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【第二部】
77、前の彼氏も同じこと言ってた
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「ずっと一緒にいるって言ったじゃないですか。俺のことが信じられない?」
「信じてないわけじゃないけど、慧は入学式の時に私に一目惚れしたって言ってくれたでしよ? それって、前の彼女と付き合ってた期間と被ってるよね」
「それ言われると、何も反論出来ないです」
それを指摘すると、慧はうつむいて大きなため息をつく。
元カノと付き合ってた期間に慧からアプローチされたわけじゃないし、大学に入る前にはもう上手くいってなかったって言ってたから、こんな言い方をするのは可哀想だったかもしれない。それでも、どうしても言わずにはいられなかった。
しばらくの間気まずい時間が続いた後、慧はようやく顔を上げて私と視線を合わせる。
「前の彼女のことはちゃんと好きだったし、こんな言い方したら前の彼女に失礼かもしれないけど。でも、花音先輩とは全然違うんです。
俺にとって花音先輩は特別なんです。こんなに誰かを好きになったことは初めてなんです」
切実にそう訴えてきた慧は私が恩田先輩に言われたことと全く同じことを言っていて、全力で地雷を踏み抜かれたような気分になる。
———あれは、たしか去年の夏の終わり頃だったかな。
恩田先輩は私と付き合う前は同じサークルに好きな人がいて、告白までしたけどフラれたんだって。まだ恩田先輩を好きになる前に、本人から直接それを聞いたことをよく覚えている。
はっきり気持ちにケジメはつけてるって言ってたけど、それでもやっぱり同じサークルに前の好きな人がいるっていうのはすごく不安だったな。
私が恩田先輩を好きになっちゃって、押して押して付き合ってもらったような形だったから余計に不安だったのかも。付き合ってからはたくさん好きだって言ってくれたしいつも優しかったけど、それでも不安だった。
『いいですよ~だ。どうせ私はまいちゃん先輩には敵わないよ。私が好き好きって言うから可哀想に思って、ボランティアで付き合ってくれたんでしょ』
『何でそんなこと言うんだよ。ボランティアで付き合ったりしない。昔はまいちゃんのことが好きだったけど、今は花音のことが好きだよ。花音のことが一番好きだ。こんなに誰かを好きになったことは初めてなんだ』
ちょっとしたことですねて、みんなでカラオケに行った時にこっそり部屋を飛び出した私を恩田先輩が追いかけて抱きしめてくれた時に言われた言葉。あれはすごくすごく嬉しかったなぁ。
私だってあんなに人を好きになったのは恩田先輩が初めてで、あの時の私にとっては恩田先輩が全てだったから、涙が出るくらい嬉しかったの。
でもそう言ってくれた恩田先輩も、結局私を好きじゃなくなって、私から離れていった。
あんなに私のこと好きだって言ってくれたのに。
ずっと一緒にいられるって信じてたのに。
慧も恩田先輩と一緒で、いつか私から離れていくの?
……慧と恩田先輩は違う人だって分かってる。
重ねちゃダメだって分かってるのに、勝手に思い出の中の恩田先輩と慧が重なってしまう。
だって、慧と全く同じこと言ってた恩田先輩だって離れていったんだから、そしたら慧も……ってどうしても思っちゃうよ。
「今は私のことが好きかもしれないけど、私と別れて次の彼女が出来たら、すぐに私のことなんてどうでも良くなるよ」
「だから、何でそんなこと言うんですか」
「だって……っ。恩田先輩も慧と同じこと言ってたけど、私から離れていった!!」
「え」
「……あ」
感情が溢れ出して、勝手に口からついて出た言葉を後悔した時にはもう遅かった。とっさに口を押さえた私を慧はじっと見つめてくる。
「恩田先輩って誰ですか」
静かに発せられた慧の一言に、私の身体がびくりと震える。
もうダメだ。完全に終わった。
慧のことを今までも散々傷つけてきたと思うけど、今回はもう確実に修復不可能。
慧と恩田先輩を重ねてしまったことのショックやら罪悪感やらで気持ちがぐちゃぐちゃになって、涙がボロボロと溢れ出す。
泣きたいのは慧の方だと思うのに、慧はそんな私との距離を詰め、優しく抱きしめてくれた。
「泣かないで。大丈夫だから」
「だ、いじょぶじゃないよ。だって、わたし……っ」
「恩田先輩が誰なのか知らないし何があったのか知らないけど、俺とその人は違う人間です。俺は花音先輩から離れない。花音先輩を不安にさせないようにがんばるから、俺のことを信じてくれませんか?」
なだめるように頭を撫でられ、余計に涙が止まらなくなる。今彼と元彼を重ねるという一番やってはいけないことをやらかしたのに、どうしてこんなに優しくしてくれるんだろう。
「信じてないわけじゃないけど、慧は入学式の時に私に一目惚れしたって言ってくれたでしよ? それって、前の彼女と付き合ってた期間と被ってるよね」
「それ言われると、何も反論出来ないです」
それを指摘すると、慧はうつむいて大きなため息をつく。
元カノと付き合ってた期間に慧からアプローチされたわけじゃないし、大学に入る前にはもう上手くいってなかったって言ってたから、こんな言い方をするのは可哀想だったかもしれない。それでも、どうしても言わずにはいられなかった。
しばらくの間気まずい時間が続いた後、慧はようやく顔を上げて私と視線を合わせる。
「前の彼女のことはちゃんと好きだったし、こんな言い方したら前の彼女に失礼かもしれないけど。でも、花音先輩とは全然違うんです。
俺にとって花音先輩は特別なんです。こんなに誰かを好きになったことは初めてなんです」
切実にそう訴えてきた慧は私が恩田先輩に言われたことと全く同じことを言っていて、全力で地雷を踏み抜かれたような気分になる。
———あれは、たしか去年の夏の終わり頃だったかな。
恩田先輩は私と付き合う前は同じサークルに好きな人がいて、告白までしたけどフラれたんだって。まだ恩田先輩を好きになる前に、本人から直接それを聞いたことをよく覚えている。
はっきり気持ちにケジメはつけてるって言ってたけど、それでもやっぱり同じサークルに前の好きな人がいるっていうのはすごく不安だったな。
私が恩田先輩を好きになっちゃって、押して押して付き合ってもらったような形だったから余計に不安だったのかも。付き合ってからはたくさん好きだって言ってくれたしいつも優しかったけど、それでも不安だった。
『いいですよ~だ。どうせ私はまいちゃん先輩には敵わないよ。私が好き好きって言うから可哀想に思って、ボランティアで付き合ってくれたんでしょ』
『何でそんなこと言うんだよ。ボランティアで付き合ったりしない。昔はまいちゃんのことが好きだったけど、今は花音のことが好きだよ。花音のことが一番好きだ。こんなに誰かを好きになったことは初めてなんだ』
ちょっとしたことですねて、みんなでカラオケに行った時にこっそり部屋を飛び出した私を恩田先輩が追いかけて抱きしめてくれた時に言われた言葉。あれはすごくすごく嬉しかったなぁ。
私だってあんなに人を好きになったのは恩田先輩が初めてで、あの時の私にとっては恩田先輩が全てだったから、涙が出るくらい嬉しかったの。
でもそう言ってくれた恩田先輩も、結局私を好きじゃなくなって、私から離れていった。
あんなに私のこと好きだって言ってくれたのに。
ずっと一緒にいられるって信じてたのに。
慧も恩田先輩と一緒で、いつか私から離れていくの?
……慧と恩田先輩は違う人だって分かってる。
重ねちゃダメだって分かってるのに、勝手に思い出の中の恩田先輩と慧が重なってしまう。
だって、慧と全く同じこと言ってた恩田先輩だって離れていったんだから、そしたら慧も……ってどうしても思っちゃうよ。
「今は私のことが好きかもしれないけど、私と別れて次の彼女が出来たら、すぐに私のことなんてどうでも良くなるよ」
「だから、何でそんなこと言うんですか」
「だって……っ。恩田先輩も慧と同じこと言ってたけど、私から離れていった!!」
「え」
「……あ」
感情が溢れ出して、勝手に口からついて出た言葉を後悔した時にはもう遅かった。とっさに口を押さえた私を慧はじっと見つめてくる。
「恩田先輩って誰ですか」
静かに発せられた慧の一言に、私の身体がびくりと震える。
もうダメだ。完全に終わった。
慧のことを今までも散々傷つけてきたと思うけど、今回はもう確実に修復不可能。
慧と恩田先輩を重ねてしまったことのショックやら罪悪感やらで気持ちがぐちゃぐちゃになって、涙がボロボロと溢れ出す。
泣きたいのは慧の方だと思うのに、慧はそんな私との距離を詰め、優しく抱きしめてくれた。
「泣かないで。大丈夫だから」
「だ、いじょぶじゃないよ。だって、わたし……っ」
「恩田先輩が誰なのか知らないし何があったのか知らないけど、俺とその人は違う人間です。俺は花音先輩から離れない。花音先輩を不安にさせないようにがんばるから、俺のことを信じてくれませんか?」
なだめるように頭を撫でられ、余計に涙が止まらなくなる。今彼と元彼を重ねるという一番やってはいけないことをやらかしたのに、どうしてこんなに優しくしてくれるんだろう。
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