勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【97.5話】 国とプリングルス野郎

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準備をして馬車から飛び出したリリア。
「…… あれなの?」
確かに、ちょっと先の道端に魔物がいるが大したことない植物系だ。あんなの別にリリアでなくても倒せるだろ。
「あたし呼ぶより、護衛と騎士でやったほうが早くない?」
「この度の国からの使いは国の財産の早期回収とその損失を… それ以外の戦闘行為、戦闘を誘発する行為は規定違反となり… 保険適用外であり…」
説明を受けて、声を荒げるリリア。
「ふざけないでよ!こんだけ兵士がいて、誰も戦わないの? 財産の回収と回復行為に付随しない?… ふずいって何よ!!… 関連の無い行為?… 目的地に向うのも関係してるでしょ!!バカにしてんのかぁ!」怒鳴るリリア、ピエンが驚いているが知った事か!これに腹が立たなかったらいつ腹を立てる!
「どこまでを関連する行為とするかは判断にもよりますが、規定項目の文言を借りれば…」
「もういい!!… あたし一人でやる!」
話しが進まないのでリリアが一人で倒す。ピエンが近くでスケッチを取っていた以外は全員ちょっと離れて見物。リリアが退治して戻ると
「さすが勇者リリア様ですなぁ、次はご自慢の弓がみたいですなぁ」と監査人。
まともに聞くと怒鳴り返したくなるので、馬車にあるチョコパイのことを必死に考えて戻るリリア。

馬車が停車し、また呼び出される。待遇に腹がたって居眠りもできないリリア。
「あの魔物?全然関係ないじゃない」
馬車から下りて魔物を見ると、全然道と見当はずれな草むらをウロウロしている。
「魔物を根絶するようにとの王の命令で、見逃すわけにはいきません。リリア殿も国の勇者として魔物を見過ごすわけには参りますまい」
“なにが、まいりますまい、だ… 偉そうに髭生やして、まを何回使うんだよ”
魔物様、お願い、リリアの為にこいつら全員始末しちゃってください…
苦々しく思いながら、わざわざ道を外れて魔物を退治。数が多く、リリアも怪我する。
「痛たた… バカバカしぃ… 何であたしだけ…」
茂みに数体魔物が潜んでいるが、見なかったことにして馬車に戻る。
「まだ、あそこに魔物がおるようですぞ」
髭に指摘されて戻されるリリア…
「もう!あんた達目隠しでもして、馬車に引っ込んでてよ!」怒鳴りながらリリアが再び武器を手に道を外れていく。

何度かそんな事を繰り返すうちにルールが見えてきた。
戦闘に参加しないけど、治癒は出来るようだ。怪我して馬車に戻るとプリーストが治癒してくれる。それなら少し楽だ…
「いくわよ!プリーストさん、ついて来て!」剣を手にリリアが声をかける。
「すみません、目的と関係ない魔物の50m範囲に自ら赴くことは禁じられています」
お言葉を返される…
仕方ないので、リリアは倒し切って痛みながら戻ってくる。
時には治癒されに戻って、出直す。絶対に実費のポーション使ってやるもんか!

「痛い!助けて!治癒ぅーーー」
リリアが血を滴らせて、プリーストに駆け込む!
「勇者様!こっちに来てはなりません!わーー」
見物連中が皆クモの子を散らすようにリリアから逃げる。
「治癒!治癒よ!助けて!」
「勇者様!後ろーー! 後ろーーー!」
何だかどこかで聞いたことある流れだ。リリアが振り返ると魔物が追って来る。
魔物から50m離れなければいけないので、逃げ込もうとするリリアを魔物が追って来ると、皆リリアから逃げていく。
「肥溜めに落ちたリリアが来たぞーー! わーーー、逃げろーー!」的なやつ。

普段は何もせず、ちょっと離れてリリアが一人で戦うのを全員見学しているのだ。
かと思えば、兵士達も戦う事がある。不慮に馬車が襲われて、馬車と乗車主に危害が及びそうな時は働くのだ。
それぞれの主と国の財産を守る行為だそうだ。リリアは対象外…

「もうあたし行かない!帰る!勇者辞める!ってかもう辞めた!」
何回目かでアホくさくなってリリアは怒鳴り散らしだした!
バカバカしい!こんな事に命かけられるか!!
「リリア…様、それはなりません。そもそも勇者の場合、正式に職を辞するには、まず勇者管理室長が書類の受理を行ったうえで、治安維持室と人事室長の…」ディルが長々と説明を始める。
「リリア様、これは異なことを承る。勇者というのはもともと己の剣と身を民、国民に捧げる物ですぞ。その犠牲をいとわない果敢な心、大業を成し遂げる技と精神を持ち、世に尽くすのが筋であろうぞ。人を、国を、世を守る立場である勇者が守られない事に異議を唱えるなどもっての他だとお心得をなさいませ」
ディルを遮り髭が偉そうなことを言う。正論だが、リリアには許せない…
「うるっっせええぇぇぇんんだよぉ!こっちは死ぬ思いしてんだぁ!」
髭が正しいかも知れないけどメチャクチャだ!リリアが大声を上げたら、慌ててピエン、兵士、プリーストがリリアを止めに入った。
「勇者様、お気持ちはわかります。しかし、お言葉が過ぎます。ここはいったん収められてください」
「知ったことか!こんな事が許されてなるものか!」
「勇者を御辞退なさるのは勝手ですが、国王の顔に泥を塗ることになりますぞ。リリア殿の居場所はこの国には無くなるばかりか… そのお覚悟でご辞退なされませ」髭がどこまでも髭ってくる。


なんとか周りに説得され馬車に戻されたリリア。
「なんなの!あのプリングルス髭野郎!」リリアは荒れ狂っている。
「リリア、僕も見ていてリリアの気持ちはわかります。が、ここは我慢して最初の仕事をこなしましょう」
ピエンも何とも言えない表情。
「リリアはもう店じまいよ、今日はもうやらないからね」
そう言うとリリアは馬車のカギを閉めてしまった。


結局この日は後1回出動させられた。
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