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【第一部】
35、いい加減認めて
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「上手くいく保証はないけど、もう手遅れじゃない? 慧のこと好きになっちゃったんだからさ。 飛び込んでみたら?」
「簡単に言ってくれるけど、」
「じゃあ、一生恩田先輩のこと引きずって生きていくの?」
「それは……。私だってそれは嫌だなって思うけど」
「そう思ってるなら、前に進もうよ。
もしフラれても私がいるじゃん。男にフラれても彼氏と別れても、親友はずっと一緒だよ」
上半身を起こして笑顔を向けた一花につられるように、私も上半身を起こす。
「でもさ、やっと慧のこと好きだって認めたね」
「……言っちゃった」
おどけて肩をすくめてみせたあと、一花と視線を合わせて笑い合う。
「私、松尾先輩のこと大好きだった。のんもそうだよね。恩田先輩のこと大好きだったよね」
ひとしきり笑いが落ち着いた後に言われた一花の言葉に、ただ無言で頷く。
「私たち忘れられないくらいに好きな人が出来て、大恋愛したけど、でもさ、もう終わったんだよ。いい加減認めようよ」
静かに言われたその一言にドキリとして、思わず息をのんでしまう。
「私も前に進めるようにがんばってみるつもり。だから、のんも前に進も? 一緒に前に進もうよ」
「う、ん。そっか、そうだよね。もう終わったんだよね。とっくに———終わってたんだよね」
自分では笑顔を作ったつもりだけど、たぶん全然上手に笑えてないと思う。
一花からはっきり言われて、自分でもそれを口にしたら、なんだか色々なものが込み上げてきた。涙が勝手にボロボロと溢れ出す。
あの日に恩田先輩とは終わったことは分かってたけど、でも認めたくなかった。幸せだった頃に戻りたいってずっと思ってた。
でも、もう無理なんだよね。
どれだけ願っても、あの日には戻れないんだよね。
とっくに分かってたことだけど、改めてそれを自覚したら、今まで抑え込んできたものが溢れ出して涙が止まらなくなった。
「~~~もうっ。泣かないでよ。私まで泣けてくる」
膝に顔を埋めて泣いていた顔をあげると、私以上に一花が泣いていることに気づく。
泣きすぎてマスカラとアイラインが落ちちゃって、目の周りがすごいことになっている。
「……ひどい顔」
「そっちもね」
思わずそうこぼすと一花からも言い返されたけど、なんとなくおかしくなって、二人して声を上げて笑ってしまう。
ひとしきり笑い合ったあと、大きく息を吸い込んでから一花と目を合わせる。
「一花、ありがと。久しぶりに思いきり泣いたら、なんかすっきりした。
私も、一花を見習って前に進めるようにがんばってみようかな。どうなるか分からないけど、慧に告白してみる」
また同じようなことになったらと思うと怖いけど、いつまでも同じ場所に立ち止まってるわけにもいかないよね。
今さら遅いかもしれないけど、それでもこの気持ちを伝えたい。一花と話してたら、自然とそう思えたんだ。
告白すると宣言すると、一花も嬉しそうな笑顔を見せてくれた。
「うん、応援する」
「もしフラれたらなぐさめて」
「もちろん。その時は飲もっか。男抜きでね」
「よろしく。一花も好きな人できたら教えてね」
「その時はのんに一番に教える」
お風呂に入った後もダラダラとそんな話をしながら、その日は眠りについた。
「簡単に言ってくれるけど、」
「じゃあ、一生恩田先輩のこと引きずって生きていくの?」
「それは……。私だってそれは嫌だなって思うけど」
「そう思ってるなら、前に進もうよ。
もしフラれても私がいるじゃん。男にフラれても彼氏と別れても、親友はずっと一緒だよ」
上半身を起こして笑顔を向けた一花につられるように、私も上半身を起こす。
「でもさ、やっと慧のこと好きだって認めたね」
「……言っちゃった」
おどけて肩をすくめてみせたあと、一花と視線を合わせて笑い合う。
「私、松尾先輩のこと大好きだった。のんもそうだよね。恩田先輩のこと大好きだったよね」
ひとしきり笑いが落ち着いた後に言われた一花の言葉に、ただ無言で頷く。
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静かに言われたその一言にドキリとして、思わず息をのんでしまう。
「私も前に進めるようにがんばってみるつもり。だから、のんも前に進も? 一緒に前に進もうよ」
「う、ん。そっか、そうだよね。もう終わったんだよね。とっくに———終わってたんだよね」
自分では笑顔を作ったつもりだけど、たぶん全然上手に笑えてないと思う。
一花からはっきり言われて、自分でもそれを口にしたら、なんだか色々なものが込み上げてきた。涙が勝手にボロボロと溢れ出す。
あの日に恩田先輩とは終わったことは分かってたけど、でも認めたくなかった。幸せだった頃に戻りたいってずっと思ってた。
でも、もう無理なんだよね。
どれだけ願っても、あの日には戻れないんだよね。
とっくに分かってたことだけど、改めてそれを自覚したら、今まで抑え込んできたものが溢れ出して涙が止まらなくなった。
「~~~もうっ。泣かないでよ。私まで泣けてくる」
膝に顔を埋めて泣いていた顔をあげると、私以上に一花が泣いていることに気づく。
泣きすぎてマスカラとアイラインが落ちちゃって、目の周りがすごいことになっている。
「……ひどい顔」
「そっちもね」
思わずそうこぼすと一花からも言い返されたけど、なんとなくおかしくなって、二人して声を上げて笑ってしまう。
ひとしきり笑い合ったあと、大きく息を吸い込んでから一花と目を合わせる。
「一花、ありがと。久しぶりに思いきり泣いたら、なんかすっきりした。
私も、一花を見習って前に進めるようにがんばってみようかな。どうなるか分からないけど、慧に告白してみる」
また同じようなことになったらと思うと怖いけど、いつまでも同じ場所に立ち止まってるわけにもいかないよね。
今さら遅いかもしれないけど、それでもこの気持ちを伝えたい。一花と話してたら、自然とそう思えたんだ。
告白すると宣言すると、一花も嬉しそうな笑顔を見せてくれた。
「うん、応援する」
「もしフラれたらなぐさめて」
「もちろん。その時は飲もっか。男抜きでね」
「よろしく。一花も好きな人できたら教えてね」
「その時はのんに一番に教える」
お風呂に入った後もダラダラとそんな話をしながら、その日は眠りについた。
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