勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【30.5話】 キリン ※過去の話し※

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「母さん、キリンって見たことある?」本を片手にリリアがメルの側に来た。
今朝、山で赤い鱗の大きいトカゲを見たリリアはお昼を済ませると山に出かけずに、動物や魔物を紹介している本を開いてトカゲの種類を調べていた。文字を少し習っているが、文章は半分も読めない。絵を見てメルに質問しようと思ったが、目的のトカゲは本には載っておらず、別に一際目立つ動物の絵を見つけた。
長い脚、長い首、斑点模様、首が長い馬と言ったところ。動物か幻獣か魔物かさえもわからない。名前がキリンと言うことだけはわかる。

「母さん、キリンって見たことある?」薬草作りをするメルの隣に座る。
「キリンかい?キリンは首が長い馬だよ」手を休めず答えるメル。
「馬なの?じゃ動物だね」
「形からすると馬だね。首の長い馬」メルは言い切る。リリアはさすが母さんと感心している。
「こんなに首が長かったら、乗っても前が見えにくいね… 村の入り口入れるかしら?…」
「大丈夫、それなりなんだよ」メルは答える。
「…… でも、この首で入り口通れる大きさなら胴はかなり低い位置よ」絵から想像するとつじつまが合わない気がする。
「リリア、それは絵だよ」忙しそうなメル。
「母さんキリン見たことあるの?」リリアは片手間っぽい感じが不満だ。
「…キリンは見たことないけど、イメージはつくよ」
「………ねぇ、母さんちゃんと本読んでよ。本には木の高い所の葉を食べるって書いてあるみたいよ」リリアは強く言う、何だ母さん適当じゃない。
「そんなに背が高い馬なのかい?どれどれ…」


メルから本で読んだ内容を教えてもらい、リリアはようやく満足する知識を得られた。
字が読める母さんは凄い、さっきの適当さを帳消ししてあげる。
どうやら、キリンとは足だけでも家の天井くらい長く、ジャイアントの頭の位置と同じくらいの位置にキリンの頭もあるという。そうとう高いぞ。
一生寝ころぶことは少なく、寝る時、出産の時でさえ立っているらしい。
強靭な肉体と精神力。百獣の王ライオンより強いとか…
百獣の中の百種類に入らないのか…
考えてみれば、リリアの村の周りにもすでに百種類くらいは動物がいる。
ライオン、実は口ほどにもないやつか?… 百獣程度の頂点で王を語るなんて井の中の蛙もいいとこだ、ちゃんちゃらおかしい。

“立ったまま寝るってすごくない?…”リリアは驚くが、よく考えたら、自分がキリンでも寝っ転がらない。寝ている間に首とか踏まれるかと思うとオチオチ寝ていられないだろう。
そして最も驚愕は出産も立ったまま。リリアは馬の出産も人間の出産も見たことあるが、想像するとこれは生まれていきなり天井の高さから味わう落下感と衝撃。生まれた瞬間に試練が待っている波乱万丈な人生の幕開け。
例えるなら母親のお腹の中で、「さぁ、これから人生が始まりますよ!ようい!ドン!」っと神様に告げられた瞬間、屋根の高さからドスン!っと一度地面に叩きつけれてから人生出発。
双六なら、初手が強制一ゾロでいきなりの欄外みたいな感じになるのだろうか…
リリアでは耐えられないだろう、身震いする。いや、こうとわかっていれば、リリアならお腹から出たくない。必死に胎盤とへその緒につかまって抵抗するはず。メルがもしリリアにこんな事をしでかしたら、確実にリリアはグレる。選択肢無しの義務的バンジージャンプ、ライオンに勝てる連中ともなるとやることが違う


「母さん、リリアは人間の子でよかったよ」リリアは今の想像を説明する。
「………だけどリリア、人間のへその緒はそんなに長くないから落ちる前にブラブラするよ」ひとしきりリリアの説明を聞いてから答えるメル。
「そね、言われてみれば人間なら落っこちないのね」
さすが母さんだ、やっぱり考えることが深い、リリアは尊敬の眼差しを母に送る。

「リリア!山に行かないなら遊びにいこうぜ!」
誰かがリリアを呼びに来た。
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