勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【53.5話】 ある月初めの朝 ※少し前の話し※

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「今日もあなたにご加護がありますように」
リリアが自室からバーに下りるとコトロがカウンターで掃除をしていた。
コトロも片づけをしながら挨拶を返す。
「リリア、何か食べるなら作りますよ」
「自分で作ろうかと思ったけど、お願いするわ。パンと卵料理お願い」
「はい」
「昨日もバーは遅かったね、ニャン子とピョン子はまだ寝てるんでしょ?」
「そうね、寝てますよ、二人とも」
「今日、買い物に出るんでしょ?あたしも一緒に行くわよ」
「うん、いいですけど… いいですよ」
「…… 何よ、不愛想ねぇ、朝ご飯まだなら一緒に食べたらいいじゃない」
リリアがカウンターを見ると、月初めに来る、仕事依頼情報とギルド情報が来ている。仕事依頼情報は週一くらいで更新情報が来るが、ギルド情報紙は月初めに来るのだ。
「月始めねぇ… 情報紙が来てるじゃない」リリアは手に取り目を通す。
しばらく、コトロのキッチンワークの音だけしていた。

「…… コトロ… ギルド・古のクリスタルロッドの… カトリーヌ、ベナール、ガイアって… これ読んだ?」
リリアは情報紙を読んでいたが顔を上げた。
「… そうですよ… リリアもここで何回も会っていますよ」言いながら調味料に手を伸ばすコトロ。パンの焼ける香りと卵料理の香りが満ちだした。
「昔、ここに所属してたんでしょ?」
「皆3年は一緒に出掛けましたね。ガイアは左利きの変則剣士で、幻の剣線って異名。カティはエンチャ、攻撃魔法、治癒魔法、クリエートが得意なオールラウンダー。料理も得意、勉強になりました。ベナールは黒い鎧に二刀流でしたが、自己回復の治癒魔法がすごくて、頼れる前線。動き回るのに邪魔なのに真紅のマントにこだわっていて、赤壁の異名。バーではモテていましたね。剣もトークも立つ男」
「…… 読んだのね」
リリアが再び視線を落とした先には、ギルドのお悔やみ・合同葬儀の欄がある。
全員ヴァルキリー神殿に旅立ってしまったのか…
月初めにはこれがある…
各ギルド、その他十数名が名を連ねる…

貴族とその親族、親類縁者が世襲で職につく世の中。経済力が無ければ、学校もなかなか行けず、商人にも技術者になる道も狭い。村から出てくる孤児は自由であることに己を見出し、失うもの無しの人生を突き進む。冒険者ギルド所属者はリリアも含め幼い時から孤児が多い。

「……… ねぇコトロ…」
「… 行方不明者欄ですよね? 見ましたよ、エーゲルとコーヘイ」
「今日はお店やるの?」
「多分開けますよ。買い物前に向こうのギルドに顔を出そうと思ってます」
「リリアも行くよ、知ってる仲だし」


ネーコとラビが起きてきた。仲良しコンビは起きる時間まで似ているらしい。
「朝のパンの香は素晴らしいニャン」
「コトたん、二人前追加ピョン」
ニコニコ挨拶をする。
「そんな時間だと思って全員分作ってますから」
雰囲気が良くない。ピョンがリリアの顔を見る”喧嘩中?と聞いているよう。
リリアが情報紙を二人にサッと見せると二人は静かにカウンターに着いた。
「ネーコはホットミルク、ラビは野菜ミックスジュースで良いですね?」
コトロは相変わらず向こうを向いて朝食の支度中。
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