勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【71話】 廃寺院へ

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リリアも調子を戻してきた。あの後二日程宿に泊まって、気分転換と連携の練習。
「アリス、リリアをどう思う?」ペコ。
「本調子じゃないわね」アリスが答える。
反射神経と瞬発力の剣技と違って、集中力が弓に出る。呼吸を制御し、目標を狙うがリリアの精度が出ていない。もちろんそこらの弓士よりよっぽど正確に狙っているがリリアらしくない。リリア本人も気にしているようだ。

クリフフォレストはその名の通り、崖が多く険しい道が続く山。
その山奥に大きな滝があり、その畔に今は使われていない寺院がある。滝を背にたたずむ白く威厳のある寺院が素晴らしい。途中途中にある渓谷も絶景が多い。
山中を二日トレッキングする事、昔、山の向こうに抜ける道の間道として使われていて、廃屋、廃砦がありやっかいな邪魔者も多い。中難易度観光といったところ。
リリア達四人は最寄りの村まで移動した。ここから山に入るがこの先は山中のトレッキングコースのような道が続くことになる。国境に近づき村周辺は兵士達が多い。
村で廃寺院の情報を得ると、雨季で滝の水量が増えてくるのでそろそろ観光も多くなるはずだが、まだ少しシーズンに早い事と、武力衝突が増えて今は観光に来る冒険者の数が少ないらしい。
一緒に廃寺院までいくパーディーがいればと、二日程待ったが見込みがなさそうなのでリリア達は廃寺院を目指すことにした。

「もっと険しい山登りかと思ったけどそうでもないのね」テントを担いでリリアが言う。まだ間道が続き比較的歩きやすい。
「この辺は、森を通って山に向かう感じよ。間道からそれて山に入る辺りからがトレッキングらしくなるのよ」ペコが答える。ペコ、アリスは行ったことがあるようだ。
今日はお昼休みを入れて夕方前には廃寺院を目指す冒険者が利用できる放置小屋に着くはず。そこで一泊予定らしい。
「小屋があるの?テント要らないじゃない」リリアが言うと
「万が一に備えるのよ。完全野ざらしで寝たい?」と答えが返ってくる。まぁ、そんなものか…

魔物は植物系統が多い。食人植物を倒したら、アイテムドロップがあった。
「指輪!付呪されてるかしら?」
拾い上げて見ると髪の毛がしっかりと絡みついている。うわぁ…

お昼休憩。今日はアリスとオフェリアがお弁当を用意してくれた。川辺で休憩をする。ペコによると予定通り進んでいるらしい。リリアが地図をのぞくと疲労のわりに距離は進んでいない。荷物と高低差かな?
川のせせらぎの中でおにぎりと魚の切り身を食べる。景色も良いし、メッチャお弁当が美味しい!
「ねぇ、オフェリア午後から荷物少し持ってよ。思ったより重いよ」リリアが頼む。
「わかるけどねぇ… 私、緊急の時にはまっさきに飛び込んで魔物を足止めしないといけないからね…」声柔らかく、きっぱり断られた。役割分担だから仕方ない、諦めよう…

昼ご飯を終え、しばらく歩くと間道の分岐点に来た。一方は間道として山を向こう側に抜けて、国境近くに出、リリア達の行く道はこの先だんだん小さくなっていくのだそうだ。
「こんな場所にも兵士がいるの?」リリアが少し驚く。
道の分岐に馬防柵と馬車停めが置かれ、監視小屋があり、兵士が5名程いる。
「私達、クリフフォレストに行きます」オフェリアが説明し、全員のギルド証をだす。
「廃寺院か… 最近少ないな。まぁ、気をつけていけよ。何泊予定?… ふーん…… おい、リリアってどの女だ。お前か。聞いたことないギルドだな。本当にあるのか?…… そうか、ま、いいだろう」兵士が言う。
「なんで、リリアだけ疑われるんだ!!」っと言ってやりたいが、廃寺院を早く見たいのでがまん、がまん。
「通れ。分かっていると思うが、能力者の二人は申請無しに国境越えたら違法だからな」
リリア達一行は小さい道に入っていく。


この日は予定通り、小屋にたどり着いた。
「全然魔物がいなかったわね」リリアが聞くと
「崖と斜面が多いとね。リリア、ゾンビになってまで、斜面をウロウロして斜めな土地で暮らしたい?」とアリスが言っていた。確かに…
注意して小屋に入ったが特に危険は無かった。一同一安心。
が、用具室を開けた時だった。
「わ!」
誰かが叫び、何か勢いよく部屋に乱入してきた!
「何か出た!」「なになに?」「ねずみ!大ねずみ、数匹!」「ねずみ苦手ぇ!」
大パニック!!
一瞬驚いたが山育ちのリリアは意外に冷静。オフェリアも焦って剣を振り回しているが、冷静な方か。
「わああぁぁぁ、ねずみぃ!嫌いいぃ!!」
都会っ子、ペコとアリスは大混乱だ!
大ねずみは、何喰ったらそんなに遠慮なくデカくなるんだ!って大きさだが所詮ねずみだ。
ところがペコがファイアボールを乱射して、アリスはだれ彼構わず治癒している。ねずみよりこいつらが危険だ!
「ペコ!危ない!火が!危ないやめて!」リリアもファイアーボールを数発くらってぶっ飛ばされる、痛い!熱い!
見境無くファイアーし、見境なく治癒するものだから、ねずみも焼かれては治癒されている。やたら気の毒。
リリアが小屋の扉を開放するとやがて全部逃げ出していった。嵐が去ったような静けさが小屋に残る。


「リリア、あなた気配に強いんでしょ!確認して報告しなさいよ」ペコが注意しだした。一言目がそれ?
「なによ!ねずみくらいで大騒ぎして!こっちは火の玉を何発くらったと思ってのよ!蛮行もいいとこよ!安全意識の欠如よ!」ここは負けていられない、リリアも主張する。
オフェリアが慌てて止めに入ろうとするがアリスに止められた。
「いつもの事よ」

リリアとペコの喧嘩はしばらく続いていたが、アリス達は黙々と寝床を作る準備をしていた。
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