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働きたいです!・6
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「ああ、今朝ですね。旦那様から聞きましたよ」
泣きながら部屋に戻った柚子が心配になって、様子を見に来たマルゲリタは肩を落として自室に戻ろうとしていたアズールスから事情を聞いたらしい。
「私は、アズールスさんにとっては、ただの他人みたいです。この屋敷の一員では無いみたいで……」
強いて言うならば、アズールスが柚子を召喚した目的でもある「アズールスの跡継ぎたる子供を産む為の存在」だろうか。
「私だって、いつまでもお世話になっているのは申し訳が無いんです。アズールスさんの様にお金を稼いで、マルゲリタさんやファミリアちゃんを楽させたいんです。それなのに、アズールスさんは別にいいって……」
柚子がこの世界に残った大きな理由の一つでもある、柚子の夢を応援してくれるアズールスの元で夢である図書館司書になりたかった。
図書館司書として働ければ、収入を得られて、マルゲリタやファミリアだけでなく、アズールスも楽にしてあげられる。
「それなのにアズールスさんは、『我が家の問題だからいいって』。アズールスさんの言う『我が家』に私は入っていないんです。それが悲しくて、悔しくて……」
あの夜、バルコニーから転落した柚子をアズールスが受け止めてくれた夜。
アズールスの言う「家族」になったと柚子は思っていた。
あの夜に交わした唇の熱が、嘘でないのならーー。
「自分がこの屋敷の一員になれたと、勝手に思い込んでいるというのはわかっているんです。けれども、アズールスさんにとって、私は家族でもこの屋敷の一員でもない、ただの客ーーただの他人なんだって言われたようで……」
柚子が俯いてグッと唇を噛み締めていると、マルゲリタは優しく「そうですね」と肯定したのだった。
「ユズ様の言いたい事もわかります。けれども、旦那様が言いたい事もわかります」
「アズールスさんが言いたい事?」
マルゲリタは柚子の肩を優しく抱いた。
「旦那様の言う事も一理あります。ユズ様は他人です。この屋敷の者達から見れば」
「そんな……」
「ですが」と、マルゲリタは続けた。
「旦那様はユズ様に、これ以上負担をかけたくないのです。大切な存在であるユズ様に」
柚子は俯いていた顔を上げると、大きく目を見開いた。
「そうなんですか……?」
「ええ。旦那様ご自身もユズ様に、屋敷の事や旦那様の懐事情について、苦労をかけてしまっている事に心を痛めています」
この屋敷には、使用人は住み込みであり、アズールスの「家族」でもあるマルゲリタとファミリアの二人しか使用人がいなかった。
昔は大勢使用人がいたらしいが、アズールスの家族が亡くなった時に、マルゲリタ達を除いて皆、辞めてしまったらしい。
また、アズールス自身も軍を退役した事で収入が減って、屋敷の維持や生活、マルゲリタ達の給金を優先する中で、新しく使用人を雇う余裕が無いとの事だった。
そこに異世界から来た柚子が加わった事で、若干、懐事情は厳しくなってしまったらしい。
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「私は、アズールスさんにとっては、ただの他人みたいです。この屋敷の一員では無いみたいで……」
強いて言うならば、アズールスが柚子を召喚した目的でもある「アズールスの跡継ぎたる子供を産む為の存在」だろうか。
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「自分がこの屋敷の一員になれたと、勝手に思い込んでいるというのはわかっているんです。けれども、アズールスさんにとって、私は家族でもこの屋敷の一員でもない、ただの客ーーただの他人なんだって言われたようで……」
柚子が俯いてグッと唇を噛み締めていると、マルゲリタは優しく「そうですね」と肯定したのだった。
「ユズ様の言いたい事もわかります。けれども、旦那様が言いたい事もわかります」
「アズールスさんが言いたい事?」
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「旦那様の言う事も一理あります。ユズ様は他人です。この屋敷の者達から見れば」
「そんな……」
「ですが」と、マルゲリタは続けた。
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「ええ。旦那様ご自身もユズ様に、屋敷の事や旦那様の懐事情について、苦労をかけてしまっている事に心を痛めています」
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また、アズールス自身も軍を退役した事で収入が減って、屋敷の維持や生活、マルゲリタ達の給金を優先する中で、新しく使用人を雇う余裕が無いとの事だった。
そこに異世界から来た柚子が加わった事で、若干、懐事情は厳しくなってしまったらしい。
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