勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【81.5話】 悪堕ち勇者リリア

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古戦場見学の次の日、王都に着いたリリア一同と藁君。
フレイラはこの少し先の町までリリア達と同行。
家族達はここで教会を頼って解散。教会でお世話になりながら、仕事を探して家族で暮らす。
大人には深々と感謝され、子供達とは泣いてお別れ。苦労が喜びに変わる瞬間。
「フレイラ、リリア、オフェリア、ペコ、アリス、ありがとう!」
子供達は泣きながらハグの嵐。特にフレイラは魔法が使える優しいお母さんを絵に描いた様な見本。子供達の夢の母親像。
本格的に家族を保護しながらの旅は初めてだったリリアだが、想像以上のプレッシャーだった。緊張の連続。見えない国民大勢のために魔物を倒す戦いのプレッシャーがどうなのかリリアには想像できないが、目の前の二家族を保護するプレッシャーの重さは凄かった。


さて、その日の夜は王都の宿屋で家族無事到着の祝杯を上げたリリア達。
大いに盛り上がるリリア達のテーブル。和気あいあいとするテーブルに途中から男性達も加わり皆それぞれ羽を伸ばした。
「王都見学もしたいし、何日か休息日にしようか、明日はノンビリ起きて来て大丈夫よ!」ほろ酔いのオフェリアが提案すると
「やったーーーー!最高――!」テーブルが盛り上がる。
それぞれ男性と盛り上がるリリア達。今夜は野暮な詮索無し的な雰囲気。
リリアは水も滴る的な美男子と盛り上がっている。
「リリア、あなた兵士の彼氏いるんじゃなかったっけ?」オフェリアが意地悪に笑う。
「お気に入りだけど、彼氏じゃないよ。兵隊さんも適当に遊ぶんでしょ。今日はリミッターカットよ!いえーーぃ!」メッチャ楽しそうなリリア。
「俺、実はインキュバスなんだよ」美男子がリリアに微笑む。
「イン… インキュ… 何?あぁ… インキュバスね! 面白いじゃない!イケメンイケメン!それだけイケメンならインキュバスで通用するよ!あっはっはっは」ご機嫌に盛り上がっている。
ペコが吟遊詩人にチップを払い生バンドでカラオケを始めると更に盛り上がりだした。
夜更けになり、テーブルはポツポツと空席が出だした。当然リリアも適当に美男子とともに席を立つ…


オフェリアは激しいノックの音で目が覚めた。結構日が高い。ドアを開けるオフェリア。
「ちょっと、リリアの部屋に来て。様子が変なの」アリスとペコが慌てている。
“リリアの様子が変? 何だか嫌な予感がする… リリアの事だ、想像を絶する事態に陥ってそうだ”
オフェリアは着替えてペコ達に続いた。

「どういう事これ?」オフェリアが驚く。
確かにリリアの様子は変だ。何と表現するべきか…
服装とか外見に目立った変化はないのだが、何か悪女的オーラを発散している。
何だか言い知れぬ氷の美女的な感じで、装備もいつもと変わらないけど、悪ぶった感じの悪い女ボス的にダークにスタイリッシュなっている。なんだこれ…

「昨日リリアと一緒にいた男、やたら美男子だったでしょ?頭に羊の角が生えていてゴートマンかと思っていたのよ。俺はインキュバスだとか言っていたけど酒の席の冗談だと思っていて…」フレイラの見解。
「え~~!じゃ、リリア、インキュバスの影響受けちゃったの??」一同驚く。

インキュバスと寝たリリアは悪堕ちリリアになっていた。
なんか知らないけど、ワルかっこいいリリア。

で、リリアは… 悪堕ち勇者リリアは悪くなっていた。 悪堕ちですから…

「リリア、しっかりしなさいよ!目を覚まして!」オフェリアが心配する。
弓以外は無駄に正義感が強いところがあるだけの大したことない勇者だが、その正義感さえ失われてしまったら、弓しか残らない。勇者ではない、者だ。つまり完全なる一般人。
「なにさ、気安く呼び捨て?… にしてもこんな小汚い宿、宿賃踏み倒してやるわ」
リリアは悪くなっている。

それから一同は大変だ。
リリアは食い逃げをしようとするし、宿代を踏み倒そうとするし、アリスのスープにかってにタバスコを大量に入れるし、ペコのクリスタルロッドを質に入れようとするし、コーヒーに砂糖と偽って塩を渡すし、とうとう道端で少年からポップコーンを取り上げようとまでしていた。極悪リリアだ!
「リリア、悪くなったね」
「悪堕ち勇者って、ああなるのね、不味いよね」
「大変、何をしでかすか予想もつかない」
「リリアから、あの中途半端な正義感を失くしたら何も残らないね」
「とにかく皆で見張ろう。あんなんでも名目上は公認勇者よ。何かあったら外交問題よ」
皆で協力して治るまでケアするしかないようだ。
悪堕ち勇者の極悪非道が続く。
「トイレで用具箱のクレンザーを個室に投げ込んで誰かを粉まみれにした上、一ロール持ち去ったわよ」
「転がって来たボールを全力で別方向に投げて子供に拾わせに行かせてた」
「レストランのオープンサインをクローズにひっくり返してたわ」
「ナンパしてきた男に、あたしに惚れると火傷するよ!って嘯いていたよ」
「かってな住所を語って、ピザを3枚、配達させようとしてた」
「街中で、あ!未確認飛行物体!ってあらぬ方向を指して、皆が空を見た時には身を隠してたのよ」
「… 悪いにも限度ってものがあるわよねぇ…」
そして、誰ともなく同じ意見を吐き出した。
「悪堕ち勇者だけど、規模が… スケールが小さいわね… ケチくさいというか… しょぼいというか…」
「悪堕ち勇者って、魔王と世界の半分をシェアして支配するとか」
「街を破壊しようとして私達全員で、目を覚まして!とか叫びながら格闘するとか」
「国家転覆を計るとか… 全然違ったね…」
「… 皆何か勘違いしてない?元がリリアよ。突然そんな能力が覚醒するわけないでしょ」
「悪堕ちしても能力自体は変わんないのね」
「勇者として大したことないなら、悪事も大したことないのか…」
「あれなら、放っておいて、あのままでも良いんじゃない?」
「……… そうねぇ… あれで良いか…」
「… いや、だめでしょ… まずいでしょ。勇者がコソ泥みたいなけち臭い事で捕まったら恥でしょ」
その時、国立図書館からフレイラが戻って来た。
「悪堕ちリリアちゃんの洗脳を解くのに、シャーマンの力が要るみたい。知り合いと図書館で調べたけど、王都の近くにシャーマンの集落があるらしいのよ。連れて行ってみるしかなさそうね」

そんなわけでリリア達は寄り道をしなければいけない破目になった。
リリアは真剣に会議中のペコに膝カックンしてひっぱたかれていた。
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