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第3章
7.恋愛(1)
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「ふぅ?」
ぎくりと大輔が動きを止める。
喉がからからだ。
ココアを取り上げる。
甘いものが欲しかったせいだが、
「まだ熱いですね」
一口含んで、自分が何をする気なのか、まるで早送りの映画を見るように脳裏に映像が浮かんだ。
なるほどね。
カップをそのまま持ち上げる。
美並の中の『闇』はひどく凶暴な性格らしい、そう他人事のように胸の中で苦笑した。
「何?」
大輔が京介を嬲るのを止めて、訝しげな視線を向けてくるのに微笑む。
「そんなの、簡単です」
「は?」
「いぶ…」
掠れた声で京介が呼んだ。
その声に煽られるのではなく、京介は今のこの状況をまだ認識できているのだと理解する。
ならばより簡単なことじゃないか。
美並の中の『闇』が笑った。
「京介は私のことが好きですから」
静かに大輔を見下ろす。
いくらでも声を聞かせてくれますけど?
「そんな無茶しなくても」
向けた視線の意味を京介は確実に感じ取った。大輔に拘束されたままで美並を見返し、目から唇、喉から胸元、腹から下半身へと視線が動いていくのに、
「あ…っ」
切ない響きの声を上げて、微かに跳ねた身体の動きが夕べの動きと重なりあう。股間を触れていた大輔がはっとしたように覗き込むのに自分の変化を自覚したのか、鮮やかな紅が一気に喉元から耳まで京介を染めた。
「京介」
呼び掛ける声に反応する顔は、懇願の色を宿している。
きて、みなみ。
望む声を無視して続ける。
「スーツはおあいこにしましょうね」
「……え…?」
「逃げなさい」
命じて、待った。
ぽかんとした京介が頬を紅潮させたまま、なぜ応じてくれないのかわからないという顔で戸惑い、やがて、ゆっくり瞬きして美並のことばを噛みしめるのがわかった。
逃げ、なさい?
唇がかすかに呟く。
逃げて、いい?
「……!」
ふいに何かに気づいたように、瞬きして見上げてくる、その目に応じて見下ろした。
ここへ、来なさい。
声ではないけど、聞こえたはずだ。
胸の奥にすがってきていたような切なさが、一瞬凍って砕け散るのを感じる。
「…っ」
次の一瞬、京介が落ちかけた崖から身を競り上がるように、顔を歪めて前のめりに美並の方に倒れてきた。
「そんなこと、で、」
その動きに気づいて瞬時に両腕で京介を抱え込もうとした大輔の、無防備に晒した顔めがけて、手にしたカップの中身を容赦なくぶちまける。
「う、あっっ!」
悲鳴を上げた大輔が顔を覆い、まともに目に飛び込んだらしいココアに激しく掌で擦り立てながら飛び退るのを冷やかに眺める。
たぶん、反撃は早いはず。
読み込んだ通りに、跳ね返るように戻ってくる大輔と、テーブルにしがみつくように崩れる京介を意識の両端に配して、美並はその中央に割って入る。
「何を、このっ」
「すみません」
さらりと謝り、頭を下げてみせた。もちろん、カップはさっさと手元に引き寄せ、如何にも大変なことをしてしまったと言うふうに慎ましく抱える。
「あんまり驚いたので、手がすべりました」
静まり返ったロビー、周囲の人間が何ごとがあったのか、これからどうなるのかと固唾を呑んで凍りついているのを、全開になった意識は苦もなく捉え切る。フロントの一人が電話に手をかけ、もう一人は警備員に異変を知らせるボタンに触れている。フロントに溜まっていた一群のスーツ姿の男達が、不審そうに不愉快そうに眉を顰めて、ある者は凝視し、ある者は小さな声で囁き交わしている。
そのやりとりの一つに、まさき、そう名前が響いたのに、大輔が微かに視線を揺らせ、振り返りかけたのをかろうじて自制しながら、それでも微妙にそちらに背中を向けたのに気づいた。
そう、あの中に知り合いが居るの。
それは、よかった。
『闇』が楽しげに呟く。
ぎくりと大輔が動きを止める。
喉がからからだ。
ココアを取り上げる。
甘いものが欲しかったせいだが、
「まだ熱いですね」
一口含んで、自分が何をする気なのか、まるで早送りの映画を見るように脳裏に映像が浮かんだ。
なるほどね。
カップをそのまま持ち上げる。
美並の中の『闇』はひどく凶暴な性格らしい、そう他人事のように胸の中で苦笑した。
「何?」
大輔が京介を嬲るのを止めて、訝しげな視線を向けてくるのに微笑む。
「そんなの、簡単です」
「は?」
「いぶ…」
掠れた声で京介が呼んだ。
その声に煽られるのではなく、京介は今のこの状況をまだ認識できているのだと理解する。
ならばより簡単なことじゃないか。
美並の中の『闇』が笑った。
「京介は私のことが好きですから」
静かに大輔を見下ろす。
いくらでも声を聞かせてくれますけど?
「そんな無茶しなくても」
向けた視線の意味を京介は確実に感じ取った。大輔に拘束されたままで美並を見返し、目から唇、喉から胸元、腹から下半身へと視線が動いていくのに、
「あ…っ」
切ない響きの声を上げて、微かに跳ねた身体の動きが夕べの動きと重なりあう。股間を触れていた大輔がはっとしたように覗き込むのに自分の変化を自覚したのか、鮮やかな紅が一気に喉元から耳まで京介を染めた。
「京介」
呼び掛ける声に反応する顔は、懇願の色を宿している。
きて、みなみ。
望む声を無視して続ける。
「スーツはおあいこにしましょうね」
「……え…?」
「逃げなさい」
命じて、待った。
ぽかんとした京介が頬を紅潮させたまま、なぜ応じてくれないのかわからないという顔で戸惑い、やがて、ゆっくり瞬きして美並のことばを噛みしめるのがわかった。
逃げ、なさい?
唇がかすかに呟く。
逃げて、いい?
「……!」
ふいに何かに気づいたように、瞬きして見上げてくる、その目に応じて見下ろした。
ここへ、来なさい。
声ではないけど、聞こえたはずだ。
胸の奥にすがってきていたような切なさが、一瞬凍って砕け散るのを感じる。
「…っ」
次の一瞬、京介が落ちかけた崖から身を競り上がるように、顔を歪めて前のめりに美並の方に倒れてきた。
「そんなこと、で、」
その動きに気づいて瞬時に両腕で京介を抱え込もうとした大輔の、無防備に晒した顔めがけて、手にしたカップの中身を容赦なくぶちまける。
「う、あっっ!」
悲鳴を上げた大輔が顔を覆い、まともに目に飛び込んだらしいココアに激しく掌で擦り立てながら飛び退るのを冷やかに眺める。
たぶん、反撃は早いはず。
読み込んだ通りに、跳ね返るように戻ってくる大輔と、テーブルにしがみつくように崩れる京介を意識の両端に配して、美並はその中央に割って入る。
「何を、このっ」
「すみません」
さらりと謝り、頭を下げてみせた。もちろん、カップはさっさと手元に引き寄せ、如何にも大変なことをしてしまったと言うふうに慎ましく抱える。
「あんまり驚いたので、手がすべりました」
静まり返ったロビー、周囲の人間が何ごとがあったのか、これからどうなるのかと固唾を呑んで凍りついているのを、全開になった意識は苦もなく捉え切る。フロントの一人が電話に手をかけ、もう一人は警備員に異変を知らせるボタンに触れている。フロントに溜まっていた一群のスーツ姿の男達が、不審そうに不愉快そうに眉を顰めて、ある者は凝視し、ある者は小さな声で囁き交わしている。
そのやりとりの一つに、まさき、そう名前が響いたのに、大輔が微かに視線を揺らせ、振り返りかけたのをかろうじて自制しながら、それでも微妙にそちらに背中を向けたのに気づいた。
そう、あの中に知り合いが居るの。
それは、よかった。
『闇』が楽しげに呟く。
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