勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【41.5話】 リリアと魔物使い ※ルーダ港を出る前の話し※

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リリアは魔物使いの男冒険者ドラーグと一緒にルーダ港からルーダ・コートまで歩いている。正確にはドラーグが連れているコドモ・ドラゴンの子供と一緒なので二人と一匹。
リリアは珍しく自分より年下の冒険者に会った。どうやらドラーグは魔物に好かれ、飼い慣らせる体質の持ち主。他の地方から船でルーダ港に来て、親戚を頼ってルーダリア王国まで行くらしい。とりあえずリリアとルーダ・コートまで一緒の旅。コドモ・ドラゴンの子供を連れているので馬車に乗れない。将来的にはコドモ・ドラゴンも飛べるようになるが、今のところは背中に可愛らしい翼があるだけでまだ飛べない。
リリアとドラーグが会ったのはルーダ港の商業区、屋台が並ぶ市場でのこと。

リリアが買い物を済ませ市場を歩いている時だった、ドラゴンの子を連れた旅装備の若い男がお店ともめている。魔物使い?… 珍しい、連れているのはドラゴンの子?
リリアが珍しく思い眺めていると、何やら店ともめている、と言うか困っている様子。
どうやら所有者の男の子がちょっと目を放した隙にドラゴンが店頭に積まれていたスイカ等を食い散らかしたらしい。店は当然支払いを請求するし、本人は持ち合わせが無い…っと。

「事情はなんとなくわかった。失礼だけど、あたしが立て替えてもいいわよ」リリアが買って出る。これも困っている国民を助ける事の一つ。
リリアはちょっと経済的に余裕があるのよ… あ!でも、狩り装備を新調したいし、旅行にも行きたい。いや、良く考えたら剣も新しくしたいし… まぁ、とりあえずこの場はリリアが何とかしましょう。
「あの、全部でおいくら?」澄まし顔でお財布を取り出すリリア。
「へい、150万Gになりやす… なんて、150G」
出た、八百屋ジョーク、どうせおつりは20万Gとかなんでしょ。
「って、150G?!高すぎない?スイカを20個とかでしょ?せいぜい40G程度でしょ!」ぼったくりだ!これは誰でも出し渋る。
「お嬢ちゃん、スイカ30個とクーラシキからの特産ピーチと巨峰、ミーヤ・ザーキのマンゴー、高いんだよ」言いながら店頭を指さす店主。見るとドラゴンは引き続き食い荒らし回っている。ちょっと飼い主、その食いしん坊を何とかしなさいよ!
「…… ちょっと、とりあえずお金引き出してくるから… あんたも、そのドラゴンの口を縛りあげときなさいよ!リリアは150G以上出しませんからね!」


そんなわけで、リリア達はルーダ・コートまで歩く。
草原が心地よいし、最近食生活が豊かになったリリアの、ワールドカップなお胸を残しつつ、Bカップになってきたお腹を引っ込ますにはちょうど良い。
聞くとドラーグはコドモ・ドラゴンが大きくなったら、伝書ドラゴンか遊覧観光飛行ドラゴン士として就職したいらしい。
需要は高いが供給が少なく将来有望株だ。
“150Gを130Gに負けさせたとは言え、痛い出費だとは思ったけど、ドラーグと仲良くしていたら将来元は取れそうね… リリアちゃんってば遊覧飛行第一号客に無料でご招待”見知らぬ相手に130Gは大きかったけど、これなら先行投資としてお釣りがくるはず、リリアは密かにニコニコしている。
和やかにおしゃべりを楽しみながら歩くリリアとドラーグ。見るとドラゴンはしょっちゅう何か食っている。維持費が凄そう、有望な将来が来る前に悲惨な現在に陥りそう…
その時だった、リリアの六感が気配を捉えた。
「… ッシ」リリアが指を唇に当て、弓と矢を手にすると同時に、離れた茂みから何か二匹の動物の影が走り出て来た。サーベルタイガーだ!


「ありがとうございました。冒険者リリア殿、それではサーベルタイガー二匹とスライム5匹を退治したと報告しておきます」巡回の衛兵達がリリアに冒険者登録書を返しながらお礼を言う。
「ちょっと、言いたかないけど、もうちょっと巡回の回数増やしなさいよ。あたし一人でこれ二匹よ!お昼ご飯前に、こっちがお昼ご飯にされかけたのよ!」空になったポーションの瓶を草むらに放りながらリリアは言う。ドラーグもドラゴンも頼りにならないし、苦戦しながらほぼ一人で二匹のサーベルタイガーを退治したところだ。倒したところに衛兵共が来やがって、どこかで倒すまで見物してたんじゃないだろうか?
「… それでは巡回を続けます。お二人とご一匹様に神のご加護を… あ、それから瓶のポイ捨てはルーダリ環境保護法令に抵触するので拾っておいてください。では」と言うと衛兵は隊列を整えて去って行く。言っている事は正しいけど… なんか腹立たしい。

「… どうしたのドラーグ… 先を急ぐわよ」リリアが促す、ドラーグは先ほど倒したスライムとサーベルタイガーを見つめている。
「スライムとサーベルタイガーが仲間にして欲しそうにこっちを見ている…」ドラーグが呟く。
リリアが見ると… スライムはべちゃっとして地面に溶け込みそうになっている。そもそも顔が無い連中だ。いったいどう判断しているのか?
サーベルタイガーだって、流血おびただしくひっくり返っている。刺さった矢が痛々しい。
“何言ってんだこいつ。薬でもやってるやべぇ奴だったか?気は確かか?”リリアが思っていると、
「よし、サーベルタイガーAは仲間にする!お前の名前はサベオだ」ドラーグがそう言うと、サーベルタイガー… A… と、思われるやつは、スクっと立ち上がった。
見ると傷も治り、矢も消えている。
“やべぇ!すげぇ!意味わかんねぇ!なんか気がおかしくなりそう”サベオは嬉しそう… かな?… わからない…


リリア、ドラーグと2匹の魔物が連れ立って歩く。
リリアがスライムは仲間にしなかったのか?と聞くと
「あぁ、スライムは… サーベルタイガーは大きくなるので、乗虎出来るし、陸空の運送業を押さえられるから」と、しっかりしているのかどうかわからないドラーグの答え。
「… ねぇ、サベオってさっきより小さくなってない?」リリアが聞く。戦った時より明らかに小さい気がする。
「あれ?知らないの?強敵でも仲間にした途端ステータスがダダ下がりなんだよ」事も無げに答えるドラーグ。
「…… 世の中不思議な事が多いわねぇ… 物理系のリリアには理解不能」リリアは呟きながらトツトツと歩いていく。
見ると、ドラゴンもサーベルタイガーもメッチャ良く食べている。彼らが野良魔物に返らない事を祈る。
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