子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!

屋月 トム伽

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あと少し

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「……何だったのでしょうか? あれは」
「ほっとけ」

眉間にシワを寄せてウィルオール殿下たちが去っていくのをリクハルド様が見つめていた。

「俺たちも向こうへ行こう」

何が何だかわからないままで、リクハルド様とその場を離れた。
ウィルオール殿下が去っていく時にリクハルド様に頷いたのは、来てくれという意味だと思うけど……。そう思いながら、ちらりとリクハルド様を見上げた。

「リクハルド様。ウィルオール殿下がお呼びでは?」
「知っている」
「行かなくていいのですか?」
「一人壁の花にでもなるつもりか?」
「いつものことですから、馴れてますよ?」
「そんなことに馴れる必要はない」

だからといって、この笑わない伯爵様と一緒に壁に立ってろと?
一人で立っていても同じ気がする。

困ったなぁ、と俯けばドレスが目に入る。窓辺に来たせいで、ドレスの裾が少しだけ影を差した。そこがキラリと光った。

「どうした?」
「リクハルド様。ドレスが少しだけ光りました」

気のせいかな? と思いながら、ドレスを持った。そう言えば、夜会に来た時も光ったように見えた。

「ああ、その銀糸を見たことがなかったのか?」
「珍しい銀糸ですよね。青地が混じった銀糸なんて見たことないです」
「稀少な物だからな……そうだな。キーラ。こちらに」

おもむろにリクハルド様が私を連れて大窓から、庭へと連れて行くと驚いた。

ドレスが幻想的に光り始めたのだ。

「まさか……この銀糸の青地は魔水晶?」
「気づいたか。銀糸を織り込む時に、砕いた魔水晶を混ぜているのだ。邸を出るときに気付かなかったのか? もう暗かったから、気づくと思うが? 特に、月の光に反応するのだ」
「そうですね……」

シリル様の母上のことで、まったく周りを見ていなかった。リクハルド様も妙に優しいし……でも。

「リクハルド様。見てください」

ゆっくりと、くるりと回る。すると、ドレスから幻想的な光が揺らめいた。

「綺麗だ……」
「はい。とっても綺麗ですよね」

リクハルド様がドレスを広げて回る私を見て、息をのんで言った。すると、彼が近づいてきて私の手を取った。

「リクハルド様?」
「本当に綺麗だよ。キーラ」
「……はい。ドレスをありがとうございました。でも、良かったのでしょうか?」
「何がだ?」
「私のドレスが、今夜の夜会で一番豪華な気がするのですが……」

エレイン様を差し置いて、招待客が一番高価で稀少なドレスは相応しくない。普通なら、ウィルオール殿下の婚約者が一番のドレスを身につけるはずだ。

ああ、だからこの銀糸の価値はわからなくても、エレイン様は不機嫌になったのだ。銀糸のことを差し引いても、誰が見ても素敵なドレス。しかも、ラッキージンクス扱いの婚約破棄女と言われた私が、こんなに素敵なドレスをまとってきたのだ。

さぞや、プライドの傷ついたことだろう。
でも、リクハルド様は、気にもしない。

「いい。俺が、キーラに贈りたいと思ったドレスだ」

リクハルド様が私の手に触れたまま、そっと唇を寄せて言う。思わず、頬が紅潮してしまう。

夜会会場の庭で二人、リクハルド様と向かい合って寄り添っている。額と額が触れる。ほんの少しだけ顔をあげようとすれば、リクハルド様の顔が近づいてきた。

「……リクハルド様?」

もう少しで、お互いの唇が触れそうになると誰かにリクハルド様の名前を呼ばれた。思わず、お互いにぴたりと止まった。

「ルミエル……」

声の主に振り向けば、令嬢がいた。肩ほどの髪。毛先を巻いた令嬢が、リクハルド様の様子に驚いている。

「何か?」
「今夜来るとお伺いしたので……」
「悪いが、婚約者といる。遠慮してくれないか?」

リクハルド様を見上げれば、邪魔されて怒っているようにも見えた。

「で、でも、セアラのことで、お話があると手紙を出していたはずです」
「……」

見上げれば、私の視線に気づいたのか、リクハルド様が彼女を紹介した。

「キーラ。こちらは、ルミエル・ハーコート子爵令嬢だ。ルミエル。彼女が婚約者のキーラ・ナイトミュラー男爵令嬢だ」
「初めまして。ルミエル様。キーラ・ナイトミュラーと申します」

お互いにお辞儀をして挨拶を交わす。だけど、ルミエル様は、リクハルド様の前婚約者の名前を出した。
セアラ・シンクレアを呼び捨てなんて、友人なのではないだろうか。今も、神妙な表情で立っている。

「……キーラ。少し席を外す」
「そうですか……」

よほど大事な話だから、一緒に来てほしくないのだろう。私はセアラ・シンクレアのことに部外者なのだ。なんだが、シリル様が母親を慕うように肖像画を見つめていたことが頭をよぎった。

セアラ様のお名前が出るということは、シリル様に関係がある話だ。そこに、私は必要がないのだと思うと、寂しい気持ちでリクハルド様を見上げた。しかしながら、リクハルド様の表情に驚いた。

「リクハルド様……なんですか。その嫌そうな顔は」
「別に……」

リクハルド様から不貞腐れた雰囲気を感じると、彼が私の腰に手を回してくる。思わず、どきりとした。先ほどはもう少しでキスをしそうになっていた。あんなに、人に近づいたことはなくて、恥ずかしさがこみ上げてくる。

すると、ルイーズ様がいた時の朝のように、彼が私の頬にそっと口付けをした。

「リクハルド様……っ」
「あとで、迎えに行くが……控え室でも用意させるか?」

上ずりそうな声を飲み込んで頬を押さえたままで首を左右に振った。早く、リクハルド様がいない間に火照った顔を鎮めたい。

「大丈夫か? 顔が赤い」
「だ、大丈夫です。少し休みますので、どうぞ私のことはお気遣いなく」
「疲れているようには見えないが?」

いつも元気ですみませんね、と言いたくなる。

「で、でも、顔が熱くて……っ」
「ああ、そういうことか……」

やっと休みたい理由を察したリクハルド様が、口元を隠して顔を背けた。彼の目の下が少しだけ紅潮した。
しかも、もう少しでキスをしそうになったのを、ルミエル様に見られていた。そして、頬にキスをされた。ますます恥ずかしくて、両手で頬を押さえた。

「では、あとで迎えに行く」
「はい……一人で帰りませんので……来てくださいね」
「約束する」

そっとリクハルド様を見上げれば、赤ら顔になっている私の頬をそっと撫でた。

そうして、リクハルド様とルミエル様が二人で並んで去って行く後ろ姿を複雑な気持ちで見ていた。






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