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3、夢では愛されていても

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 凛々しい顔つき、均整のとれた身体、髪の色と同じ赤いマント。

 まるでRPGの魔王城のような不気味な雰囲気の場所で、赤髪の騎士アルドは大剣を振り回していた。どこからともなく湧いてくる黒い影のような魔物たちがアルドの周りを囲っても、アルドはたった一人で次々に倒していく。

 黒いローブを着ている僕は、少し離れた場所で杖をかかげている。すると、大量の光が器用にアルドだけを避けて、魔物たちを包む。

 魔物たちは断末魔のような叫び声を上げながら、空気と混ざり、霧散する。

 またいつもの夢だ――と、僕は理解する。
 やっぱりいつものように、僕そっくりの身体は僕の意思では動いてくれない。

 アルドとタビーは、毎回何かと戦っている。
 アルドとタビーが何の目的で戦っていて、ここがどんな世界かを僕はよく分かっていない。夢とは思えないほど感覚ははっきりあるのに、記憶もないし、自由に行動できないってムズムズする。

「アルド!」

 魔物を全て片付けた僕は、アルドのところに駆け出す。
 
「ケガしてる」

 アルドの近くまできたら、僕の口が自動的に動いた。

 言われてみたら、アルドの右頬の辺りに小さな切り傷のようなものができている。

「かすり傷です」

 なんでもないような顔をして、アルドは頬ににじんだ血を左手で拭う。

「すぐに治すね」

 宝玉のついた杖をかざし、僕は短い呪文を唱える。
 そうしたら、アルドの傷がみるみるうちに治っていく。

 騎士のアルドとは違って、魔法使いの僕は近接戦はてんでダメみたいだ。けれど、その代わり攻撃魔法も回復魔法も使えるらしい。

「恐れ入ります」

 アルドはわずかに頬を緩め、僕に頭を下げる。

 藤村歩夢には絶対に向けない、アルドの優しい瞳。
 大谷くんとは別人だとは分かっていても、全く同じ顔と声でそんな風に優しく言われたら、どうしてもドキドキしちゃうよ。

「ついに、魔王城まできたね」
「はい。これが最後の戦いです」

 最後の戦い?
 タビーの中にいる僕がドギマギしている間に聞こえてきた単語。聞き間違いでなければ、アルドは確かに『最後』だと言った。

 最後の戦いが終わったら、どうなるんだろう。
 もしかしたら、この夢も終わるのかな。
 
「全部終わったら、父上も僕たちの仲を認めてくれるよね」
「ええ、必ず。国王陛下は、約束をお守りくださる方です」

 アルドを見上げた僕に対し、彼は力強く頷く。

 僕のお父さんが国王様ということは、この世界の僕は王子様? 全然王子らしい華やかさもないし、威厳のカケラもないんだけどなぁ。

 うーん……。
 でも、そうなると、アルドは王子の僕の部下で、騎士?
 
「魔王を倒して、結婚しましょう」

 け、けけ、結婚っ!?
 僕の両手を握り、真剣な目で訴えるアルド。

 うわー、うわー! プロポーズ、されちゃった。
 いや、僕にじゃないけど。ていうか、一国の王子が同性の部下と結婚って大丈夫なの?

 少しの間があった後、僕がふわりと微笑む。
 僕の視線の先にいるアルドは、本当に、本当に愛しくてたまらないといった表情で僕――タビーを見ていた。

 心から愛し合っているんだと、彼の視線だけでも伝わってくる。身分差とか、性別とか、きっと彼らには大したことじゃないんだ。

 大谷くんと同じ顔で、同じ声で愛されて、嬉しくないわけがない。でも、なんか余計虚しくなるかも。

 だって、現実の僕と大谷くんは、ただのクラスメイトで、他人なんだよな。

 はぁ……。タビーが羨ましい。
 なんでタビーに生まれなかったんだよ、僕。

 タビーの中から二人を見ている僕が邪魔者に思えてきた頃、急に意識が薄れていった。
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