勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【78話】 廃集落の住民

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「こちらリリアよ、今のところ異常無し。だけどあたし人影を見たよ、絶対に居る」
後衛のペコ達より先行して、集落に入ったリリアが通信する。
襲撃の痕が生々しい家が並ぶ。通り道上にある廃村痕やこういった場所に何かが潜んでいることが多く一番危険だ。
前衛のオフェリアが左側に並ぶ建物、リリアが右側を偵察しながら集落内を進む。


リリア達は国境の町を出発。あいにく人の移動も馬車の移動も無く、自分達だけで移動を覚悟していたが、緩衝地帯で共闘したフレイラがボッドフォートの王都方面まで同行してくれることになった。
聞くと、フレイラはシングルマザーのプリーストでボッドフォート出身だそうだ。
国内事情にも詳しく、頼れるバックアップになる。
が、女性5人パーティーの上に、前衛はオフェリア1人、後衛がリリアを含めて4人というアンバランスにも程があるぞ!といったパーティーになってしまった。

「仕方ないじゃない、リリアしばらく前専門にやってよ」今朝のミーティングでペコに言われた。
「何か… そんな事を言われると思ったけど… 簡単に言うけど、動き方とかわかんないよ。今まで通り、途中から前衛に加わるでいいじゃない」リリアが不満そうであり、不安そうでもある声をあげる。
「動き?一人前そうねぇ、とにかくオフェリアと前に居たらいいのよ」ペコが言う。
リリアも少し大人になった、このメンバーでいったら、自分が前衛に回るのが自然だしベストだろう。なるべくは弓を使いたいので後衛を希望したまでだ。前衛を引き受ける気ではいた。が、ペコの言い方が気に食わない。“なんだ、その言い方は。こっちは慣れない仕事を引き受ける身なんだぞ!!”
「誰でも良いような物の言い方するならペコがやったらいいじゃない」リリアが澄まして言うと一気に不穏な空気になった。
アリスは淡々としている。オフェリアはまたか的に困っている。良くこのメンバーを知らないフレイラはいきなりの雰囲気にちょっと引いているっぽい。
「どう考えてもリリアがやるしかないでしょ、我がまま言うな!この物理女!」ペコが言い返す。
「聞いたオフェリア!今、魔法を使えない人間をバカにしたわよ!見下しているよ!オフェリア、無能力者として共闘しましょ!だいたい、リーダーはオフェリアよ、ペコじゃない。勝手に決めようとして、越権行為!これは反乱よ!反勢力なんちゃらよ。レジス… タンスよ!…」新しく得た知識をフル活用するリリア。
フレイラはちょっと心配そうにしてたが、思ったより大したレベルに無い話しそうで、安心したようだし、呆れているようでもある。
「リリア、あなたも分かってるでしょ。素直にやるべきよ」オフェリアが眉を寄せて言う。
「…ッぐ、わかってるよ。だけど、オフェリアだって痛い思いをしてるでしょ。いっつも後ろにいる連中に簡単に言われたくなよ…」口を尖らすリリア。
「私、これしか出来ないし、疑問に思ったこともないわ」オフェリアは落ち着いている。
「リリアが後衛に居たい理由は痛い思いをしたくないからなの?前衛より後衛が楽だと思っているわけ?」ペコが言う。
「……… そんなんじゃないよ… ただ… もういいよ…」

まぁ、今朝はそんな状況でした。


「家の中に人がいた。二家族、子供もいるわよ、怪我人もいるみたい」リリアが気配を感じて家に入ると、身を潜めるように村人が身を寄せて座っている。
焼けた家屋も多いが、まともそうな建物の中に住人いるようだ。危険は無さそうだが、怪我人もいる。
「オフェリアよ、こっちも住人を見つけた。どうやら住める家には人がまだ住んでいたみたい。リリアが見たのは村人の誰かね」
「了解。脅威は無さそうだけど、注意ね。怪我人がいるならアリス達がいく」ペコ達が答える。

廃村… というか集落が打ち捨てられている物かと思ったが、人が住んでいる。
治療のため一ヵ所に集まってもらって、アリスとフレイラが手当てをする。
話しを聞くと治安の悪化とともに盗賊に襲われたりするようになり、逃げ出す住人が大半だったが、頼る場所の無い家族、移動できる実力の無い者は隠れるように住んでいたらしい。金品は無くなり、今は賊にも見向きもされない状態。
話しを聞きながら、村の惨状を見るリリア。
ボッドフォート家の紋章だろうか?ボロボロになって垣根に引っかかっているのが、国の権威の失墜を物語っているように思われる。

アリスとフレイラが治癒しながら、リリア、オフェリア、ペコで人通りを監視しながら事情の詳しそうな村人と相談する。
「この感じでは、次の村が機能しているかわかんないわねぇ…」ペコが言う。
「次のブアオン村なら距離的には夕方までに着けるけど期待できない。ここに一泊して、明日の早朝からロドストックの町に行く方が安全かも」フレイラの情報。
「地図には結構村が描かれてるけど、どれも当てにならないなんてねぇ」オフェリアが呟く。
「村が完全に消滅したり、変な場所に集まって住み始めたり… 最近はここから出られないから何もかもさっぱりだ」村人が首を振る。
リリアを見ると、自分の昼ご飯を子供達にあげている。
「ほとんど食料が尽きているらしいよ。保存食以外は子供に出してあげてよ」リリアが言うので、皆無言で従う。

村人が言うには、ここでは生活が成り立たないので、冒険者と一緒に町まで移動を希望するそうだ。もう難民状態と言ってよい。親戚等頼れる人間がいるわけではないが、集落に残っても希望は無いといったところ。
実際、一般人を同行させられるほど安全確保に余裕もないのだが、放って行くわけにもいかない。冒険者の名折れになる。
「任せて、送り届けてみせるわ、あたし、ルーダリアでは勇者なのよ」リリアはやる気をみせている。
「全員を治癒するにも時間がかかりそうだし、子供連れてなら今日はここで泊まるしかないわね」オフェリアが決定をくだす。
「良かった、慣れない土地で魔物も多いし、村の通過でさえ緊張の連続で結構疲れてたのよ」リリアはちょっと安心している。

一泊決定となったので、手の空いているリリアとペコが泊まる準備をし始めた。
辺りは草花刈り取られたのかどことなく色が無くて殺風景な様子。
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