【完結】異世界で子作りしないで帰る方法〈加筆修正版〉

夜霞

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彼の秘密と過去・8

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「私も、元の世界で夢だった図書館ーー本に関わる仕事をしていたんです。でも、辞めなければならなかった。対人関係が上手くいかなくて」
柚子は元の世界で図書館司書として働く事になったきっかけから、辞める事になった理由を話した。

「私は一緒に働く人達の気持ちを全く理解していなかった。自分の事しか考えていなかったんです。だから、仕事を辞めざるを得なかった」
柚子はアズールスの手を両手で包んだ。
「私は夢を叶えられなかった。でも、この世界で改めて本に触れて、公文書館を見学して、やっぱり、私は本に関わる仕事がしたい。図書館じゃなくてもいい、本に関わる仕事がしたいと思えたんです」
柚子はこの世界に来る前、やはり自分には図書館司書は向いていないのではないかと考えた。
でも、この世界にやってきて、本に触れて。
やはり、自分には本しか無いと、自分は本に関わる仕事がしたいんだと思ったのだった。

「アズールスさんだって、もう一度夢を叶えられると思うんです」
「ユズ……」
「叶えて下さい。アズールスさん。今からでも、また軍人になれます。お父さんの様な、立派な人間にもなれます。もう一度、夢を叶えましょう」
柚子は精一杯の笑顔でアズールスを見つめた。
アズールスは少し困ったような顔をして、柚子の手を解いた。
「ありがとう。でも、俺は今の生活で充分なんだ。マルゲリタがいて、ファミリアがいて」
アズールスは空いている手で、柚子の頬を撫でた。
「ユズもいるからな」
「アズールスさん……」
アズールスは柚子から手を離すと、燭台の火を消した。
暗い部屋の中で、窓から差し込む月明かりだけが部屋の中を照らした。
「ユズ、君に話さなければならない事がある」
暗い部屋の中で、アズールスの声が響いた。
「話って何ですか?」 
アズールスがベッドの中に戻ったのか、衣擦れの音とベッドが軋む音だけが部屋に響いた。
柚子もベッドの中に戻ると、柚子の隣からアズールスが近づいてきた。
そうして、そっと抱きしめられると、耳元で囁かれたのだった。

「君が元の世界に帰る方法だ」

「えっ?」
柚子が聞き返した時には、アズールスは柚子から身体を離していた。
隣からは寝息が聞こえてきたのだった。
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