勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【41話】 家屋の占有者

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秋に入り、収穫祭時期前後になるとアルケミスト達からの依頼が急増する。
野山の薬草、タネ、実等の採取と、それに伴い木材等の切り出しや、危険な場所にある果実の収穫と護衛等の仕事の供給が増える。

ギルドに戻ったリリアにはペコが学校のアルケミスト課の薬草採取キャンプの護衛仕事を推薦した。ペコが言うには野生の中で昼夜、生徒、馬車、と拠点をパーティーと連携して保護するリリアの勉強にはうってつけの仕事らしい。
山中に木造屋等があり木こり、採取者等が使用できるようになっているのだが、あまり山奥深くなると、この時期にしか使われず、熊等が住民になっていたり、賊が身を隠していたりする。リリア達は生徒達が行く数日前に現地に行き、安全の確保をする。リリアを含め3人のパーティーメンバーはルーダ・コートを出発して、山中にある家屋の安全確保に来た…


リリア達は家屋付近まで来たが、そこから離れた場所でミーティングしていた。
「あれは、クリエイトされた死霊の騎士ですね。家屋の囲い内に確認出来ただけでも6体。恐らく賊ではないでしょう、どこかをBANされた魔法使い、黒い魔術師、人さらい等の裏稼業者」リーダーの弓使いエルフ、クルネが言う。
「死霊系か… 何人潜んでいるかわからんが、物理系を前に置いて、自分達は魔法か術… やっかいだな。家屋が4棟、ボロいが柵がある、ちょっとした拠点だな」剣盾の男ジギンが補足する。
「そう、まさしくそれ、リリアもそう思った」リリアはもっともらしく頷く。
「相手は経済力があると思った方が良いですね、魔法のイヤリングでの通信は控えましょう」クルネ。
「とりあえず、相手は前衛を置いたことで安心しているようだ。まずは相手の戦力を把握しよう」ジギン。
「そう、相手を知れば自ずと百戦錬磨」リリアはコクコク頷く。
「幸いまだ、時間はあります。散開して、相手の人数等を把握しましょう。今日、日が落ちる前までは観察。今日はひとまず山中か下山してキャンプだと思っていてください。とにかく、今日、突入は無いです。屋外での戦闘も今日は避けてください」慎重な意見、クルネ。
「厩から離れた大きめの家屋がメインか?… 俺はそちら側に回って見張る。普段からこれだけの死霊を置いているんだから、単独の可能性もあるかもな… とにかく術士本人は用心深いやつで、ウロウロ出てくるとは思えない。注意深く見張ろう」ジギンの意見。
「人事を尽くして天命を待つ、まさにこれね」リリアの意見。


川辺から少し離れた場所でテントを張って食事をするリリア達三人。家屋がある場所から離れた場所でキャンプを決定、辺りはすっかり暗いが月明りとキャンプファイヤーがある。今日はリリアお手製の白身魚と野菜のスープとパン。もっとも生徒達が来るまでのしのぎのような準備なので、保存食をお湯で戻したような食事。
「結局、本人達は一歩も家屋から出てきませんでしたね」クルネが言う。
「そうだな、柵の中は死霊の騎士が6体、家屋の中にも何かいると考えた方がいいだろう」ジギン。
「明日は夜明け前から見張りましょう、水を汲んだり、顔を出す可能性が高いです。午前中いっぱいまで観察です」
「あれって国の所有でしょ?とりあえず死霊の騎士だけでも片づけちゃダメなの?」リリアの質問。
「まあ、今回、学校関係なので我々も国から雇われているようなものなのですが、本来相手も分からないのに勝手に掃除できません。相手が犯罪者を前提に話をしていますが、実は事情のある一般市民、要救助者の可能性もゼロではないのです。このような場合はなるべく事情を説明して、自分の意思で退去してもらうのが後で問題がないです」クルネが説明する。
「死霊を6体なんて、どう考えても善良な市民の可能性は低いけどな」ジギンが笑う。
「でも、実際に確認出来るまでは手出しできないんでしょ?どうするの?」リリアが聞く。以外に複雑だけど、確かに相手も見定めず誰でもかれでも掃討していたら賊と変わらない。
手違いで善良な一般人を倒したら殺人や傷害になってしまう。
「一つは衛兵を呼ぶとか、国の保安部の人間に立ち会ってもらう。安全で確実。でも、ややこしいし時間がかかるのですよ。今回は幸い学校の依頼ということで国の依頼と言えます。国の所有する土地の使用権を回復する大義名分があります。明日、午前中いっぱいで中の人間の確認が取れない場合は柵の入り口から入り、死霊の騎士から攻撃を受け次第掃討します。その間にも主が現れないのであれば、ジギンが部屋のドアをノック、私とリリアでバックアップ。ちょっとジギンには危険だけど、よろしくね」クルネの作戦、たぶんこれが最良なのだろう。
「前衛は任されたが、俺は短気なんで中の人間は確認より殲滅を優先させてもらうぜ。先手必勝だ」ジギンが言う。最も危険な役なので当然の意見だ。
「… いいでしょう。死霊の騎士で攻撃させている時点で、不法占有と魔法、施術等による違法な命令、国の土地内で死霊系統を使用する時点でアンデット法令関係の違法と言えます。でも、相手が病気だったり、攻撃の意思が感じられない場合は様子をみましょう」
「あぁ… いいだろう。それでいこう」


明日の作戦は決まった。あの様子では占有者はまともそうではない。リリアも覚悟しておかないと… リリアは人を射るのに未だに少し抵抗がある…
「色々知らないと… リーダーって大変なのね」リリアは感心する。
「とんでもねぇ、リーダーだったらパーティー全員犯罪者になるぜ。もっとも皆、死人に口なしにしちまうけどな。俺はリーダーなんてやりかぁないねぇ」ジギンが笑いながら続ける。
「…にしても、このスープの味はなんだぁ?塩味しかしねぇじゃねぇか」
「リリアのお家のおふくろの味よ」リリアがすまして言う。
「… 貧しい家庭だったんだなぁ」ジギンが笑う。
「ほっといてよ」リリアも笑う。
森の中でフクロウは感心しているようだった。
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