つい勢いで後輩の童貞を奪っちゃうような女ですが、こんな私でも愛してくれるんですか?

春音優月

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【第一部】

34、失うくらいなら

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「私、松尾先輩と別れたんだ」
 
 何を言うべきか迷っていると、ボソリと呟かれた一言に驚いて一花の方をバッと見る。
 
「今度は何でよ」
「いつものアレじゃなくて。本気で別れたの。
お互いに連絡先も消して、もう会わないようにしようってなった」
「え? 本当に?」
 
 言われたことが信じられなくて、ベッドの上から一花の顔をマジマジと見つめると、一花はこくりと頷く。
 
「大丈夫なの?」
「かなりキツい。今も会いたいし。
でも、このままじゃ良くないなって思ったんだ」
「そっかぁ……、そうだよね」
「うん、ほんとはさ、もうとっくに終わってるって分かってたんだよね。もっと前から終わってたんだよ、私たち。それを認めたくなくて、粘ってただけ」
「……うん」
「もういい加減前に進まなきゃダメかなって。
今はまだ辛いけど、また新しい恋だってするつもりだよ。出来るか分からないけど、そうしたいって思ってる」
「一花は強いね」
「のんは? どうするの?」
  
 布団の上にいる一花から見つめられ、返答に困って視線を泳がす。
 
「何が?」
「分かってるくせに。慧のことだよ」
「慧のことって言われてもね。友達に戻りたいなとは思うけど、微妙な関係をずるずる続けても慧のためにならないし、むしろこのままの方がいいのかも」
「本当にそう思ってるの?」
「そうだけど」
「慧が他に好きな人作って、その子と付き合ってもいいの?」
「いいんじゃない?」
「うそつき」
「さっきから何が言いたいの?」
 
 一花が何が言いたいのかはなんとなく分かるけど、さっきから同じような話の繰り返しでだんだんイライラしてきた。
 
 違うって言ってるのに。
 私は慧のことが好きじゃないって言ってるのに。
 
「あのさ、こんなこと言いたくないんだけど」
「うん」
「言われないと分からないみたいだから、言うね。もう一年前には戻れないんだよ」
「そんなこと、言われなくても分かってるよ」
「のんが引っかかってるのそれでしょ。一年前の———恩田先輩とのことが原因だよね」
 
 一年前———。一花にそう言われ、あの日のことが頭の中で生々しく甦り、胸が締め付けられたみたいに苦しくなる。
 
『もう無理だ。花音のことが信じられない。別れよう』
 
 もうあれから一年近く経ってるのに、未だにあの日の恩田先輩の声が耳にこびりついている。何度も何度も夢に見て、その度に別れた事実を思い知らされ、涙を流した。
 
 嫌なことを思い出してしまい、鼓動が激しくなった心臓を落ち着かせるために一つ息を吐く。
 
「一花の言う通り、慧のことを好きになったのかも。……好き、なんだと思う。でも、怖いんだよね」
「何が怖いの?」
「まだ分からないけど、たぶん慧は私が恩田先輩と別れた後に付き合ってきた人たちとは違うと思うから。なんていうか、慧が私のこと本気で想ってくれてるのは伝わってくるけど、その本気が怖いんだ。
慧と付き合って、もっと慧のこと好きになって、もしまた同じようなことになったらと思うと———」
  
 どうしようもなく怖い。
 
 お互い好きで幸せな時はいいけど、幸せだった分、終わった時の反動が大きくなる。
 
 失う時のことを想像すると、怖くなるんだ。
 また失う痛みを味わうぐらいなら、いっそのこと最初から手に入れない方がずっとマシだと思ってしまう。
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