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6、もう一度始めよう
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昨夜はアルドが死んじゃった夢を見て、朝起きてからも、まだ絶望感でいっぱいだった。
不安な気持ちのまま登校したけれど、教室に入って、いつも通りの大谷くんの姿を見て、ようやくホッとできた。
良かった。ちゃんと生きてた。
悲しい夢を見たからか、なんかもう生きていてくれるだけでいいやって気持ちにもなる。だけど同時に、やっぱりこのままじゃ嫌だとも思う。
アルドは、『もしいつか生まれ変わったら、今度こそ一緒にいよう』って言ってくれた。
僕がタビーの生まれ変わりなんて確証はないし、正直ただの夢かもしれない。
だけど、あの時タビーは――僕は、思ったんだ。
今度アルドに会えたら、もう絶対に離れたくないって。
アルドを抜きにしても、大谷くんが好き。
大谷くんとアルドが何の関係もなかったとしても、でも、やっぱり僕は彼が好きだ。
何もできないまま、後悔したくない。
決意を固め、前の席にいる大谷くんに声をかけた。
◇
放課後は図書室で時間をつぶし、部屋が施錠されるタイミングで出ていく。
下駄箱でしばらく待っていたら、スクールバックを左肩にかけた大谷くんが約束通り来てくれた。
みんなと同じ黒髪黒目の高校生なのに、いつでも目を引いて、すぐに見つけることができる。背格好も顔もアルドと瓜二つなのに、髪も目の色も違う人。
「来てくれてありがとう」
「俺もちょうど藤村に話があった」
なんだか神妙な面持ちで、大谷くんはそう言った。
「え。そうなんだ」
まさか、大谷くんも昨夜僕と同じ夢を見たとか……?
わずかの間があってから、大谷くんが口を開く。
「一年ぐらい前から、変な夢を見るようになった」
「もしかして、僕と大谷くんにそっくりな人が出てくる夢?」
「そう」
やっぱり。
この前乗り換え駅のホームで会った時からそうなのかなって、ずっと思ってた。
だけど、いざそうだって言われたら、何を言っていいのか分からなくて、言葉が出てこない。
伝えたい言葉は、たくさんあったはずなのに。
「昨夜は俺にそっくりなヤツが死んじまう夢を見たから、寝覚めが悪かった」
黙り込んでしまった僕の代わりに、大谷くんが話を続けた。首の後ろに手を当て、彼はため息をつく。
「う、うん。だよね。僕も、その、同じ夢見たよ」
「そうなんか」
僕が伝えたことは大谷くんも予想してたみたいで、大して驚いてはいなかった。
「何なんだろうな、あれ」
「僕も分からない。でも、僕、彼らが他人だとはどうしても思えなくて」
「……」
アルドたちへの気持ちを話しても、大谷くんからの返事はなかった。
「アルドと大谷くんを重ねてるわけじゃないけど、僕もタビーみたいに大谷くんが好きだよ」
気持ちを伝えるために、今日はわざわざ部活後の大谷くんに来てもらったんだ。
人生で初めての告白。ありえないくらいに緊張して、たぶん顔も真っ赤になってると思う。だけど、それでもこれだけは伝えなきゃと思って、どうにか言葉を絞り出す。
「俺が?」
大谷くんはなんだか複雑そうな表情を浮かべて、僕の顔をまじまじと見る。
「うん」
「俺はアルドじゃない」
「それは、分かってるよ。一年前に助けてもらった時から、大谷くんが好きだったんだ」
まだ顔は熱いままだけど、大谷くんの顔を見つめ、精一杯の気持ちを伝える。
たしかに、アルドとタビーは他人だと思えないし、僕たちと重ねちゃってるところもあるかもしれない。
だけど、僕が大谷くんを好きなのは、大谷くんがアルドに似てるからじゃないって、分かってほしかった。
「俺は、アルドとかタビーとか言われても、正直ピンときてない」
大谷くんは天を仰ぎ、僕に背を向けて歩き出そうとする。
「そっか」
苦笑いを浮かべつつ、僕は答える。
あー、これ、フラれる流れだなぁ。うぅ……。
フラれることを覚悟していた時だった。
「けど」
大谷くんはくるりと踵を返し、こちらの方を振り返る。
「藤村歩夢のことはもっと知りたいと思う」
「え?」
今、何て? 僕の聞き間違い?
何を言われたのかも、言われた意味さえも理解しきれていなくて、つい大谷くんをじっと見つめてしまう。
「俺も、一年前からお前が気になってた」
「え、と」
「ずっと話しかけようと思ってたけど、中々出来んくて」
大谷くんはわずかに赤くなった頬をかき、僕から視線を逸らした。
え、ほ、ほんとに?
大谷くんも僕と話したかったってこと?
「とりあえず今度どっか行くか?」
そっぽを向いたまま、大谷くんは手だけを差し出す。
うえ!? これって、現実?
夢じゃなくて?
これも夢かななんて思ったけど、目の前にいる彼は僕と同じ学生服を着ている大谷くんだ。赤髪緑目の騎士じゃない。
ということは、ほんとに現実?
「……うんっ!!」
気がついたら僕は大きな声で返事をして、彼の元へ駆け出していた。
前世や夢はいったん置いておいて、また一から始めよう。アルドとタビーじゃなくて、今度は大谷虎太郎と藤村歩夢として。
【おしまい】
不安な気持ちのまま登校したけれど、教室に入って、いつも通りの大谷くんの姿を見て、ようやくホッとできた。
良かった。ちゃんと生きてた。
悲しい夢を見たからか、なんかもう生きていてくれるだけでいいやって気持ちにもなる。だけど同時に、やっぱりこのままじゃ嫌だとも思う。
アルドは、『もしいつか生まれ変わったら、今度こそ一緒にいよう』って言ってくれた。
僕がタビーの生まれ変わりなんて確証はないし、正直ただの夢かもしれない。
だけど、あの時タビーは――僕は、思ったんだ。
今度アルドに会えたら、もう絶対に離れたくないって。
アルドを抜きにしても、大谷くんが好き。
大谷くんとアルドが何の関係もなかったとしても、でも、やっぱり僕は彼が好きだ。
何もできないまま、後悔したくない。
決意を固め、前の席にいる大谷くんに声をかけた。
◇
放課後は図書室で時間をつぶし、部屋が施錠されるタイミングで出ていく。
下駄箱でしばらく待っていたら、スクールバックを左肩にかけた大谷くんが約束通り来てくれた。
みんなと同じ黒髪黒目の高校生なのに、いつでも目を引いて、すぐに見つけることができる。背格好も顔もアルドと瓜二つなのに、髪も目の色も違う人。
「来てくれてありがとう」
「俺もちょうど藤村に話があった」
なんだか神妙な面持ちで、大谷くんはそう言った。
「え。そうなんだ」
まさか、大谷くんも昨夜僕と同じ夢を見たとか……?
わずかの間があってから、大谷くんが口を開く。
「一年ぐらい前から、変な夢を見るようになった」
「もしかして、僕と大谷くんにそっくりな人が出てくる夢?」
「そう」
やっぱり。
この前乗り換え駅のホームで会った時からそうなのかなって、ずっと思ってた。
だけど、いざそうだって言われたら、何を言っていいのか分からなくて、言葉が出てこない。
伝えたい言葉は、たくさんあったはずなのに。
「昨夜は俺にそっくりなヤツが死んじまう夢を見たから、寝覚めが悪かった」
黙り込んでしまった僕の代わりに、大谷くんが話を続けた。首の後ろに手を当て、彼はため息をつく。
「う、うん。だよね。僕も、その、同じ夢見たよ」
「そうなんか」
僕が伝えたことは大谷くんも予想してたみたいで、大して驚いてはいなかった。
「何なんだろうな、あれ」
「僕も分からない。でも、僕、彼らが他人だとはどうしても思えなくて」
「……」
アルドたちへの気持ちを話しても、大谷くんからの返事はなかった。
「アルドと大谷くんを重ねてるわけじゃないけど、僕もタビーみたいに大谷くんが好きだよ」
気持ちを伝えるために、今日はわざわざ部活後の大谷くんに来てもらったんだ。
人生で初めての告白。ありえないくらいに緊張して、たぶん顔も真っ赤になってると思う。だけど、それでもこれだけは伝えなきゃと思って、どうにか言葉を絞り出す。
「俺が?」
大谷くんはなんだか複雑そうな表情を浮かべて、僕の顔をまじまじと見る。
「うん」
「俺はアルドじゃない」
「それは、分かってるよ。一年前に助けてもらった時から、大谷くんが好きだったんだ」
まだ顔は熱いままだけど、大谷くんの顔を見つめ、精一杯の気持ちを伝える。
たしかに、アルドとタビーは他人だと思えないし、僕たちと重ねちゃってるところもあるかもしれない。
だけど、僕が大谷くんを好きなのは、大谷くんがアルドに似てるからじゃないって、分かってほしかった。
「俺は、アルドとかタビーとか言われても、正直ピンときてない」
大谷くんは天を仰ぎ、僕に背を向けて歩き出そうとする。
「そっか」
苦笑いを浮かべつつ、僕は答える。
あー、これ、フラれる流れだなぁ。うぅ……。
フラれることを覚悟していた時だった。
「けど」
大谷くんはくるりと踵を返し、こちらの方を振り返る。
「藤村歩夢のことはもっと知りたいと思う」
「え?」
今、何て? 僕の聞き間違い?
何を言われたのかも、言われた意味さえも理解しきれていなくて、つい大谷くんをじっと見つめてしまう。
「俺も、一年前からお前が気になってた」
「え、と」
「ずっと話しかけようと思ってたけど、中々出来んくて」
大谷くんはわずかに赤くなった頬をかき、僕から視線を逸らした。
え、ほ、ほんとに?
大谷くんも僕と話したかったってこと?
「とりあえず今度どっか行くか?」
そっぽを向いたまま、大谷くんは手だけを差し出す。
うえ!? これって、現実?
夢じゃなくて?
これも夢かななんて思ったけど、目の前にいる彼は僕と同じ学生服を着ている大谷くんだ。赤髪緑目の騎士じゃない。
ということは、ほんとに現実?
「……うんっ!!」
気がついたら僕は大きな声で返事をして、彼の元へ駆け出していた。
前世や夢はいったん置いておいて、また一から始めよう。アルドとタビーじゃなくて、今度は大谷虎太郎と藤村歩夢として。
【おしまい】
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