超高級会員制レンタルクラブ・『普通男子を愛でる会。』

Q矢(Q.➽)

文字の大きさ
29 / 101

29 昔だったら王道設定

しおりを挟む


こんな暑い日でも川の上を通過してくる風はそれなりに涼しい。

「風があるの助かるよね。良かった。」

そう言って、汗で額に張り付いた前髪を掻き上げたミズキの額が露わになる。意外にもつるんと滑らかな秀でた額だ。厚めのレンズが嵌め込まれたメガネのせいか目が小さく見えていたのに、今こうして横顔で見るといやに上下共に睫毛が長く瞳も大きく見える。そんな事も、額の綺麗さも、対面で話してる時にはわからなかった。

(……なるほど、そういう事か…。)

何か違和感の正体がわかってきた気がした。
かといって、確信を得たいという自己満足でしかない理由の為だけに勝手に他人のメガネに触れる訳にもいかないので、俺はややミズキとの間の距離を詰めて観察する事にした。

鼻は高過ぎず低過ぎず。唇は薄く。顔の輪郭も整っていて小さい。髪は色素の薄い猫毛っぽくてふわふわしているけど、それを長く伸ばして野暮ったくしてるのはわざとだろうか。とにかくその前髪とメガネを除いてしまえば、店の他のキャスト達からは浮いてしまうのは間違いないだろうな…。
俺はそう思いながらジロジロとミズキを至近距離で見つめた。
だが、急にそんな事をされるとミズキだって戸惑う訳で。

「…ユイ君、どうしたの?あ、天むす要る?」

自分の残りの天むすを勧めて来るミズキ。俺が意図的に詰めた距離に、心做しか体が引いてる気がする。


「いや、大丈夫。」

俺は小さく首を振った。
ありがたいけど、俺はおにぎりに入ったしんなりした天ぷらはあんまり好きじゃないのだ。天ぷらは天ぷらで食いたい派。

…じゃなくて。

俺は率直な感想をぶつけてみる事にした。

「ミズキってさ。」

「うん?」

「結構美形じゃねえ?」

「…え?」

こちらに顔を向けたミズキが、笑顔を作ろうとして吊り上げた唇の端が少し強張ったように見えた。

「そんなに長い睫毛してたなんて知らなかった。」  

そう言って俺は、未だ食べかけだったおにぎりに目を戻し、口に運ぶ。

「よく見ると顔立ち整ってるし…。」

「……。」

ミズキは何も答えず、すっかり静かになってしまった。良く考えてみると、知り合いに頼んで迄、"普通・平凡"を売りにしてるウチの店に入店したって言ってたし、という事は、多分金が必要なんだろう。ウチの店は特殊故に高給だ。

(言ったら不味い事だったか。)

黙り込んでしまったミズキの様子を見て、しくじったかなと思った。何か事情がありそうだもんな。無遠慮に突っ込み過ぎたかもしれない。
俺は少し慌ててフォローを入れる。

「悪い。余計な事言った。忘れて。」

姿を誤魔化して迄、金を稼がなきゃならない事情があるんだ。でもそういう事情なんてのは、浅い友人関係でしかない俺が聞いたって仕方のない事だ。
俺は一人納得して食事を続ける事にした。

のだが…。


「ユイ君。」

ミズキに呼ばれて、俺は顔を上げた。

「…んぇ?」

そこには、メガネを頭頂部迄ずらして前髪を上げた、キラキラ大きな茶色い瞳をした可愛い顔が。
それを目の当たりにした俺は、思わず呟いた。

「漫画か?」

「えっ、何が?」

俺の言葉にキョドるミズキ。そんな彼に、俺は遠い記憶を手繰り寄せながら言った。

「……こういうの、母さんの秘密の本棚で見た。」

「え、どういうの?」

ミズキはわかり易く困惑していた。だから俺はミズキに説明する事に。

「ウチの母さんさ、中高生くらいの頃の漫画とか小説とかを寝室のクロゼットの奥にこっそり本棚置いて並べてんだけど…。」

「え、ガチで秘密のやつ…。」

「そう。母さん、俺や父さんは知らないと思ってる。」

「なのにユイ君は知ってるんだ?」

「小さい頃に留守番中の探検ごっこの成果だ。」

そう。あれは未だ、俺が小学2年生だった頃。
母は俺が3歳になるのを待って復職したから、両親は共働き。とはいえ、ウチの家族は父方の祖父母んちに同居で祖母も未だ健在だったから、俺が一人ぼっちで留守番する事は殆ど無かった。
だが時々、祖父母が別々に出かける事があり、そんな時、暇を持て余した俺が気紛れに行ったのが、家のあちこちを探検するという遊びだった。
そしてその時、俺は常日頃母が、絶対開けちゃ駄目だと言ってた両親の寝室のクロゼットを開けてしまったのだ。だって開けるなって言葉は、子供にとっては只のフリでしかないじゃん?開けるなよって言う割りには鍵も無かったから仕方ない。

そんな経緯で知った母の秘密の本棚には、少し古い絵柄の漫画がたくさん並んでいた。
その時点では小学校低学年だった俺だったが、それを見つけてからは何度か見に入った。好奇心というより、単なる暇潰しだ。
そしてそんな本の中に幾つか似たような話があった。
それが、メガネの冴えない男子や女子が、メガネを取ったら美形というもの。
父や母が学生の頃は未だ逆転現象が起きる前だっただろうから、圧倒的に顔面偏差値が"普通"って人間の方が多かった筈だ。美形に対する羨望も当たり前だったんだろう。だからこそ生きた設定だったんだろうと思われる。

俺はおにぎりを食しながらそれらをミズキに話して、まさか今のご時世に昔の漫画みたいなシチュエーションに出会えるとはな、と妙に感心したのだった。












しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

オメガ大学生、溺愛アルファ社長に囲い込まれました

こたま
BL
あっ!脇道から出てきたハイヤーが僕の自転車の前輪にぶつかり、転倒してしまった。ハイヤーの後部座席に乗っていたのは若いアルファの社長である東条秀之だった。大学生の木村千尋は病院の特別室に入院し怪我の治療を受けた。退院の時期になったらなぜか自宅ではなく社長宅でお世話になることに。溺愛アルファ×可愛いオメガのハッピーエンドBLです。読んで頂きありがとうございます。今後随時追加更新するかもしれません。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

アルファのアイツが勃起不全だって言ったの誰だよ!?

モト
BL
中学の頃から一緒のアルファが勃起不全だと噂が流れた。おいおい。それって本当かよ。あんな完璧なアルファが勃起不全とかありえねぇって。 平凡モブのオメガが油断して美味しくいただかれる話。ラブコメ。 ムーンライトノベルズにも掲載しております。

ヤンキーΩに愛の巣を用意した結果

SF
BL
アルファの高校生・雪政にはかわいいかわいい幼馴染がいる。オメガにして学校一のヤンキー・春太郎だ。雪政は猛アタックするもそっけなく対応される。  そこで雪政がひらめいたのは 「めちゃくちゃ居心地のいい巣を作れば俺のとこに居てくれるんじゃない?!」  アルファである雪政が巣作りの為に奮闘するが果たして……⁈  ちゃらんぽらん風紀委員長アルファ×パワー系ヤンキーオメガのハッピーなラブコメ! ※猫宮乾様主催 ●●バースアンソロジー寄稿作品です。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

処理中です...