嫌われ者の僕

みるきぃ

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完璧な幼なじみ

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「神影にはここに来るって言ってあるから待っててね!」


「わ、わかりました。色々本当にありがとうございます」



光姫さんは良い人だ。僕はゆっくりと裏口のドアを開け、後ろを振り返って光姫さんに軽く会釈し中へと入っていった。き、緊張する…。

中に入ると誰もいなく、僕は隅に椅子が並べられていたのでそこにゆっくりと座った。できれば誰とも会いたくないな…。

そう思った瞬間、

ガタンッ


すると、裏口ではない方の別のドアから物音が聞こえてきた。う、嘘…、だ、誰かいる?


僕なんかがこんなところにいてこんな格好してたらきっと嫌な気持ちにさせてしまう。できるだけバレないように息を凝らした。






「ニャー」

静寂な空間に猫の鳴き声が響いた。


にゃ、にゃー…?





「ね、猫さん…?」


僕の足元に白色のハートの黒の模様がついてる猫さんがやってきた。こ、この猫さん、書記さんの…。



「ラブ、どこ」



ビクッ

「…っ」



書記さんが猫さんを探している。前に元同室の中野くんに言われたことを思い出した。



『書記の無口野郎もお前のこと大嫌いなんだってー』



きっと今僕に会ったら…。僕のせいで書記さんは花園くんにお腹を殴られ、傷つけた。合わせる顔がない。




「ニャー、ニャー」


猫さんは、僕に体をスリスリとする。ど、どうしよ…隠れられない。


「ね、猫さん…」






「ラブ、ここにいた…──だ、れ?」


間に合わなかった。



すぐに逸らしたけど、バッチリと目が合ってしまった。





「あ…っ、えっと…」

戸惑いを隠せない。




「もしかして、…」



書記さんは驚いた表情をしながらそう言って足を止め、僕の頬に優しく手を当てる。




「…あおい?」



「…へ?」



「…あおいだ。あおいの匂いがする。ラブも懐いてるし間違いない」



書記さんは嬉しそうな顔をして僕に抱きついた。




「あおい…っすごっく綺麗。びっくりした…心臓変に、なる」


「あ、あの…?」



書記さんは僕にスリスリと体を寄せてくる。怒っている様子はない。お、怒ってないの…?僕はてっきり怒られるのかと思っていた。



「久しぶりのあおい。…まさかこんなところで会うなんて」



「あ、あの…!書記さん」


謝らなきゃ。合わせる顔がないけど、きちんと謝りたい。




「書記さんなんてやめて前みたいに名前で呼んで。…どうした?」



「そ、その…っ、今更で、ごめんなさい。僕のせいで書記さんを傷つけてしまって本当にごめんなさい!」



「あ、もしかして、前のこと…」


書記さんは思い出したみたいだった。




「謝って済むことじゃないってわかっています…でもどうしても謝りたくて…本当にごめんなさい」



僕がいなければ、書記さんは花園くんにお腹を殴られずに済んだ。全部、僕のせいだ。




「なんで…あおいが謝るの?何も悪いことしてない」


「で、でも…」



「…あの時のことはもういい。あおいの方がきっと酷い目にあった」


「ぼ、僕はなんとも…」







「だから決めたんだ。頼りないけど、次は俺が守ってあげる。…あおいのこと」



優しい声。そっと僕の手を温かく包み込む。ぼ、僕を…守る?



「しょ、書記さん…?」


握られた手がとても温かい。でも少し震えていた。



「全然頼りないってわかって、る。けど、ずっとあれからあおいのことばかり考えて、本当はすぐに会いたかったけど…今まであおいに酷いことしてきたから、合わせる顔がなくて、」



「そ、そそんな…僕なんか別に」



「あおいにそんなこと言わせなくない。そんな顔させなくない」



「え?」



「あおいは全部が可愛くて綺麗。声も話し方も性格も行動も仕草もまるごと全て。そして、初めてみる素顔にこんなにも緊張している」



書記さんは僕の手を取って自分の心臓の方にもっていった。そして手のひらから伝わってくる鼓動。とてもはやい。




「俺を…こんなにしたから…、“僕なんか”って言っちゃだめだよ」



優しい言葉をまた僕に。勿体無い言葉だったけど、とても嬉しかった。書記さんは少し照れた表情で僕を見つめ、数秒経ったら目線を下に向け、猫さんを抱きあげた。




「ニャーニャー!」


書記さんの腕の中で猫さんは暴れて僕の足に体を寄せた。猫さん…?



「俺もっ、あおいに…スリスリしたい」


「わっ!」



書記さんも突然、僕の頬に自分の頬を寄せた。それが数分も続き僕は身動きが取れない状態に戸惑い焦っていた。



「あおい、ラブを抱っこして」


その後、書記さんは、カゴを持ってきて僕にそう言った。言われた通りに猫さんを抱きあげた。



「このカゴの中にゆっくりと入れて」


「わ、わかりました…」



そっと、猫さんをカゴの中に入れるのを手伝った。





「にゃー」


寂しい声で鳴く猫さん。少し胸が痛くなった。



「ごめんね…猫さん」


「にゃー…っ」


僕の声が届いたのか少しだけ大人しくなってくれた。



「よしっ。ラ、ブはお留守番。手伝ってくれてありがとう」



「い、いえ…とんでもないです」


書記さんは、猫さんが入ったカゴを机の上に置いた。


「ねぇ、あおいっ。俺と、少し付き合って」



「へ?」


「ちょっとだけ、でいいから」


お願い、と続けて言った。


ど、どうしよう…。戸惑う僕。そう言ってくれるのは嬉しいけど、



「で、でも…か、会長さんが来るのをその待っていて」


僕は会長さんと約束しているためまた待たせると申し訳がない。





「神、影…?もしかして、あおいがドレス着ている理由って」



「か、会長さんに鬼ごっこで捕まれて…それで…」


ダンスなんて踊れない。でもドレスを会場さんがわざわざ選んでくれたのに台無しになんてできない。




「…そっか。でも神影はまだ時間かかりそうだったから、その間だけあおいの時間ちょうだい。だめ?」


書記さんは眉を曲げて困った様子だった。



「だ、だだめという訳では…っ」



「じゃあ、いい、よね」



「え、えっと…」



書記さんは嬉しそうに笑って僕は到底断ることなんてできなかった。





─────
────────
───────────

……。



書記さんが僕の手を引いて連れて着たのはパーティーが行われている会場。まだ始まってはいないがもうすでに人が溢れていた。

食べ物も多く並べられていて豪華な雰囲気が漂ってくる。庶民な僕にとっては別世界の空間。




そ、それに僕なんかが書記さんと一緒にいるを見られたら皆黙っていない。だからなるべく離れて歩く。ただでさえ嫌われているのにこんな格好してたら…なんて言われるだろう。もう少し考えてここに来るべきだったと後悔しても今更遅い。


なるべく目立たないよう会場に入ってからは、努めて平静を装う。





挙動不審にならないようにしながら自然に振る舞うというのは、思っていたよりも難しいかもしれなかった。





「おい見ろよ、すげー美人。誰か声かけろよ」

「まじやべぇ。…惚れた」

「一応、あれ男だよな…?美少年すぎ…だろ。俺あの子ならイける」







こ、怖い…。ひそひそ話が聞こえて、顔を少しあげると多くの生徒の視線を浴びていた。





「うお、こっち見た」

「一瞬だけ目合った。すげえ色気…」

「…名前なんて言うんだろ」




や、やっぱり変なんだ…。体がビクビクと震える。明らかに挙動不審に見える。来たばかりなのに書記さんには申し訳ないけど帰りたくなってしまった。こんな華やかなところ、僕には釣り合わない。自分が目立っていることに気づいて、今すぐにでも逃げ出したかった。






「…あおい?」


みんなの視線が突き刺さって痛い。




「あおい…大丈夫?」


僕の前を数メートル先歩いていた書記さんが駆け寄り心配してくれた。




「へっ、あ、だ、大丈夫です!」


「そっか。なら、いい」



僕のこと心配してくれて書記さんはやっぱり優しいな…。なのに、僕は帰りたいなんて思ってしまう最低な奴。自分が情けない。




『待って、あの子の隣にいる人って…井上様じゃない?』


『うそ!気づかなかった』


『ど、どういう関係…?』




さらに会場が騒めく。




「…あおい。もっと、近づいて」


「え?」


「離れると危ないから」



「で、でも周りが黙っていないというか…そのえっと恐れ多いです…っ」




「それは大丈夫。あおいは俺が霞むくらい綺麗だから誰も文句は言えない」




そう言って、僕の手を握った。すると、その途端『きゃー』と甲高い声が響き渡る。






「しょ、書記さん…やっぱり」


「周りなんて気にしなくて、いい」



「で、でも…」


「ほら、一緒に美味しいもの、食べよ」



「…つ」



これ以上何も言えず僕は頷くことしかできなかった。







「あおい、食べたいものある?」


書記さんが僕にそうたずねる。目の前にはビュッフェ形式で色々な種類の食べ物がたくさん並べてあった。目の前には美味しそうなデザートがあるけど僕なんかが頂いていいのかなって思ってしまう。どうしようかと逡巡する。



「これで、いい?」


デザートを見つめすぎていたせいか書記さんに気づかれてしまった。本当に申し訳ない…。



「は、はい!ありがとうございます」


どうぞ、と苺ののったパフェを渡された。美味しそう…。見ているだけでお腹いっぱいになる。




「いただきます」


一口、食べる。っ!美味しい…っ。一気に幸せな気持ちになった。




「美味しい?」


「はい!とても美味しいです」


「じゃあ、俺も食べさせて」



書記さんはそう言って、僕が使ったスプーンを持って苺のパフェを食べた。




「しょ、書記さん…スプーン」


「…ん。とても美味しい」


書記さんがにっこりと笑顔を浮かべる。まさか、書記さんが僕が使ったスプーンでそのまま食べてしまうなんて驚いた…。ふ、普通のことなのかな。一つ一つの行動に驚いてばかりではいけないなって思った。そんなことを考えている時だった。キャーと先ほどより会場が騒めいた。






ガシッー




何だろうって考える暇もなく僕は誰かに背後から腕を回された。突然のことでビクッと体が震える。




「…おい、煌。何、人のもんに手ぇ出してんだ?」



低い声が僕の耳元に響く。


 
 
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