子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!

屋月 トム伽

文字の大きさ
上 下
24 / 29

冷静と嘲笑の間に

しおりを挟む

「……頬っぺたが熱かったのに……」

二人で並んで歩いて行った。ルイーズ様には見向きもしなかったのに……何だか複雑だった。
話はシリル様の母親のこと。シリル様のことに私は無関係なのだろう。

顔を上げれば、シリル様と同じ髪色の男性が女性の腰に手を回して歓談している。

(シリル様も大きくなれば、きっとあんな風な髪色になるのでしょうね……シリル様の方が背も高く顔も良さそうですけど)

なんだが寂しくて、ぼうっとして見ていた。すると、男性が私の視線に気づいた。

「キーラ……!?」
「……はい。どなたでしょうか?」

シリル様のことで頭がいっぱいで男性の顔など認識していなかった。

「いやですわ。キーラ様。ジェレミー様をここまで追いかけて来られては困りますわ」
「ジェレミー……?」

誰であっただろうと思い出していると、目の前の二人はくすくすっと笑っていた。

「ああ、思い出しましたわ。婚約破棄の慰謝料を払わずに別れた貧乏な令息ですわね」
「誰が貧乏だ! 我が家は立派な侯爵家だ! 伯爵令嬢の分際で何を言う!!」
「あなたよりもおこずかいは持ってましてよ?」
「我が家の家格と、資産に比べればこずかいなど比べ物にもならん」
「家で張り合っても……あなたは、爵位を継いでないですし……」
「どうせすぐに継ぐことになる。俺が後継者だからな」

後継者と言っても、ジェレミー様は次男だった。でも、長男が若く他界したために彼が爵位を継ぐことになるらしい。そのせいで、とっても偉そうだ。

「それはよかったですね。せいぜい潰さないように頑張ればよろしいのではなくて?」
「……っ!?」

私はおこずかい戦争をしに来たのではないのだ。別れた男などどうでもいい。悔いが残るのは一つ。慰謝料を払われなかったことだけ。

「はぁーー」

シリル様のずっと一緒にいたい。あわよくば、母親にもなりたかった。それも、無理な気がしている。落ち込んだ時に現れないで欲しい。しかも、シリル様と同じ髪色。そのせいで、シリル様を思い浮かべてこんな男を見つめることになってしまっている。

思わず、ため息を吐いた。

「その態度は治らないのか! いつもいつもっ……」
「あなたの態度が不愉快だからです。だいたいもう別れているのですよ? 私がどこで何をしようと関係ないのでは?」
「では、なぜ私を見ていた。まさか、私を追いかけてきたのではあるまいな」
「そんなわけないでしょう……私は一度たりとも別れた婚約者とやり直したいなど思ったことはありません」

見ていたのは、シリル様と同じ髪色だったからだ。はぁ、同じ髪色に不愉快で、丸坊主にしてやりたい。

「では、新しい婚約者探しか? だが、無理だぞ。ふしだらな令嬢に縁談など来るものか」

ハッ! とジェレミー様が笑う。

「それとも、このヘイスティング侯爵家の妾にでもなりたいのか? それなら、考慮してやってもいい。お前は魔力も高く、顔はいいからな」

ジェレミー様が私の顎を掴むように手を添えて言う。ジェレミー様の婚約者は「ちょっとっ……!」と言って、妾発言に眉根を寄せた。

「……私に、許可なく触らないで」
「お高くとまる必要があるか? 今さら誰がお前を相手する。下男でも相手にするか? ふしだらな令嬢の純潔など怪しいものだ。侯爵家の力で婚約中の不貞で娼館送りにしてもいいのだぞ。庇ってくれる父親はいないしな」

侮蔑を込めた嘲笑に苛ついた。空気がピリッとした。

止めを刺して城の外壁にぶら下げてやる。

そう思い魔法を使おうとした瞬間、肩を引き寄せられた。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?

朱音ゆうひ
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!  「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」 王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。 不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。 もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた? 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。

しあ
恋愛
目が覚めるとお腹が痛い! 声が出せないくらいの激痛。 この痛み、覚えがある…! 「ルビア様、赤ちゃんに酸素を送るためにゆっくり呼吸をしてください!もうすぐですよ!」 やっぱり! 忘れてたけど、お産の痛みだ! だけどどうして…? 私はもう子供が産めないからだだったのに…。 そんなことより、赤ちゃんを無事に産まないと! 指示に従ってやっと生まれた赤ちゃんはすごく可愛い。だけど、どう見ても日本人じゃない。 どうやら私は、わがままで嫌われ者の皇后に憑依転生したようです。だけど、赤ちゃんをお世話するのに忙しいので、構ってもらわなくて結構です。 なのに、どうして私を嫌ってる皇帝が部屋に訪れてくるんですか!?しかも毎回イラッとするとこを言ってくるし…。 本当になんなの!?あなたに構っている時間なんてないんですけど! ※視点がちょくちょく変わります。 ガバガバ設定、なんちゃって知識で書いてます。 エールを送って下さりありがとうございました!

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました

柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」  結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。 「……ああ、お前の好きにしろ」  婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。  ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。  いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。  そのはず、だったのだが……?  離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。 ※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。

追放された悪役令嬢は辺境にて隠し子を養育する

3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ)
恋愛
 婚約者である王太子からの突然の断罪!  それは自分の婚約者を奪おうとする義妹に嫉妬してイジメをしていたエステルを糾弾するものだった。  しかしこれは義妹に仕組まれた罠であったのだ。  味方のいないエステルは理不尽にも王城の敷地の端にある粗末な離れへと幽閉される。 「あぁ……。私は一生涯ここから出ることは叶わず、この場所で独り朽ち果ててしまうのね」  エステルは絶望の中で高い塀からのぞく狭い空を見上げた。  そこでの生活も数ヵ月が経って落ち着いてきた頃に突然の来訪者が。 「お姉様。ここから出してさし上げましょうか? そのかわり……」  義妹はエステルに悪魔の様な契約を押し付けようとしてくるのであった。

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

処理中です...