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第2章
7.彼女と彼(6)
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「みな……み…っ」
伊吹は軽蔑するだろうか。
それともやっぱり澄んだあの視線で、京介のこんなことまで透かすように感じ取ってしまうんだろうか。
「…っ」
堪え切れなくて、枕とジャージにしがみついていた腕に力を込めて腰を浮かせる。せわしなく動かす手に虚しくなって寂しくなって、けれど数倍跳ね上がっていく感覚に歯を食いしばって呻いた。
「…ん、ぅ…っ」
囁いて。
見てるって。
今、僕の全部、見てるって。
「…っ…っ、っ…」
救いを求めて上げた視界に静まり返って灯一つないまま冷えた部屋が映る。
美並、どこに居るの。
僕を、見て。
床に転がった嘲笑うようなくまの視線に慌てて目を閉じ、京介は一気に駆け上がっていく。
「みな…っ………っ」
熱に溶ける身体に震える。喘ぐ息が苦しくて、助けて欲しくてジャージを掴む。
美並…っ。
「、く…っ」
掠れた声を放って握り締め、数回山を通りすぎてから、どさりと身体を落とした。
は、ぁ。
転がった身体が人のもののように重い。
何年ぶり、って感じだよね。
苦笑しながら、そうか、伊吹相手なら大丈夫なんだ、とぼんやり思った。
もうきっと、叶わないこと、だけど。
「………ふ、ぅ」
荒い呼吸を繰り返しながらのろのろ起きる。汚れたものを脱ぎ捨て引っ張がし、洗濯機の中へ放り込む。
べたべたになった身体にシャワーを浴び、とりあえず広げた新しいシーツに崩れるように倒れて布団を引き上げる。
くん、と鼻を動かしたがさすがに伊吹の匂いはかなり薄れてしまっていた。自分でも情けないとは思いながら、京介の汗の匂いが混じったジャージをもう一度抱きかかえて目を閉じる。
そのまま朝まで、夢も見ないで眠り続けた。
ぐっすり寝たせいでかなり体力は戻った。
コンビニでカロリーブランを買ってコーヒーで流し込み、出社して違和感に気付く。
「?」
伊吹の席が空いている。
「伊吹さんは?」
「ああ、おばさんの旦那さんの義理のお父さんの妹さんが危篤だそうです」
石塚がメモを渡してくれて京介は眉を寄せる。
おばさんの旦那の義理のお父さんの妹? 他人だよね?
「急ですみませんがお休み頂きますって連絡がありました。まあ今日は急ぎのデータもないですし」
石塚が肩を竦めて、あの子はそんなことしないかと思ったんですけどね、と付け加えるのに京介はぼんやりと顔を上げる。
伊吹がいない?
会社なのに?
唯一、伊吹と会える場所なのに?
「課長?」
「あ、はい」
「細田さんがお待ちかねですよ、第二です」
「ああ、わかって、る」
ひょっとして、このまま居なくなっちゃう?
そんなの、なしでしょう。
それはひどいよ。
京介は冷えてきた指先で叫びそうになった口を押さえた。
伊吹は軽蔑するだろうか。
それともやっぱり澄んだあの視線で、京介のこんなことまで透かすように感じ取ってしまうんだろうか。
「…っ」
堪え切れなくて、枕とジャージにしがみついていた腕に力を込めて腰を浮かせる。せわしなく動かす手に虚しくなって寂しくなって、けれど数倍跳ね上がっていく感覚に歯を食いしばって呻いた。
「…ん、ぅ…っ」
囁いて。
見てるって。
今、僕の全部、見てるって。
「…っ…っ、っ…」
救いを求めて上げた視界に静まり返って灯一つないまま冷えた部屋が映る。
美並、どこに居るの。
僕を、見て。
床に転がった嘲笑うようなくまの視線に慌てて目を閉じ、京介は一気に駆け上がっていく。
「みな…っ………っ」
熱に溶ける身体に震える。喘ぐ息が苦しくて、助けて欲しくてジャージを掴む。
美並…っ。
「、く…っ」
掠れた声を放って握り締め、数回山を通りすぎてから、どさりと身体を落とした。
は、ぁ。
転がった身体が人のもののように重い。
何年ぶり、って感じだよね。
苦笑しながら、そうか、伊吹相手なら大丈夫なんだ、とぼんやり思った。
もうきっと、叶わないこと、だけど。
「………ふ、ぅ」
荒い呼吸を繰り返しながらのろのろ起きる。汚れたものを脱ぎ捨て引っ張がし、洗濯機の中へ放り込む。
べたべたになった身体にシャワーを浴び、とりあえず広げた新しいシーツに崩れるように倒れて布団を引き上げる。
くん、と鼻を動かしたがさすがに伊吹の匂いはかなり薄れてしまっていた。自分でも情けないとは思いながら、京介の汗の匂いが混じったジャージをもう一度抱きかかえて目を閉じる。
そのまま朝まで、夢も見ないで眠り続けた。
ぐっすり寝たせいでかなり体力は戻った。
コンビニでカロリーブランを買ってコーヒーで流し込み、出社して違和感に気付く。
「?」
伊吹の席が空いている。
「伊吹さんは?」
「ああ、おばさんの旦那さんの義理のお父さんの妹さんが危篤だそうです」
石塚がメモを渡してくれて京介は眉を寄せる。
おばさんの旦那の義理のお父さんの妹? 他人だよね?
「急ですみませんがお休み頂きますって連絡がありました。まあ今日は急ぎのデータもないですし」
石塚が肩を竦めて、あの子はそんなことしないかと思ったんですけどね、と付け加えるのに京介はぼんやりと顔を上げる。
伊吹がいない?
会社なのに?
唯一、伊吹と会える場所なのに?
「課長?」
「あ、はい」
「細田さんがお待ちかねですよ、第二です」
「ああ、わかって、る」
ひょっとして、このまま居なくなっちゃう?
そんなの、なしでしょう。
それはひどいよ。
京介は冷えてきた指先で叫びそうになった口を押さえた。
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