勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【86話】 ルーダリアから来た勇者

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リリア対ペコの大喧嘩が勃発した。またか!だが…
その前にここまでのリリア達プラス藁君の行動。


勇者の子孫と面会する前にリリア一同は周遊に出た。

魔物サファリパーク
魔物使いの血を受け継ぐ勇者の子孫がパークの管理者、捕獲隊になるそうだ。
精神に作用する魔法を使うような魔物はいないが、結構色々な魔物、大型動物が揃っている。檻もあるがサファリは園内馬車で見学。
「寝てるやつばっかじゃん」リリアの一言。
お土産屋に置いてある魔物人形が全然可愛くない件について…

展望の丘
都が眼下に広がる高台に伝説の勇者達の碑がある。
眺めが良い。空気が良い

始まりのダンジョンと聖なるの泉
伝説の勇者が最初のクエストで掃討したとされるダンジョンとボス戦で傷ついた勇者が体を癒したとされる泉。
ダンジョン内は灯りが確保されている。意外に狭い。
「剣突きとダッシュで勝てそう」リリアが呟く。
泉は浸した物が清められるとされ、手を浸したりアイテムを浸したり人それぞれだが、コインが投げ込まれている。
「人って何で水溜まりを見たらコインを投げ込みたくなるのかね?」とリリアは言いながら自分も1G投げ込んでいる。
人は水を見たらお金を投げ、崖の上に立つと自分の罪を告白したくなるようだ…
大変不思議…

その他、レンタワゴンで伝説の勇者名所を巡る。古戦場を訪れ、勇者歴史観を見学、勇者饅頭を食べ、宿「勇者」にも停まり…
とにかく、これでもかと言わんばかりに勇者押しの周遊。
「伝説の勇者って大陸の広範囲で活動したのにフリートだけでこんなに…」
皆ちょっと顔を見合わせる。ゆかりのある地、ある付近の村では帝都以上にやたら勇者をハードプッシュしている。勇者ビジネス。
「いいじゃない。せっかく来たし、見れるだけ見よう」リリアは楽しんでいるようだ。迷いながらもお土産屋で“勇者”と書かれたキーホルダーを買っている。


で、喧嘩上等

「ちょっと勝手に安請け合いして巻き込まないでよ!」ペコが激怒している。
勇者バーガーが有名な地方の村の宿の一室内ではバチバチとした空気感が漂っている。
フリートに来て以来リリアは「あたしってばルーダリアの勇者なの」を口にする機会が多くなった。勇者リリアはルーダリアでは空気、エア勇者だがここでは大抵尊敬の念を持たれる。ちょっと疑ってそうなやつがいたら、例の呪文とともにリリアモデルの剣を“キラーン”とさせると、「こいつマジやべぇ!」と大抵なる。
「ついでにオフェリアも勇者の子孫よ」とリリアはニコニコしている。ついでらしい…
「勇者様、治療をお願いします」と言われたら「アリスGo!」とちょっとボス面している。
「勇者のお姉ちゃん魔法見せて!」と言われれば、リリアは黙ってニコニコ握手してそれとなく子供を追い返している。

この宿屋でもそれとなく自分が勇者なのだと匂わせたら先ほど村長が部屋までやってきて、クエストを依頼してきた。
曰く
「この先の峠で最近マンティコアが出現し、旅や交易の妨げになっている。フリートの勇者にも要請の手紙を出しているが、忙しいので順番待ち状態。一般人ではまったく手が出せなくて被害甚大なのでルーダリアからお越しの勇者様に討伐を依頼したい」
「これはまずい!!」と皆がリリアを制す前に
「この先の峠ね!勇者リリア、やらせていただきます!」とグッとサインを出してしまった。

これで当然揉めている。
「だって、あたし勇者だよ!断れるわけないじゃない、一般人じゃ倒せないから勇者様にって依頼よ!」リリアも声を荒げる。
「リリア、あんたお飾り勇者でしょ!あんたと一般人と能力的に何が違うってのよ!マンティコアがどんなやつか知ってんの?アリス、魔物百科みせてやって!」
アリスがマジマジとリリアを見つめながら黙ってそのページを見せる…
「……… なにこれ… 本格的じゃん… 人の顔を持ち… ライオンの胴… コウモリの翼… サソリの尻尾… 呪いを吐き…」リリアは読んで静かになってしまった。
「わかった?あんたが勝手な事言って、皆を危険晒すのよ!意味わかってるの!」ペコが烈火の如く怒る。
「勇者なんだろうけど、リリアはルーダリアの勇者であって、ここの国民の為に命かける必要ないよ」普段は黙っているアリスが口を開く。
「…… それは、人間が勝手に決めた国境で、実際勇者はボーダレス… 国境を越えてグローバルに活動…」なんかリリアはボソボソ言っている。
「あああぁぁぁぁん!!エア勇者何にもわかってねぇじゃん!」いよいよペコが荒れだした。
「今日は治癒しないわよ、リリア、くたばりなさい」アリスが冷たく言う。
「だって… オフェリアだって勇者の家系だし… 勇者二人もいて… ねぇ」リリアがオフェリアに救いを求める。
「ごめん、私、リリアの様に勇者として働くのを望んでない。リリアの気持ちは全然わからない」オフェリアだって賛同できない。
「ほら!エア勇者みなさいよ!これ以上は面倒見切れないわ!自分で行って断って来なさいよ、じゃなきゃ、パーティー除名よ。断ってくるまで誰も相手しないから。空気よ空気、このエア勇者… 何が勇者としてよ。何にも出来なくせに、これ以上生意気な口きいたらBBQにして燃やしときましたゴミに出すからね。そんなに勇者したかったら、勝手にやって勝手に死ねば… 私達を巻き込まないでよね。断って来なさいよ」
ペコが怒鳴り散らすと部屋は静まり返った。オフェリアもアリスも黙ってリリアを見ている。


静まり返った部屋の隅でリリアはしばらく半ベソかいていたがやがて、
「わかったよ… そうするよ…」と呟くと、メソメソしながら出て行った。

西日が入り始めた部屋は静かだった。
「勝手に死ねばは余計だったかもね」
アリスが小声で言うとペコは少し、ドアに目をやったが部屋は相変わらず静かだった。
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