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働きたいです!・7
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「旦那様はユズ様の前では、良い姿を見せようと格好をつけていますが、本当は裏では資金繰りに苦労をされているのですよ」
「そうだったんですね。気づかなかったです……」
柚子はなんとなく、衣食住を見て、この屋敷の懐事情を察していたが、実際は柚子が増えた事で、アズールスは苦労をしていたのかもしれなかった。
「でも、それなら、私も働きに出た方がいいですよね? アズールスさんや皆さんを楽にさせられますし」
「ユズ様、ここでは女性は余程の事がない限り、働きに出ないのです」
マルゲリタのように、働かなければ生活出来ない者や家業が商人じゃない限りは、女性は働きに出ずに、男性の家庭に入って家事や育児を担う事になる。
生涯。働かずに過ごす女性も多いらしい。
そこで柚子が働きに出てしまえば、アズールス達は貧しい家庭と思われる事になる。
それは、柚子に恥をかかせる事になると考えているらしい。
「ユズ様のお気持ちは嬉しいです。けれども、ユズ様を外で働かせる事は、ユズ様ご自身と旦那様に恥をかかせる事になります」
「そうなんですね。私自身、恥をかくのは気にしませんが、アズールスさんにはご迷惑をかけられません……」
「ええ。資金繰りが厳しい事でユズ様に苦労をかけさせたくないのです。……ユズ様に知られる事も」
どうやら、アズールスは資金繰りについて柚子に知られたくないーー恥ずかしい姿を見せたくないらしい。
「わかりました。この事はアズールスさんには言いません」
アズールスの気持ちはわかるが、柚子はもっと頼って欲しいとも思ったのだった。
柚子は最後の食器を濯ぐと、マルゲリタに渡して、乾いた布で手を拭いた。
「そうして下さい。そうでなければ、私が旦那様に怒られてしまいます」
マルゲリタは小さく笑うと、最後の食器を拭いた。
マルゲリタは食器を片付けると、食器を拭いていた布を洗って干した。
衛生面に気を遣いつつ、布を何度も洗ってはボロボロになるまで使い回すらしい。
「ユズ様には屋敷を手伝って頂いているだけで充分助かっています。そもそも、大切な旦那様の客人でもあり、将来的には奥様にもなるユズ様に家事を手伝わせるなど、本来はあってはならない事なのですよ」
「奥様だなんて、そんな……」
柚子は顔を赤くしながら、首を振った。
けれども、マルゲリタはおっとりと笑ったのだった。
「あらあら。旦那様はユズ様がここに来た時からずっとご執心ではないですか。いつになったら奥様になられるのかと、私は楽しみにしているのですよ」
「そ、そこまで……」
思い返せば、柚子がこの世界に残った時も、無邪気に喜ぶファミリアに対して、マルゲリタは意味有りげに微笑んでいただけだった。
まさか、そういう意味だったとはーー。
「私はユズ様なら大歓迎ですよ。ユズ様なら、旦那様も、屋敷も、ファミリアも、全てお任せ出来ますもの」
そうして、マルゲリタは悲しげに呟いたのだった。
「私ももう歳です。もし、私の身に何があっても、安心してお任せ出来ます」
「そうだったんですね。気づかなかったです……」
柚子はなんとなく、衣食住を見て、この屋敷の懐事情を察していたが、実際は柚子が増えた事で、アズールスは苦労をしていたのかもしれなかった。
「でも、それなら、私も働きに出た方がいいですよね? アズールスさんや皆さんを楽にさせられますし」
「ユズ様、ここでは女性は余程の事がない限り、働きに出ないのです」
マルゲリタのように、働かなければ生活出来ない者や家業が商人じゃない限りは、女性は働きに出ずに、男性の家庭に入って家事や育児を担う事になる。
生涯。働かずに過ごす女性も多いらしい。
そこで柚子が働きに出てしまえば、アズールス達は貧しい家庭と思われる事になる。
それは、柚子に恥をかかせる事になると考えているらしい。
「ユズ様のお気持ちは嬉しいです。けれども、ユズ様を外で働かせる事は、ユズ様ご自身と旦那様に恥をかかせる事になります」
「そうなんですね。私自身、恥をかくのは気にしませんが、アズールスさんにはご迷惑をかけられません……」
「ええ。資金繰りが厳しい事でユズ様に苦労をかけさせたくないのです。……ユズ様に知られる事も」
どうやら、アズールスは資金繰りについて柚子に知られたくないーー恥ずかしい姿を見せたくないらしい。
「わかりました。この事はアズールスさんには言いません」
アズールスの気持ちはわかるが、柚子はもっと頼って欲しいとも思ったのだった。
柚子は最後の食器を濯ぐと、マルゲリタに渡して、乾いた布で手を拭いた。
「そうして下さい。そうでなければ、私が旦那様に怒られてしまいます」
マルゲリタは小さく笑うと、最後の食器を拭いた。
マルゲリタは食器を片付けると、食器を拭いていた布を洗って干した。
衛生面に気を遣いつつ、布を何度も洗ってはボロボロになるまで使い回すらしい。
「ユズ様には屋敷を手伝って頂いているだけで充分助かっています。そもそも、大切な旦那様の客人でもあり、将来的には奥様にもなるユズ様に家事を手伝わせるなど、本来はあってはならない事なのですよ」
「奥様だなんて、そんな……」
柚子は顔を赤くしながら、首を振った。
けれども、マルゲリタはおっとりと笑ったのだった。
「あらあら。旦那様はユズ様がここに来た時からずっとご執心ではないですか。いつになったら奥様になられるのかと、私は楽しみにしているのですよ」
「そ、そこまで……」
思い返せば、柚子がこの世界に残った時も、無邪気に喜ぶファミリアに対して、マルゲリタは意味有りげに微笑んでいただけだった。
まさか、そういう意味だったとはーー。
「私はユズ様なら大歓迎ですよ。ユズ様なら、旦那様も、屋敷も、ファミリアも、全てお任せ出来ますもの」
そうして、マルゲリタは悲しげに呟いたのだった。
「私ももう歳です。もし、私の身に何があっても、安心してお任せ出来ます」
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