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2、武士と呼ばれるクラスメイト
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始業時間よりも少し早めに教室に入ると、すでに半数ぐらいのクラスメイトが来ていた。
僕の前の席に座っているのは、毎晩夢に出てくる赤髪騎士に瓜二つの男子。
顔と背格好は夢の中の彼そのものでも、赤髪緑目の彼とは違い、純日本人らしい黒髪黒目だ。軍服も赤いマントも身につけていないどころか、僕と同じ詰襟の黒い学生服を着ている。
名前もアルドじゃなくて、大谷虎太郎。もちろん僕もタビーではなく、藤村歩夢という名前がある。
後ろからジロジロ見ていたら、ふいに大谷くんが振り向いた。やば。見てるの、バレちゃったかな。
「おはよ、ぅ」
とっさにぎこちない笑みを作る僕。
「はよ」
大谷くんは口を引き結んだまま、そっけなく挨拶を返し、姿勢を直した。
へ、変に思われたかな?
頬杖をついて窓の外を眺めている大谷くんの横顔を見ながら、はぁーっと机に伏せる。やっぱ、かっこいいんだよなあぁぁ。ぶっきらぼうながらに、いつも挨拶してくれるし。たった一言のみだけども。
二年生になった今年から同じクラスになった、大谷虎太郎くん。身の丈ほどの大剣を扱うアルドほどではないにしろ、剣道部の大谷くんの腕もきっとそれなりに筋肉がついているんだろう。
名前とか部活とか雰囲気から、クラスメイトからは武士と呼ばれている。本人もそのあだ名をフツーに受け入れてるけど、武士というよりも、僕にとっては騎士なんだけどな。
そうこうしているうちにHRが始まっても、僕はまだずっと大谷くんと夢の中のアルドのことを考えていた。
大谷くんの広い背中を見つめていたら、突然彼が首を巡らせる。ほとんど表情が変わらないながらに、不審そうな顔をしているような。
「藤村」
「な、何?」
「プリント」
そう言って、大谷くんは僕の目の前にプリントを突きつけた。
「あ、ああ、プリント。プリントだよね、ごめん」
ははと苦笑いをしつつ、プリントを受け取る。
大谷くんは真顔のまま、僕をじっと見てきた。
「体調が悪いのなら、保健室行くか?」
「え、あ、大丈夫。ちょっとボーっとしちゃってただけ」
そうしたら、大谷くんは小さく頷き、再び前を向いてしまった。心配してくれたのかな?
優しいんだよなぁ。ほとんど会話したことのない無関係の僕にまで、さりげなく気を配ってくれるし。
夢の中のアルドは僕を溺愛してくれているけど、現実の大谷くんと僕はただのクラスメイトだ。恋人どころか、友達ですらない。
だけど、実は僕は、一年前から密かに現実の大谷くんに片想いをしている。
まだ彼の名前も存在も知らなかった一年前――。
高校に入学したばかりで電車通学していた時、痴漢に遭ってしまったんだ。相手はスーツを着た30代か40代ぐらいの男の人だったけど、同性から痴漢に遭っているのも恥ずかしかったし、ただただ驚いて、僕は何も言えなかった。
そこで大谷くんが「何してんだ」って、痴漢の腕をひねり上げて。もう、めちゃめちゃかっこよかったなぁ。
正直一目惚れに近かったし、同じ高校だって知った時は飛び上がるぐらい嬉しかった。お礼したいって言っても断られちゃったし、いまだに連絡先さえ知らないんだけど……。
アルドとタビーの夢を見るようになったのは、その日の晩からだったかな。
片想い期間はまだ一年ぐらいなのに、毎晩夢で会っているからか、もう何十年も彼に恋をしている気分だ。それこそ、生まれる前からずっと。
……もしかして、僕って、すっごくキモい?
これ、本人にバレたら、相当やばいんじゃ?
片想いこじらせすぎて、ついには前世から大谷くんに愛されてる妄想までし始めた危ないやつ。なんて思われそう。
可愛い女の子ならともかく、いるかいないかも分からない僕に好かれても、大谷くんも嬉しくないよなぁ。
僕の前の席に座っているのは、毎晩夢に出てくる赤髪騎士に瓜二つの男子。
顔と背格好は夢の中の彼そのものでも、赤髪緑目の彼とは違い、純日本人らしい黒髪黒目だ。軍服も赤いマントも身につけていないどころか、僕と同じ詰襟の黒い学生服を着ている。
名前もアルドじゃなくて、大谷虎太郎。もちろん僕もタビーではなく、藤村歩夢という名前がある。
後ろからジロジロ見ていたら、ふいに大谷くんが振り向いた。やば。見てるの、バレちゃったかな。
「おはよ、ぅ」
とっさにぎこちない笑みを作る僕。
「はよ」
大谷くんは口を引き結んだまま、そっけなく挨拶を返し、姿勢を直した。
へ、変に思われたかな?
頬杖をついて窓の外を眺めている大谷くんの横顔を見ながら、はぁーっと机に伏せる。やっぱ、かっこいいんだよなあぁぁ。ぶっきらぼうながらに、いつも挨拶してくれるし。たった一言のみだけども。
二年生になった今年から同じクラスになった、大谷虎太郎くん。身の丈ほどの大剣を扱うアルドほどではないにしろ、剣道部の大谷くんの腕もきっとそれなりに筋肉がついているんだろう。
名前とか部活とか雰囲気から、クラスメイトからは武士と呼ばれている。本人もそのあだ名をフツーに受け入れてるけど、武士というよりも、僕にとっては騎士なんだけどな。
そうこうしているうちにHRが始まっても、僕はまだずっと大谷くんと夢の中のアルドのことを考えていた。
大谷くんの広い背中を見つめていたら、突然彼が首を巡らせる。ほとんど表情が変わらないながらに、不審そうな顔をしているような。
「藤村」
「な、何?」
「プリント」
そう言って、大谷くんは僕の目の前にプリントを突きつけた。
「あ、ああ、プリント。プリントだよね、ごめん」
ははと苦笑いをしつつ、プリントを受け取る。
大谷くんは真顔のまま、僕をじっと見てきた。
「体調が悪いのなら、保健室行くか?」
「え、あ、大丈夫。ちょっとボーっとしちゃってただけ」
そうしたら、大谷くんは小さく頷き、再び前を向いてしまった。心配してくれたのかな?
優しいんだよなぁ。ほとんど会話したことのない無関係の僕にまで、さりげなく気を配ってくれるし。
夢の中のアルドは僕を溺愛してくれているけど、現実の大谷くんと僕はただのクラスメイトだ。恋人どころか、友達ですらない。
だけど、実は僕は、一年前から密かに現実の大谷くんに片想いをしている。
まだ彼の名前も存在も知らなかった一年前――。
高校に入学したばかりで電車通学していた時、痴漢に遭ってしまったんだ。相手はスーツを着た30代か40代ぐらいの男の人だったけど、同性から痴漢に遭っているのも恥ずかしかったし、ただただ驚いて、僕は何も言えなかった。
そこで大谷くんが「何してんだ」って、痴漢の腕をひねり上げて。もう、めちゃめちゃかっこよかったなぁ。
正直一目惚れに近かったし、同じ高校だって知った時は飛び上がるぐらい嬉しかった。お礼したいって言っても断られちゃったし、いまだに連絡先さえ知らないんだけど……。
アルドとタビーの夢を見るようになったのは、その日の晩からだったかな。
片想い期間はまだ一年ぐらいなのに、毎晩夢で会っているからか、もう何十年も彼に恋をしている気分だ。それこそ、生まれる前からずっと。
……もしかして、僕って、すっごくキモい?
これ、本人にバレたら、相当やばいんじゃ?
片想いこじらせすぎて、ついには前世から大谷くんに愛されてる妄想までし始めた危ないやつ。なんて思われそう。
可愛い女の子ならともかく、いるかいないかも分からない僕に好かれても、大谷くんも嬉しくないよなぁ。
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