勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【18話】 フォート・ランカシム

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リリアはギルドから派兵されて傭兵として、ランカシム砦にいる。
砦を出たところで、兵士達と一緒に弓の腕を競っていたところだ。リリアが砦に来てから2週間ほど経つが、小競り合いがあったものの大きな戦闘が無く、毎日演習と個人技大会のような感じだ。どちらかというと緊張感の無い戦場。
「弓の腕なら正規兵よりお前が上じゃないか?」兵士達が言うのをリリアはちょっと得意そうな表情で聞きながら、敵の砦を眺めている。

ランカシム砦のすぐ近くに相手のイリオフ砦が建っている。見かけ上規模はほぼ同じくらいの砦のようだ。ランカシム砦の見張り塔に立って眺めると、左手に海があり、ランカシムとイリオフ砦の間は小さな入り江状の地形をしていて、小さいながら砂浜があり、砂浜から陸側はさほど距離無く崖になっている。双方砦は入り江の両側、岬のような場所に建てられていて、海を横切って直線距離なら軍馬の全速力で5分とかからないのじゃないだろうか?
もちろん、砦にたどり着くには、入り江の地形を崖沿いに迂回しないといけない。

二つの砦の間で緊張感が高まり増員を求むということで、リリアを含め多くの兵士がこのランカシム砦に送られたが、あまり緊張感はない。むしろ元々いた兵士達は
「あんたら何しに来たの?」的な感じだ。どうやら、軍にもアランみたいなやつがいて、物資の欲しさに適当な報告書を出しているようだ。
ただ、こちらの増員を見て相手も増員しているらしく、相手が増員すればこちらも増員するイタチごっことなっていて、もう両軍兵士が砦に入りきれず、砦の外で野営している。
物資だけは無駄にいっぱい届いているようだ。
何にせよ、気楽に給料をもらえる現状ならリリアは問題ない。

そのリリアはというと…
これが結構楽しくやっている。

まず派兵されて、戦いから遠ざかるとなるとたいてい傭兵達の腕自慢大会になる。
リリアのアーチャーとしての存在感は兵士達の一目置くところとなり、すぐに弓兵隊に編入された。
リリアは食事時、酒の場ともなれば、ユーモアも通じ、愛想もある程度良い。また、歯に衣を着せず言いたいことを言ってのけるのも面白く兵士達には評判が良い。
もともと女兵士は割合が少ない上、リリアはなかなか上玉で、男性好きする体型の持ち主。長身にポニーテールが目立ち、どこにいても
「弓の凄い巨乳はあいつだ」と話題になる。
もっとも、リリアは上手に口説かれると夜を共にするクセがあるので、異性同性、リリアの周りではちょっとしたいざこざが絶えない。リリア本人は
「1回寝たくらいで付き合ってる気になるなんて冗談でしょ?」くらいにしか思っていないようだ。
噂ではしつこく言い寄る男に
「一晩くらいで彼氏面しないでよ!女の体は水浴びしたら新品に戻るのよ!」っと怒鳴って追い返したとかそうでないとか…
とにかくリリアはどこまでも自由。

「おい!リリア!そろそろ引き上げるぞ!」後ろから誰かがリリアを呼んだ。
リリアは黙って矢を拾い集めている。兵士達は練習射撃の矢をたいてい放置するのだ。多分自分で買わないからだろう。軍で使っている矢は街でリリアが買うには高級品だ。まだまだ使えるのに朽ちさせるのはもったいない。リリアは出来るだけ拾って帰るようにしている。

弓兵隊の練習には広い場所が必要。リリア達は砦からもっとも遠い場所で練習をしているのだ。その分相手の砦と近く、同じ理由で相手弓兵の練習場から近くなる。
最近リリアがまめに矢を拾うので、だいぶ矢も回収出来てきた。後少し、後少しと思いながら拾い上げていくうちに、だいぶ相手弓兵達に近づいていた。


リリアが拾う矢に見たことのない矢が混ざり始めた。
「これ、相手のか」
こちらの矢より、少し短めで軽い。狙いやすさ重視か、今度射くらべてみよう。そんな事を思いながら、矢を拾い集めていると後ろで声がした。

「リリア、危ない!射られるぞ!」
リリアは顔を上げた。
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