『闇を闇から』

segakiyui

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第2章

7.彼女と彼(4)

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 高崎は京介の様子を気にしながらも、伊吹の頭から足下にかけてゆっくりと見下ろしていっている。伊吹は心配そうに京介を見てくれていて気付いていないようだが、高崎の視線は事細かに確認するような執拗さ、何度か瞬きして中空を見上げ、途中でああ、と納得した顔になったのは、高崎も『Brechen』のチラシを思い出したせいだろう。
 だが、その後がいけない。
「こっちの方が……いいよな」
 小さな呟きを漏らして、高崎はじっと伊吹に目を据えている。
 ぴく、と自分の顔が引きつったのを京介は感じた。
 冗談じゃない。これ以上言い寄る男が増えてたまるか。
 諦め切れていない気配の大石、伊吹に撥ねつけられてから、妙に方向が変わってきたような大輔、ついでに姉コン一歩手前の弟まで揃っていて、そのうえ京介より若くて元気そうで目立ってトラブルも抱えていないような高崎だって?
 しかも、新しい課にはたぶん高崎のような人材が必要なはず、この先伊吹を開発管理課に引き抜いたとしたら、高崎はかなりの時間、ひょっとしたら京介より長く伊吹の側で過ごすことになる。
 ああ、くそ、今日に限ってまた伊吹さん可愛い格好してるし。
 おまけに京介はへたっていて、伊吹を楽しませてやれる余裕がない。
 焦って思わず呼び掛けてしまう。
「美並」
 微かに伊吹が顔を向けてくれる。吐息が近くて他愛なく気持ちよくなる。
「はい?」
「重く…ない?」
「大丈夫ですよ」
 甘い声にうっとりして頷いて、また薄目を開けどきりとする。伊吹の声の優しさに高崎もまた気付いたのだろう、さっきよりも瞳の色が強い。その視線で、ちらりと肩にもたれた京介を見遣ってくるのに、そうか、その手があったか、とほくそ笑む。
「気持ちいいな…」
「そうですか」
 もう少し甘えて伊吹の弱い耳元に囁く。
「あったかくて……気持ちいい」
 響かせたのは男ならわかる事後の寝物語の声。
「夕べも気持ちよかった…」
 固まる伊吹と同時に高崎も凍りついた。
 もっとも京介はそんなところでおさめるつもりはない。この際、伊吹が誰のものなのかはっきりさせておこうと、ことばを継ぐ。
「人肌っていいねえ……美並って、どこもかしこもあったかいし」
 ぴく、と高崎が体を震わせた。
「ちょ、ちょっと」
「僕、もうとろとろになりそうで」
「か、」
「どんどん汗かいちゃうし…」
「あ、あの」
「でも、夕べのでかなりすっきりしたかも」
「え、と、あの」
「今夜も一緒だもんね…?」
 これでどうだ、とまたうっすらと目を開けると、怯むどころか高崎はまっすぐに伊吹を見下ろしている。さすがに視線を感じたのか、伊吹が顔を上げるとはっとしたように目を逸らせる、その目の中に戸惑ったような優しい色が動いたのにかちんとした。だが、それより見上げた伊吹が高崎の視線を追うように向きを変えようとして、つい尖った声で呼んだ。
「美並…?」
 何見てるの、と尋ねて視線で高崎を示してやる。不思議そうに高崎を見遣った伊吹に、逆にまた伊吹を見ていたらしい高崎がわざとらしく顔を逸らせて、京介は苛ついた。
「何がですか?」
 これで気付いてないって国宝級の。
「鈍感」
 伊吹を、詰った。
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