勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【46話】 派兵式とお見送り

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契約マッチ第二試合で負けてしまったリリア…
本人が失神してしまったので、関係者も救いようがない。
謎の女性魔法使いが勝者になり、リリアは控室に運ばれ、予定外の勝者インタビュー…
偶然が重なった事故だが、リリアもキャシィもだいぶ怒られた。何故かラビも立たされて怒られていた…
が、次の日、関係者のお偉いさんは意外にニコニコ。調査では、勇者が負ける斬新な試合、やらせ無し、リリアのやられっぷり、失神状態の緊迫感が大うけで、話題と人気を大いに博したのだ。凄く複雑な気持ちのリリア…


リリアはルーダ・コートの街の式典が行われる広場にある建物の、特別観覧席にいる。
国の勇者リリアは、守護神のような存在でもあるので、ルーダ・コート太守、その他偉い人達と並び、派兵を見送る立場。
リリアモデルの装備姿で出席するリリア。凛々しく艶やかで勇者栄えしているが、相変わらずリリアの認知度は低く、偉い人達は「この小娘は誰なんだ?」といった雰囲気。
しかし、胸につけている“金星”と“雷”の勲章を見ると、「おぉ、あなたが噂の…」とにこやかになる。
リリアの胸元を食い入るように見る男共もいやらしいが、勲章を見て態度を変える男共もいやらしい… 結局男なんて所詮いやらしい連中と思うリリア。

兵士達の列が広場を横切り始めた。武勇の象徴でもある勇者リリアは太守の隣に座り、観覧席から兵士達を見守る。馬、人、王家のバナー、連隊旗、家紋…
兵士達は観覧席の直線に来ると、号令とともに武器を掲げ、こちらを見上げて敬意を表して過ぎていく。
軍楽隊が勇ましく音楽を奏で、民衆が騒いで見送るのかと思っていたら、静かに単調な鼓笛の音がしているだけ、大衆も静かに見守り、粛々と馬蹄、ブーツ、鎧の音が過ぎていく。
家族か恋人だろうか?隊列に寄って、兵士に声をかけ、何かを渡しているのが見える。
子供を抱き、涙ながら夫を見送る妻と、母親の胸の中で口を結んで列を眺める子供と。
大勢が通りに出て見送るが、案外静かなことに悲壮感がある。

リリアは椅子から身を乗り出して、ハシェックの姿を探す。兵士は鎧を着ているので、ここからでは誰が誰やら…
リリアはハシェックが時々身に着けていた鎧と紋章の記憶が頼り。本当はこんなところに座っていないで通りで彼を待ちたいが、そうもいかない。
“昨日、もうちょっと引き留めるべきだったか?いや、男から引き留めてくれるべきではないか?”
“結局一回もベッドを共にしなかったけど、昨日は押し倒してでも寝るべきだったか?いや、やっぱり男からちょっと強引さも欲しい気が…”
“あたし、あの人の事を本当はどう思ってたのかな?”
よく分からないけど、パっと寝て終わりという気持ちでは無かったのは確かだ…
色々考えながら、隊列を眺めていたせいか
「勇者殿、何か…」太守に声をかけられた。白い眉毛に立派な白髭の紳士。
「いえ…」小さく答えて椅子に深く座りなおすリリアだが、気持ちは通りを追っている。

一体、ハシェックはどこなのだろうか?もう通り過ぎたのか?まだまだどこかに隠れているのだろうか?誰でも彼でもハシェックに見えるし、どいつもこいつも彼には似ていないようにも見える。話せないけど、せめて見つけて見送りたい… イライラする気分。

“… あ! あれだ!”
ハシェックの着けていた紋章と同じ模様の連隊旗が行進して来た。きっとあの中だ。リリアは思わず腰を浮かして、隊列を凝視する。
「… 勇者殿… 勇者殿… リリア殿」太守がリリアに声をかける。
「…………  あ、はい、太守」気もそぞろな返事。
「どなたか、おられるなら、通りまで出て、見送って差し上げなさい」しわの多い声がはっきりと言う。
「……… 太守、ありがとう、あたし行くわ」リリアは一も二も無く弾かれたように立ち上がった。


“あ!あれだ!あそこだ!”
リリアはハシェックの馬上の後ろ姿を見つけ、群衆をかき分けて追いすがる。
建物を出るのに手間取っていたら、隊列は広場を抜けて、門の近くまで来ていた。
広場を過ぎたら、別れを惜しむ群衆でなかなか列に追いつけない。
身内や知り合いが別れを惜しんで、列に群がる。
「ハッシュ、ハッシュ! ハシェック!」ハシェックの馬にようやく追いつき、鈍く光る甲冑の足に手をかける。
「お!リリア、会えたな!」馬上から見下ろすハシェック。目が笑っている。
「ちょっと、何よ、もうちょっと喜んでみせなさいよ!」
「あぁ、今俺は嬉しくてしゃぁない」と一本調子で答えてみせて、うっふっふと笑う。
「あなた、男でしょ、昨日は引き留めなさいよ」
リリアはハシェックに会って何と声をかけたものか分からなかったが、二番目に素直な言葉が出て来た。
「そうだな、そうするべきだった。次からはそうする」
手を差し伸べて来た。群衆をかき分けながら、その手を握り返すリリア。
とにかく人をかき分けて、手を握って追いかけたが、城門近くまで来てしまった。
衛兵が守り、群衆は足止め、ここまでだ、兵士達は門から出陣していく。
「あなた、ちゃんと帰って来るんでしょうねぇ」リリアが呼ぶ。
「俺、迷子になった事ないよ」笑って答えながら去って行った。

リリアは馬上の姿を見送る。仕事に、席に戻らないと…
「おい!お前こんな場所に鎧着て来るんじゃねぇよ」誰かに乱暴に突き飛ばされたが、リリアはずっとハシェックを目で追っていた。
城壁には鳩もお見送りに来ていた。
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