つい勢いで後輩の童貞を奪っちゃうような女ですが、こんな私でも愛してくれるんですか?

春音優月

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【第二部】

78、何度も同じところに戻ってくる

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「がんばってどうにかなる問題じゃないの。もう、むりだよ……」
「無理って、何が」
 
 慧の腕から抜け出し、涙の溜まった瞳で慧の顔を見上げる。
 
「ごめん慧。私、忘れられない人がいる」
「それが恩田先輩ですか」
 
 感情の感じられない声で言われた言葉にこくりと頷くと、慧は私から視線を逸らした。慧の顔をじっと見つめていると、慧は唇を噛み締めて黙り込んでしまう。
 
「俺のこと好きですか?」
「うん、大好きだよ」
 
 しばらくうつむいて何かを考え込んでいた慧がようやく口を開き、私はそれに即答する。慧が好きって気持ちは嘘じゃないし、今でも慧のことが好き。ただ、……。
 
「それなら、……俺はいいですよ。忘れられないって言っても、今もその人と会ってるわけじゃないんですよね?」
「会ってないよ。この前偶然会ったけど一言しか話してないし、もう会うこともないと思う」
「過去の人ってことですよね。だったら別に———」
「良くないよ。良くないのっ。慧のことは大好きだけど、やっぱり恩田先輩のことが忘れられない。慧に申し訳なくて、こんな気持ちのままで付き合えない」
 
 何かを言おうとした慧の声に被せるようにして言葉を紡ぎ、大きく首を横に振る。
 
「付き合えないって、どういう意味ですか。俺と別れたいってこと?」
「そうじゃないけど、私たち少し距離を置いた方がいいのかも。慧も本当に私とこれからも付き合っていけるかどうか、じっくり考えた方がいいと思う」
「嫌です。距離置くって、もう別れるって言ってるのと同じじゃないですか。俺は別れるつもりないです。考える必要なんてない」
 
 私の右手を両手で握って目を見つめてくる慧に心が揺れたけど、一度言い出したことを今さら取りやめることなんて出来ない。
 
「距離を置いたからって、絶対別れるって決まったわけじゃないよ。一回離れて、考えを整理する時間が必要なの」
「時間だけあったって解決するとは思えないけど。俺は嫌です。離れたくない」
「……慧。ごめんね、でも……」
「……。花音先輩には、時間が必要なんですね?」
 
 言われた言葉にこくりと頷くと、慧は小さく息をつく。
 
「……分かりました」
「分かってくれてありがとう。ごめんね、慧。とりあえず帰るね」
 
 重い空気に耐えきれずパソコンを片付けて帰ろうとしたけれど、立ち上がろうとしたら手を掴まれて引き止められる。
 
「花音先輩」
 
 腕を引かれて引き寄せられて抱きしめられたけど、私を抱きしめる慧の腕が少し震えていて胸が張り裂けそうになった。
 
「離れたくない」
 
 どうしたらいいのか分からなくて慧の腕の中で大人しくしていると、そんな言葉と共に強く抱きしめられる。慧がどんな気持ちで「分かった」って言ってくれたんだろうと思うと、胸が苦しくて勝手に涙が滲む。何か慧に言葉をかけようと思ったけど、涙が溢れて何も言葉にならない。
 
 慧の腕の中で身じろぎすると、顔を近づけられて唇を塞がれた。唇で強引に唇をこじ開けられて、奪うようなキスをされる。苦しくて唇を開くと舌に吸い付かれ、息も出来ないほどにそれを強く吸われた。
 
「け、い……っ」
 
 キスの合間になんとか名前を呼ぶと、私を抱きしめる慧の腕の力がさらに強くなった。
 
「やっぱり嫌だ。考え直せない?」
「慧ごめん。ごめんね……っ。私のせいで苦しめてごめんね」
 
 顔を寄せて切実に訴えてくる慧にただ謝ることしか出来なくて、何度も謝罪の言葉を繰り返す。
 
「しつこくしてごめん。でもやっぱり俺、……」
「ううん、慧のせいじゃないよ。全部私のせいだから。本当にごめんね」
「時間が必要だって言うから距離を置くだけで、俺は別れるつもりないから。気持ちの整理がついたら、すぐに連絡して」
 
 泣きそうな顔で私を引き止める慧に後ろ髪を引かれたけど、どうにか立ち上がって慧の部屋を出て行く。
 
 ごめんね、慧。大好きだよ。
 あんなに愛してくれたのに、本当にごめんなさい。
 慧のことが大好きなのに、どうしていつまでも別の人が忘れられないんだろう。ようやく前に進めたって思ったのに、どうして何度も同じところに戻ってきちゃうの?
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