勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【63話】 泥レスリング

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雨の降る中、リリア達はキャラバンの護衛をして荷馬車に揺られている。
今朝、カリオカ村を出発して馬車三台で北の国境を目指す。いつかタン村から国境を超えたが、あの街道より西に位置する。
冬になり雨も多くなった。伐採され禿げた丘が多くなり起伏の多い道のり。国境周辺がざわついているので、行軍の隊と行き交う。時に、リリア達のキャラバンは道を譲って通り過ぎるまで待機を余儀なくされる。すれ違うのならまだしも、つい今しがたも、大して速度に違いも無いのに、軍隊に道を譲ったところだ。
道端で行軍をやり過ごしながら待っていると後尾に投石器が三台、馬や牛に曳かれてやってきた。そのシルエットを馬車の座席から見上げながら「やれやれ、日暮れまでに間に合うだろうか」今日一日は長そうだ。
お昼過ぎて、リリア達のキャラバンは大幅なスケジュール遅れ。馬車は投石器のお尻を見ながらノロノロ進む。

リリア達は足止め。雨続きでの泥濘で投石器が立ち往生、丘の下の窪んだ道を脱出できずに兵士達が右往左往している。
「これなら道を外れて追い抜いてみるか」馬車手が提案。何度か泥濘にはまりリリア達全員で泥だらけになりながら、何とか軍を追い越し返し道に戻った。
が、少しは早く進めるかと思ったがそうでもない、雨の中、植物系の魔物も多く、特にマッドマンが頻繁に出現しては足止めされる。
オフェリアと兵士上がりのハンマー使いがマッドマンを退治する。遠目からはリリアの弓だが、弓特有の効果はない。マッドマンには弱点が無いのだ。ヘッドショットを決めるが、シャクっと刺さって特に何事も無かったように向かって来る。
ハンマーマンの攻撃が効果を上げているようだ。大ハンマーで叩きつけるとバシャっと泥が弾け散る。
数が多く近づかれたらリリアも馬車を降りて剣を振るう。皆泥だらけ。
馬車手達が「どっちが泥人形かわりゃしない」と笑う。
なんたって倒しても倒しても際限無く泥の中から立ち上がって来るのだ。やっかい極まりない。

「このトゲが痛いのよねぇ」リリアは呟きトゲで血だらけにされた腕と足に薬草を塗る。馬車に接近してくる魔物オバケバラを退治してきたところ。市場では買えないリリアお手製の特効薬で回復。
オバケバラを退治して、道に戻るとマッドマン10体近くにすっかり道を塞がれてオフェリアとハンマーマンが大格闘中。
オフェリアはマッドマン数体に押さえつけられている。
「リ、リリア!こいつら!!助けて!」オフェリアが叫びながら剣を振り回している。
「オフェリア、あなたどこにいるのよ!」
泥んこレスリング中で誰が誰だかわかりゃしない。
リリアが応援に加わるが、オフェリアは泥人形になって格闘中。同士討ちしてはいけないので剣は使えない。しかたなく素手で泥んこ格闘に参加。雨が止んできたのが逆にドロドロになる。
皆で泥人形を殴る蹴る、千切る、かき分けるようにして退治していると突然、馬がいなないた。
「いかん!おまえら逃げろ!」叫び声が聞こえ、振り返ると、泥の中から出現したマッドマンに驚き馬車が走り出した。
「………!フェリア!」リリアは泥人形を振り払い、オフェリアの手を引き馬車を逃れる。
馬車はリリア達の前を轟然と数十メートル走り抜けて停車した。
リリア、オフェリアと難を逃れたハンマーマンが目を点にして顔を見合わせる。
危機一髪だが、おかげで泥人形は轢死して泥に帰っていった。


リリア達はすっかり日が暮れてから村に到着。
宿、食事の前に井戸を探して、下着姿になり皆で水を掛け合う。
泥を洗い流し、一日の疲れも洗い流し… か、どうかはわからないが、とにかく洗い流す。

「リリア、この後は?」オフェリアが、洋服を絞りながら聞く。
「この後?ハンマー男さんも一緒に、食事で温まるわよ。スパイスたっぷりスープが飲みたいの。明日からはこの村でお仕事ね」髪を下ろしたリリアが答える。
「今日は散々働かされたんで俺が最初の一杯おごるぜぇ」ハンマー男さん。
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