つい勢いで後輩の童貞を奪っちゃうような女ですが、こんな私でも愛してくれるんですか?

春音優月

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【第二部】

45、付き合いたての彼氏に言うことじゃないです

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「せっかくシャワー浴びたのにまた汗かいちゃったね。どこかに出かけるんじゃなかった?」
 
 ブラのホックを止めながら、洗面台で髪を乾かしている慧に声をかけると、慧はこちらを振り返る。
 
「今日サークルじゃないですか」
「今日何曜日?」
「火曜日」
 
 サークル。完全に忘れてた。
 先週の金曜から火曜までずっと慧と一緒にいたってこと? 夏休みで日付の感覚がなさ過ぎて……。
 
 学期中は火金の授業後の午後からがサークルの時間だけど、夏休み中は9時~12時の午前がサークルの時間。今8時だから、そろそろ準備して家出ないといけない。
 
「別に休んでもいいけど」
「二人で休んだら変に思われるよ」
「そうですか?」
 
 慧は不思議そうな顔をしてるけど、そうだよと返事をしておく。
 
 そこまで厳しいわけでもないゆるいサークルだし、夏休み中も行っても行かなくてもって感じだから休んでも問題はないかもしれないけど……。
 
 あ~そっかぁ。付き合いたてで頭がバカになってたけど、サークルの一言で急に現実に戻された気分。
 
「8時半ぐらいに出ます? 朝飯作ろうと思ったけど冷蔵庫に何も入ってなかったし、コンビニでおにぎりでも買っていく?」
 
 ブラウスとウエストにリボンのついたスカートを履いてベッドに腰かけると、髪を乾かし終わった慧が私の隣に座った。
 
「それぐらいでいいけど、慧先に出て。五分くらいしたら私も出るから」
「ずらす必要ある? 一緒に行けば良くないですか」
 
 慧から怪訝な目つきで見られ、苦笑いを浮かべる。
 
「元々仲良いし一緒に帰っても誰も何も思わないだろうけど、さすがに朝一緒に来たら変に思われない? 付き合ってることバレちゃうかも」
「何か問題あるんですか?」
「それなんだけどね、しばらく内緒で付き合わない?」
「何で」
「まだ付き合うことになったばっかりだし、上手くいくか分からないでしょ? すぐ別れるかもしれないし」
 
 理由を答えると、信じられないものでも見るような目で見られてしまった。そんなに驚くこと?
 
 ついさっきまでは私も夢の中にいたけど、現実に戻ってきたら、やっぱり先のことまで考えて行動しなきゃなって改めて思ったんだ。
 今はずっと一緒にいたいと思ってても、すぐに別れる可能性だってある。そうなった時に、なるべくダメージを最小限に抑えたい。
 
「それ本気で言ってます?」
「え? うん」
 
 慧から両肩を掴まれて聞かれたことに即答すると、慧は絶句してしまう。
 
「いや昨日までのは何だったんですか。俺のこと好きなんですよね?」
「好きだよ?」
「だったら何でそんなこと言うんですか」
「今は慧のこと好きだけど、先のことは分からないじゃん。ケンカして別れるかもしれないし、どっちかが他の人を好きになるかも」
「それ、付き合いたての彼氏に言うことじゃないです。そういうのは思ったとしても心の中に留めておいてください」
「あ、ごめん」
「俺としては思ってほしくもないですけど。もう花音先輩が分からないです」
 
 完全に私のせいだけど、慧はため息をついて頭を抱え込んでしまう。
 
 何で内緒で付き合いたいのかって聞かれたから答えただけなんだけど、良くなかったかな。でも私の経験上、付き合ってることをみんなに知られた後に別れると、すっごく気まずいんだけどな。
 
 私は名人なんて言われてるぐらいだし、今さら男性遍歴が一人二人増えてもネタにされるぐらいで誰も何も思わないだろうけど、慧はたぶんそう思われないだろうし。
 
 もし上手くいかなくて別れたいってなった時に、身動きとりにくくなるのはたぶん慧の方だと思うから。そうなっちゃったら可哀想だなって思うし、私と別れた後の大学生活も気兼ねなく楽しんでほしい。
 
「ごめんね。慧のことちゃんと好きだよ?
でもね、もう少し様子を見たいの。上手くいくかどうか慎重に判断したい。しばらく付き合って大丈夫そうだったら、みんなに言ってもいいかなと思ってる」
 
 何かを考え込んでいる慧の腕にもたれかかると、その腕が私の腰に回される。
 
「どのくらい様子見るんですか」
「とりあえず三ヶ月ぐらい?」
「それまで誰にも言わないつもりですか」
「一花にはもう言っちゃったし、サークル以外の友達か口硬そうな子なら慧も話してもいいよ」
「……。俺、隠し通す自信ないですよ」
「もしバレちゃったらその時は仕方ないよ。でも、なるべくバレないようにしよ?」
 
 慧の顔をのぞき込むと、慧は私から視線をそらし黙り込んでしまう。
 
「慧?」
「分かりました。納得は出来ないけど、花音先輩が慎重に判断したいって言うのなら尊重します」
「本当? 無理してない?」
「無理してます」
「慧~」
「だから、俺は納得出来ないって言ってるじゃないですか。でも花音先輩はそうしたいんですよね?」
「……うん。だって、考えてみてよ? みんなに知られてても上手くいってる時はいいんだけどね、別れた後に気まずくならない?」
「別れた後の話するのやめてもらっていいですか」
「ごめん」
 
 まだ話の途中だったけど、慧がイライラしてきてるのを感じて口をつぐむ。
 
「そろそろ時間だし、とりあえず先出ますね。また後で」
「うん、また後でね」
 
 話しているうちにいつのまにか時間が経っていたみたいで、チラリと時計を見ると8時半を過ぎている。
 
 それを確認した慧は、私を引き寄せてちゅっと唇にキスをしてから部屋を出ていった。
 
 う~ん……、また慧のこと傷つけちゃったかなぁ。
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