
口ほどにもない髭め、リリアはシャークの資料を読み返しながら一同を待つ。
始めてのシャーク退治なのだ、生態も良く分かっていない。

昨夜の村でのことが思い出される。
「国認定級の豪華キャストが何もしないなら、せめて仲間を募らせてよ、伝説の勇者だってパーティー組んでたでしょ!」リリアがディルと村の食事処で喧嘩になった。
「パーティーを組むのは違反でもなんでもありません。しかし、城下を出る時にご準備されなかったのはリリア…様、本人です」ディルがすかして言う。
「だって、普通、あんなに仕事出来そうな兵士達を見たら必要無いと思うでしょ!あの人達何もしないならメンバー募集よ!」
髭に当たれない分ディルにぶち当たるしかないのだ、ピエンは目を白黒させている。
ディルはリリアが人前で大声を出すのがみっともなく思うらしく、周囲の目ばかり気にしている。まぁ、当然メッチャ目立っている。
「この村で募集されるのであればご自由ですが… 今回は諦めてください、時間がありません」淡々とするディル。
「募集は自由だけど諦めろ?意味わかんないわよ!」キレっきれのリリア。
「国の仕事に関わる冒険者は事前に書類選考する決まりになっております。国から派遣された冒険者に乱暴狼藉をされたら国の威信に関わります。身辺調査を経て…」
「☆〇◇※◎!▽▲±!!」
あまりにも腹が立つから怒鳴るだけ怒鳴って席を立ったリリア。
リリアが視界から消えるまで食事処に居た者全員、飯を口に運ぶのも忘れて静寂に包まれていた。
そんな考え事をしていたら、皆が追いついて来た。
「ハァ、ハァ… 勇者様はさすがですな… さぁ、行きましょう」
標高があるわけではないが、歩きにくい。不慣れな人間には大変なのだろう。


「皆、じっとして」
岩陰に身を潜めたリリアが指示を出す。皆、複雑な地形を利用して岩場に身を隠す。
リリア以外は明らかにばてている。兵士とピエンは元気な方かな?
「プリーストさん、方向はこの先に間違いないのね?」リリアが聞く。
「はい、所有者の刻印が呼んでいます。距離はまだありますが方角はこの先で間違いありません」
手をかざして、少し集中してからプリーストが答えた。
「勇者様、いかがなさいますか?」兵士がリリアに聞く。
ピエンは記事にするため、傍まで来てメモを手に会話を聞き入っている。
ディル達は岩陰でバテバテ…
「兵士さんとプリーストさんは戦えるの?」
「はい、荷物の回収のための目的地で目的のために必要な脅威を排除するための行為に付随するでしょう」
皆で内勤者共を振り返ると髭の手が“あっち行けシッシ”して「わしゃ、疲れた、勝手にやってくれ」と訴えている。
“おまえは最初から最後まで疲れていろ!!”リリアのつっこみ。

岩陰から顔を出して様子を窺うリリア達。
大きな岩がゴロゴロして岩肌の崖や峰が大小の陰を落としている。
両側が切り立った岩場で、渓谷というか、谷間の地形となっている。
「複雑な地形ねぇ… 1,2,3匹、岩場で休んでるね。まだまだ隠れてる可能性もあるよね。それと、あれよね」

体長1mから3mくらいのフライング・シャークが数匹、谷間の日差しの中を悠然と泳いでいる。
地形に沿って光と影の中をゆっくりと泳ぐその姿は悠然と、堂々と、威厳と、気品すら感じさせる光景。地上の覇者は人間でもドラゴンでも妖精でもなく、シャークそのものではないだろうかと思える壮大なパノラマ。
1匹がわりと近くを泳いで戻って行く。リリアは逆光の陰の中、威風堂々としたシャークのシルエットを岩場から見送る。
「勇者様、勇者様、いかがなさいますか?」
思わず見とれていたリリアが我に返る。
「…… あぁ… ごめん、ごめんなさい。リリアはシャークのねぐらを初めて見るけど… すごいのね… 勝手な理由で倒すの惜しいわね… まぁ、皆あれと戦ったことあるの?… ないのね… えぇっと…資料だと、地上でジッとしてれば見逃される場合も多いようね。やつらはデカいから狭い地形を利用して逃げましょう。出血すると血の匂いに寄って来るから、出血したら隠れて止血よ。それから… あの、くっついて泳いでるちっちゃいシャークは資料に無いけどなんなの?… コバン・シャーク?… ふーん… 名前からするとお金ドロップ系統の連中かな?余力があったらいっぱい倒して皆で山分けよ… え!ドロップ品は国が全部もってっちゃうの?事業における魔物討伐時の偶発的所得物?横領?…… ドロップ品の回収は冒険者の権利よ!冒険者の糧よ!… 無給で働かされておかしいでしょ!! えぇ!皆給料と手当が出てるの?リリアは無料奉仕なのよ!! 絶対おかしいでしょ!! ちょっとシャークと戦う前に、あそこの連中と戦ってやるわ!!全員ぶちのめしてやるわよ!!」
周囲が慌ててリリアを取り押さえる。

地上でちっちゃくセコイ戦いを繰り広げる勇者リリア。
悠然と泳ぐ、フライング・シャークの壮麗なシルエット。
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