8 / 31
8、おはようお姫様
しおりを挟む
翌朝、ミアが目を覚ますと、青い瞳をした金髪の男と目が合う。ミアがぼんやりと男を見つめていると、男はにっこりとミアに笑いかける。
「おはよう、お姫様」
頬にキスを落とされ、まだ寝ぼけていたミアも赤い瞳を大きく見開く。
(この男は……、たしか……!)
徐々に昨晩のことを思い出したミアは頬を赤く染め、布団を手繰り寄せて何も身にまとっていない身体を隠す。
ミアは目の前の人間——アデルに力の差を見せつけられ、むざむざと処女を奪われてしまったのだ。
顔を寄せて来たアデルをにらみつけ、距離をとる。
「馴れ馴れしくするな」
「夫婦になったのに冷たいね」
「なっ……!」
ニコニコしているアデルの言葉に、ミアは怒りと羞恥でますます顔を赤くした。
「お前と夫婦になった記憶はない! なぜ私が人間なんかと夫婦にならねばいけないのだ」
「式は挙げてないから、正確にはまだ夫婦じゃないよね。だけど、俺とミアが結婚することはもう決まってるから」
あくまで飄々としたアデルにミアは反論したかったが、返す言葉もなかった。
たしかにミアとアデルが結婚することはすでに決まっていること。今さらジタバタしてもどうしようも出来ないのだ。
「これからよろしくね」
どうにもならない現実に悶えているミアをアデルが引き寄せ、今度はミアの唇に自分の唇を重ねる。とっさにアデルを振り払おうとしたが、アデルはさっとミアの攻撃をかわし、床に散らばった衣服に身を通し始める。
「ごめんね。本当はもっとミアとゆっくりしたいんだけど、やらないといけないことが色々あるから」
「謝る必要などない。私は人間なんかと過ごしたくないからな」
「もし退屈だったら、城内を自由に見て回って。だけど、危ないから城の外には出ないでね」
ミアの嫌味を気に留めることもなく、アデルは相変わらず笑みを絶やさずに告げる。
「危ない?」
「うん、特にミアみたいな子はね」
「はっ。私がやすやすと襲われるような弱い女だと思っているのか」
馬鹿にしたように鼻で笑ったミアの元にアデルは跪き、優しく彼女の顔を覗き込む。
「そうじゃないけど、人間界で暮らす魔族や魔力の高い者を狙った犯行が続いているんだ。犯人を捕まえるまでは、ミアは外に出ない方がいい」
アデルの話を聞いたミアはきょとんとしていたが、やがて勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「そうか。やはりな」
「え?」
「やはり私が正しかったようだ。魔族が人間を憎んでいるように、人間は魔族を忌み嫌っている。私たちが理解し合うことは未来永劫不可能なようだな」
「うん、今はそうかもね。だから、俺たちが結婚するんじゃないの? まずは国の指導者が率先して仲良くする姿を民に見せていかないと」
「……! 何を、甘ったるいことばかり……っ」
何を言ってもさらりとかわすアデルにミアの怒りは爆発寸前だった。
ミアの言っていることを全否定するわけでもなく、アデルは一見下手に出ているようにも思える。それでいて決してミアに屈することはなく、主張ははっきりと伝えてくる。
直情型の者が多い魔界で暮らしてきたミアにとって、アデルのような一見物腰柔らかだが折れない人間は非常にやりにくい相手だった。
声を荒げて「お前が間違っている」と反論してくるわけでもないのに、それなのにアデルに言い負かされているような気分になる。これほど悔しく腹が立ったことは、ミアにとって初めての経験だった。
「また後でくるよ。もうすぐメイドが来てくれるから、何か困ったことがあればその子に言ってね」
ミアの髪を撫でたアデルを睨んだあと、ミアはふいっと顔を背ける。そんなミアにアデルは苦笑いをこぼし、部屋を出て行く。
「ミアさま~。リリス、ただ今戻りました」
頃合いを見計らったかのように、アデルと入れ違いで使い魔リリスが窓から入ってくる。リリスは一糸まとわぬミアの姿に驚き、ミアの周囲をパタパタと飛び回り始めた。
「あれほど人間の殿方を毛嫌いしていらっしゃったのに、アデルさまと結ばれたのですね。何があったのかは分かりませんが、めでたいことです~。このリリスめも我がことのように嬉しく」
「うるさい」
「ひっ」
凍りつくような冷たい目でひと睨みされ、飛び回っていたリリスはピタリと止まる。
「昨夜は負けはしたが、私は諦めない。あれで私をモノに出来たと思うな」
布団を脱ぎ捨て、ミアは全裸のまま立ち上がる。
「いいか、リリス。私はなんとしてでもあの男を屈服させてやる」
「で、ですが、ミアさま。ミアさまはすでにアデルさまに敗れたのでは。それに、そんなことをしたら人間界と魔界の友好が——」
「ずいぶんえらくなったものだな、リリス。いつから私にそのような口が聞けるようになった?」
魔力のこもった赤い瞳で睨まれ、リリスは震え上がる。すばやく床に降り、ミアの前に平伏した。
「そんなっ、とんでもございません。このリリスめはミアさまの忠実な僕にございます」
「ふん。それならいい」
両腕を組んだミアは、満足したように頷く。そして枕を掴んで宙に放り投げ、黒魔法でそれをあっという間に塵にしてみせた。
「今に見ていろ、アデル。お前もこれと同じ運命だ」
「おはよう、お姫様」
頬にキスを落とされ、まだ寝ぼけていたミアも赤い瞳を大きく見開く。
(この男は……、たしか……!)
徐々に昨晩のことを思い出したミアは頬を赤く染め、布団を手繰り寄せて何も身にまとっていない身体を隠す。
ミアは目の前の人間——アデルに力の差を見せつけられ、むざむざと処女を奪われてしまったのだ。
顔を寄せて来たアデルをにらみつけ、距離をとる。
「馴れ馴れしくするな」
「夫婦になったのに冷たいね」
「なっ……!」
ニコニコしているアデルの言葉に、ミアは怒りと羞恥でますます顔を赤くした。
「お前と夫婦になった記憶はない! なぜ私が人間なんかと夫婦にならねばいけないのだ」
「式は挙げてないから、正確にはまだ夫婦じゃないよね。だけど、俺とミアが結婚することはもう決まってるから」
あくまで飄々としたアデルにミアは反論したかったが、返す言葉もなかった。
たしかにミアとアデルが結婚することはすでに決まっていること。今さらジタバタしてもどうしようも出来ないのだ。
「これからよろしくね」
どうにもならない現実に悶えているミアをアデルが引き寄せ、今度はミアの唇に自分の唇を重ねる。とっさにアデルを振り払おうとしたが、アデルはさっとミアの攻撃をかわし、床に散らばった衣服に身を通し始める。
「ごめんね。本当はもっとミアとゆっくりしたいんだけど、やらないといけないことが色々あるから」
「謝る必要などない。私は人間なんかと過ごしたくないからな」
「もし退屈だったら、城内を自由に見て回って。だけど、危ないから城の外には出ないでね」
ミアの嫌味を気に留めることもなく、アデルは相変わらず笑みを絶やさずに告げる。
「危ない?」
「うん、特にミアみたいな子はね」
「はっ。私がやすやすと襲われるような弱い女だと思っているのか」
馬鹿にしたように鼻で笑ったミアの元にアデルは跪き、優しく彼女の顔を覗き込む。
「そうじゃないけど、人間界で暮らす魔族や魔力の高い者を狙った犯行が続いているんだ。犯人を捕まえるまでは、ミアは外に出ない方がいい」
アデルの話を聞いたミアはきょとんとしていたが、やがて勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「そうか。やはりな」
「え?」
「やはり私が正しかったようだ。魔族が人間を憎んでいるように、人間は魔族を忌み嫌っている。私たちが理解し合うことは未来永劫不可能なようだな」
「うん、今はそうかもね。だから、俺たちが結婚するんじゃないの? まずは国の指導者が率先して仲良くする姿を民に見せていかないと」
「……! 何を、甘ったるいことばかり……っ」
何を言ってもさらりとかわすアデルにミアの怒りは爆発寸前だった。
ミアの言っていることを全否定するわけでもなく、アデルは一見下手に出ているようにも思える。それでいて決してミアに屈することはなく、主張ははっきりと伝えてくる。
直情型の者が多い魔界で暮らしてきたミアにとって、アデルのような一見物腰柔らかだが折れない人間は非常にやりにくい相手だった。
声を荒げて「お前が間違っている」と反論してくるわけでもないのに、それなのにアデルに言い負かされているような気分になる。これほど悔しく腹が立ったことは、ミアにとって初めての経験だった。
「また後でくるよ。もうすぐメイドが来てくれるから、何か困ったことがあればその子に言ってね」
ミアの髪を撫でたアデルを睨んだあと、ミアはふいっと顔を背ける。そんなミアにアデルは苦笑いをこぼし、部屋を出て行く。
「ミアさま~。リリス、ただ今戻りました」
頃合いを見計らったかのように、アデルと入れ違いで使い魔リリスが窓から入ってくる。リリスは一糸まとわぬミアの姿に驚き、ミアの周囲をパタパタと飛び回り始めた。
「あれほど人間の殿方を毛嫌いしていらっしゃったのに、アデルさまと結ばれたのですね。何があったのかは分かりませんが、めでたいことです~。このリリスめも我がことのように嬉しく」
「うるさい」
「ひっ」
凍りつくような冷たい目でひと睨みされ、飛び回っていたリリスはピタリと止まる。
「昨夜は負けはしたが、私は諦めない。あれで私をモノに出来たと思うな」
布団を脱ぎ捨て、ミアは全裸のまま立ち上がる。
「いいか、リリス。私はなんとしてでもあの男を屈服させてやる」
「で、ですが、ミアさま。ミアさまはすでにアデルさまに敗れたのでは。それに、そんなことをしたら人間界と魔界の友好が——」
「ずいぶんえらくなったものだな、リリス。いつから私にそのような口が聞けるようになった?」
魔力のこもった赤い瞳で睨まれ、リリスは震え上がる。すばやく床に降り、ミアの前に平伏した。
「そんなっ、とんでもございません。このリリスめはミアさまの忠実な僕にございます」
「ふん。それならいい」
両腕を組んだミアは、満足したように頷く。そして枕を掴んで宙に放り投げ、黒魔法でそれをあっという間に塵にしてみせた。
「今に見ていろ、アデル。お前もこれと同じ運命だ」
0
あなたにおすすめの小説
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
働かないつもりでしたのに、気づけば全部うまくいっていました ――自由に生きる貴族夫人と溺愛旦那様』
鷹 綾
恋愛
前世では、仕事に追われるだけの人生を送り、恋も自由も知らないまま終わった私。
だからこそ転生後に誓った――
「今度こそ、働かずに優雅に生きる!」 と。
気づけば貴族夫人、しかも結婚相手は冷静沈着な名門貴族リチャード様。
「君は何もしなくていい。自由に過ごしてくれ」
――理想的すぎる条件に、これは勝ち確人生だと思ったのに。
なぜか気づけば、
・屋敷の管理を改善して使用人の待遇が激変
・夫の仕事を手伝ったら経理改革が大成功
・興味本位で教えた簿記と珠算が商業界に革命を起こす
・商人ギルドの顧問にまで祭り上げられる始末
「あれ? 私、働かない予定でしたよね???」
自分から出世街道を爆走するつもりはなかったはずなのに、
“やりたいことをやっていただけ”で、世界のほうが勝手に変わっていく。
一方、そんな彼女を静かに見守り続けていた夫・リチャードは、
実は昔から彼女を想い続けていた溺愛系旦那様で――。
「君が選ぶなら、私はずっとそばにいる」
働かないつもりだった貴族夫人が、
自由・仕事・愛情のすべてを“自分で選ぶ”人生に辿り着く物語。
これは、
何もしないはずだったのに、幸せだけは全部手に入れてしまった女性の物語。
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる