『闇を闇から』

segakiyui

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第3章

5.夢現(7)

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 なんかひどくがっかりしてのろのろと側を離れようとすると、くい、とスーツの裾を引っ張られて振り向く。
「京介が見立ててくれますか?」
「え…」
 伊吹が裾を離した指で、ガラスケースの上に広げられたマフラーを示す。
 深い緑色と、紺色。
「紺色がいいんじゃないの」
「似合います?」
「……僕は緑のほうが似合うと思う」
「じゃあ、緑にしましょうか」
「待って」
 素直にマフラーを取り上げかけた伊吹の手から緑色のマフラーを奪い取り、下のほうに隠れていたワインカラーの一枚を引っ張り出した。
「それより、これがいい」
「ワインカラー?」
 ちょっと驚いたような伊吹の顔が新鮮で嬉しくなる。
「そう。来て、ほら、あててみるとわかるよ」
 鏡の前で黒いスーツにワインカラーのマフラーをあてさせて見る。
「ちょっと印象がきつい感じですね」
 響子がやんわり感想を付け加えるのに頷いて、店の片端にあった濃い茶色のスーツを取りに行った。
「だから、下はこれね」
「こういう色は難しいものだけど……確かにお似合いです」
「そうですか?」
「はい」
 響子の同意に伊吹が少しはにかんで、京介はなお嬉しくなった。
 なんだ、僕の見立て、伊吹さんにかなり似合うんじゃない。
 もっと可愛くて綺麗な伊吹さんが見られるかもしれない。
 わくわくしながら、別の棚からブラウスを選ぶ。
「で、ほら、ブラウスはこれ……ああ、響子さん、パンプスあるかな」
「ございます」
「パンプス?」
 きょとんとした伊吹に構わず、部屋で何度も見た伊吹の素足を思い出しながらデザインを考える。
「ローヒールでいいからラインの綺麗なのが」
「ちょっと京介」
「難しい御注文ですが、これなど」
「ああ、いい感じ、じゃあ、アクセサリーも合わせたいな、パール系のイヤリングで」
「京介っ」
 いきなり会話を断ち切られて驚いた。
「何?」
「何、じゃないでしょう」
 一体どれだけ買う気なんです。
 眉をしかめた伊吹がじろりと見遣ってくるのに戸惑う。
「え……マフラーとスーツと…それに合うブラウスと……靴とアクセサリーと……鞄?」
「京介」
「だって」
 大石に会わせるのだ。自分が失ったものがどれほど価値あるものだったか見せつけてやりたい。
「僕は伊吹にうんと綺麗で居てほしい…」
「……このスーツも似合うって」
「似合う、似合うけどさ」
 そのスタイルからすると、きっと大石と付き合ってたころにも着てるよね。僕の知らなかった時間をそんなスーツ一枚で繋がれてたまるものか。
「似合う、けど」
 僕の、美並だって、思い知らせたい。
 思わずぼそりと呟いてしまうと、伊吹が凍りつき、響子が引きつったのがわかった。
「……わかりました」
 やれやれといった感じで伊吹が頷き、スーツは今度にしましょう、と言い出してうろたえる。
「でも、美並」
「このマフラーは似合わない?」
 ワインカラーのマフラーをくるんと首に巻いて、伊吹がにっこり笑う。普段より赤みのきついルージュが鮮やかに映えて、京介は胸苦しくなる。
「似合う…」
 そのままキスしてほしい、いつかの鎖骨のところでもいい、そう疼きかけた熱を慌てて押さえる。
「じゃあ、今日はこれをお願いします」
 それに、きつく見えるってことは、戦闘モードでいけるってことですよね?
 確認されて瞬きした。
「戦闘モード?」
「今日は私にとっても決戦ですから」
 伊吹がひやりとした眼で笑ってどきんとした。
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