魔王の娘としては大変不本意ではございますが、勇者と結婚することになりました。

春音優月

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8、おはようお姫様

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 翌朝、ミアが目を覚ますと、青い瞳をした金髪の男と目が合う。ミアがぼんやりと男を見つめていると、男はにっこりとミアに笑いかける。

「おはよう、お姫様」

 頬にキスを落とされ、まだ寝ぼけていたミアも赤い瞳を大きく見開く。

(この男は……、たしか……!)

 徐々に昨晩のことを思い出したミアは頬を赤く染め、布団を手繰り寄せて何も身にまとっていない身体を隠す。
 
 ミアは目の前の人間——アデルに力の差を見せつけられ、むざむざと処女を奪われてしまったのだ。

 顔を寄せて来たアデルをにらみつけ、距離をとる。

「馴れ馴れしくするな」
「夫婦になったのに冷たいね」
「なっ……!」

 ニコニコしているアデルの言葉に、ミアは怒りと羞恥でますます顔を赤くした。

「お前と夫婦になった記憶はない! なぜ私が人間なんかと夫婦にならねばいけないのだ」
「式は挙げてないから、正確にはまだ夫婦じゃないよね。だけど、俺とミアが結婚することはもう決まってるから」

 あくまで飄々としたアデルにミアは反論したかったが、返す言葉もなかった。
 
 たしかにミアとアデルが結婚することはすでに決まっていること。今さらジタバタしてもどうしようも出来ないのだ。

「これからよろしくね」
 
 どうにもならない現実に悶えているミアをアデルが引き寄せ、今度はミアの唇に自分の唇を重ねる。とっさにアデルを振り払おうとしたが、アデルはさっとミアの攻撃をかわし、床に散らばった衣服に身を通し始める。

「ごめんね。本当はもっとミアとゆっくりしたいんだけど、やらないといけないことが色々あるから」
「謝る必要などない。私は人間なんかと過ごしたくないからな」
「もし退屈だったら、城内を自由に見て回って。だけど、危ないから城の外には出ないでね」

 ミアの嫌味を気に留めることもなく、アデルは相変わらず笑みを絶やさずに告げる。

「危ない?」
「うん、特にミアみたいな子はね」
「はっ。私がやすやすと襲われるような弱い女だと思っているのか」
 
 馬鹿にしたように鼻で笑ったミアの元にアデルは跪き、優しく彼女の顔を覗き込む。

「そうじゃないけど、人間界で暮らす魔族や魔力の高い者を狙った犯行が続いているんだ。犯人を捕まえるまでは、ミアは外に出ない方がいい」

 アデルの話を聞いたミアはきょとんとしていたが、やがて勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

「そうか。やはりな」
「え?」
「やはり私が正しかったようだ。魔族が人間を憎んでいるように、人間は魔族を忌み嫌っている。私たちが理解し合うことは未来永劫不可能なようだな」
「うん、今はそうかもね。だから、俺たちが結婚するんじゃないの? まずは国の指導者が率先して仲良くする姿を民に見せていかないと」
「……! 何を、甘ったるいことばかり……っ」

 何を言ってもさらりとかわすアデルにミアの怒りは爆発寸前だった。

 ミアの言っていることを全否定するわけでもなく、アデルは一見下手に出ているようにも思える。それでいて決してミアに屈することはなく、主張ははっきりと伝えてくる。

 直情型の者が多い魔界で暮らしてきたミアにとって、アデルのような一見物腰柔らかだが折れない人間は非常にやりにくい相手だった。

 声を荒げて「お前が間違っている」と反論してくるわけでもないのに、それなのにアデルに言い負かされているような気分になる。これほど悔しく腹が立ったことは、ミアにとって初めての経験だった。

「また後でくるよ。もうすぐメイドが来てくれるから、何か困ったことがあればその子に言ってね」

 ミアの髪を撫でたアデルを睨んだあと、ミアはふいっと顔を背ける。そんなミアにアデルは苦笑いをこぼし、部屋を出て行く。

「ミアさま~。リリス、ただ今戻りました」

 頃合いを見計らったかのように、アデルと入れ違いで使い魔リリスが窓から入ってくる。リリスは一糸まとわぬミアの姿に驚き、ミアの周囲をパタパタと飛び回り始めた。

「あれほど人間の殿方を毛嫌いしていらっしゃったのに、アデルさまと結ばれたのですね。何があったのかは分かりませんが、めでたいことです~。このリリスめも我がことのように嬉しく」
「うるさい」
「ひっ」

 凍りつくような冷たい目でひと睨みされ、飛び回っていたリリスはピタリと止まる。

「昨夜は負けはしたが、私は諦めない。あれで私をモノに出来たと思うな」

 布団を脱ぎ捨て、ミアは全裸のまま立ち上がる。

「いいか、リリス。私はなんとしてでもあの男を屈服させてやる」
「で、ですが、ミアさま。ミアさまはすでにアデルさまに敗れたのでは。それに、そんなことをしたら人間界と魔界の友好が——」
「ずいぶんえらくなったものだな、リリス。いつから私にそのような口が聞けるようになった?」

 魔力のこもった赤い瞳で睨まれ、リリスは震え上がる。すばやく床に降り、ミアの前に平伏した。

「そんなっ、とんでもございません。このリリスめはミアさまの忠実な僕にございます」
「ふん。それならいい」

 両腕を組んだミアは、満足したように頷く。そして枕を掴んで宙に放り投げ、黒魔法でそれをあっという間に塵にしてみせた。

「今に見ていろ、アデル。お前もこれと同じ運命だ」
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