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秀真の母と雫の母
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秀真の母は4年前に事故で亡くなった。その時に雫は初めて秀真に会ったわけなのだけど。
秀真の母という人は、雫の母の姉にあたる。何でも田舎では浮いてしまうほどの美人だったそうだ。
色白で、真っ黒な髪、祖父仕込みの立居振る舞いも上品で、成績も優秀。
絵に描いたような清楚で可憐なお嬢様だったらしい。
雫の母も美人と言われる事が多いタイプだが、どちらかと言えば活動的で、日に焼けた健康的な可愛いタイプだ。
静な姉に、動な妹とかなり対照的な姉妹であったけど、いやだったからこそ、姉妹の仲はとても良かったのだとか。
それなのに、その仲の良かった、優しい姉が、自分には何の相談もなく家出をした時には、母は相当落ち込んだらしい。
母達の母、つまり雫達からすれば祖母にあたる方は早くに亡くなっていて、祖父とお手伝いさんだけの生活だったのだから、何か自分に少しでも相談をして欲しかったと、当事はかなり荒れたそうだ。
それは、もちろん祖父も。
それまでは、出来のいい姉にばかり手をかけ、自由奔放な妹はただ好きにさせていた祖父だったが、大事にしていた姉に失踪されたあとは、妹である雫の母に随分厳しく教育をするようになった。
それは、傍目には姉に期待できなくなったから、代わりに、妹をまともに育てようという浅ましさにも見えた。しかし、実際は、突然出来た心の穴をどうにか埋めようとする寂しさからの行為だったのだろう。
ただ、当時、中学3年になったばかりだった母からすれば、父親のそんな気持ちには思い至らないだろうし、代わりにされたと思えばたまったものではなかったはずだ。
そのため、姉の失踪後、祖父と雫の母の関係はかなり悪化し、その結果、母は家を出るため、寮生活を選ぶ事になるのだが。
そんな諸々の複雑な事の後、叔母がどうのような生活をして、どのような形で秀真を産み育てたのか、さっぱり想像はつかないけれど。
4年前のあのしょぼくれた猫みたいだった秀真は、今ではすっかり成長し、美しいという表現がぴったりの少年となった。
体が弱いうえに、それまで小学校に通っていなかったという理由で、祖父が色々と手を回し、ここまで学校へは通わず義務教育相当の知識を学んできたそうだが、学校なんかに通ったら、どの女子も放っておかない事だろう。
雫はヨイショと勢いをつけベッドから起き上がる。カーテンを開けると、窓の外は昨日に引き続き怖いくらいの晴天だ。窓の外がこんなに広い空なうえに、下に木々が広がるなんて、ちょっと怖い気さえする。雫は部屋を出てリビングへと行ってみた。
そんなに寝坊をした時間ではないが、すっかり身支度を整えて、朝食も終えた秀真が紅茶飲んでいる所だった。
「雫くん、おはよう!」
声をかけられ慌てて返事を返す。
「あ、おはようございます。」
秀真はニコニコ笑いながら、かたいなぁ、と呟いた。
「雫さん、おはようございますねー。朝食ですよー。」
お盆にクロワッサン、スクランブルエッグにベーコン、サラダとりんご。そして、カフェオレかな?を載せた和美さんが騒がしく挨拶をしながら入ってきた。
「おはようございます。ありがとうございます。」
和美さんは、雫の朝食をいそいそとテーブルに並べる。
「はい、どうぞ!今日はお2人で辺りをお散歩するんだそうですねー。お昼のお弁当作っておきますけど、何かリクエストはありますか?」
クロワッサンから、バターの良い香りがしてかなり美味しそうだ。カフェオレと思わしき物も、大きなたっぷりとしたボウルに入っていて、泡立てたミルクがふわっとかかっている。こういうのは、カフェラテって言うのが正解か…。
どこのカフェ?いや、ホテルか?
雫は椅子に腰を下ろしながら、それらを眺めていただきますと手を合わせた。
思った通り、クロワッサンはサックサクで溶け出したバターの味がじんわりとして、とんでもなく美味しい。
「美味しい。」
和美さんは嬉しそうに笑うと、
「クロワッサンはね、私のお手製なんですよー。」
思わず振り返って和美さんを見てしまった。手作りとか、信じられない。
「雫さん、お弁当はどうします?朝がパンだから、昼はおにぎりはどう?って秀真さんは言ってますけど。」
雫は、サクサクのクロワッサンをもう一口放り込んで、頷いた。
「クロワッサン、超絶美味しいんで、また食べたいけど、昼はおにぎりもいいですね。」
和美さんはうんうんと頷くと、じゃ、そうしましょー、と言いながらキッチンの方へ歩いていった。
2個目のクロワッサンを食べながら、目の前の秀真に目をやると、朝日を浴びて紅茶を飲む姿が様になり過ぎていて眩しい。
今日は昨日よりラフなTシャツ姿だ。
「今日は、ちょっと歩くけど、大丈夫?」
はい、と返事するべきか、うんと答えるべきか、ちょっと悩んで結局頷くだけにした。
すると、こちらの心を読んだかのように秀真は言った。
「一個しか年も違わないし、気楽な喋り方で大丈夫だから。僕も雫って呼ぶから、雫も僕のこと秀真って呼んでよ。」
そして、紅茶を飲み干すと、立ち上がってにっこり微笑む。
雫はカフェラテを一口飲むと、頷いた。そんなに綺麗な笑顔は、自分には難しい、と思いながら。
秀真の母という人は、雫の母の姉にあたる。何でも田舎では浮いてしまうほどの美人だったそうだ。
色白で、真っ黒な髪、祖父仕込みの立居振る舞いも上品で、成績も優秀。
絵に描いたような清楚で可憐なお嬢様だったらしい。
雫の母も美人と言われる事が多いタイプだが、どちらかと言えば活動的で、日に焼けた健康的な可愛いタイプだ。
静な姉に、動な妹とかなり対照的な姉妹であったけど、いやだったからこそ、姉妹の仲はとても良かったのだとか。
それなのに、その仲の良かった、優しい姉が、自分には何の相談もなく家出をした時には、母は相当落ち込んだらしい。
母達の母、つまり雫達からすれば祖母にあたる方は早くに亡くなっていて、祖父とお手伝いさんだけの生活だったのだから、何か自分に少しでも相談をして欲しかったと、当事はかなり荒れたそうだ。
それは、もちろん祖父も。
それまでは、出来のいい姉にばかり手をかけ、自由奔放な妹はただ好きにさせていた祖父だったが、大事にしていた姉に失踪されたあとは、妹である雫の母に随分厳しく教育をするようになった。
それは、傍目には姉に期待できなくなったから、代わりに、妹をまともに育てようという浅ましさにも見えた。しかし、実際は、突然出来た心の穴をどうにか埋めようとする寂しさからの行為だったのだろう。
ただ、当時、中学3年になったばかりだった母からすれば、父親のそんな気持ちには思い至らないだろうし、代わりにされたと思えばたまったものではなかったはずだ。
そのため、姉の失踪後、祖父と雫の母の関係はかなり悪化し、その結果、母は家を出るため、寮生活を選ぶ事になるのだが。
そんな諸々の複雑な事の後、叔母がどうのような生活をして、どのような形で秀真を産み育てたのか、さっぱり想像はつかないけれど。
4年前のあのしょぼくれた猫みたいだった秀真は、今ではすっかり成長し、美しいという表現がぴったりの少年となった。
体が弱いうえに、それまで小学校に通っていなかったという理由で、祖父が色々と手を回し、ここまで学校へは通わず義務教育相当の知識を学んできたそうだが、学校なんかに通ったら、どの女子も放っておかない事だろう。
雫はヨイショと勢いをつけベッドから起き上がる。カーテンを開けると、窓の外は昨日に引き続き怖いくらいの晴天だ。窓の外がこんなに広い空なうえに、下に木々が広がるなんて、ちょっと怖い気さえする。雫は部屋を出てリビングへと行ってみた。
そんなに寝坊をした時間ではないが、すっかり身支度を整えて、朝食も終えた秀真が紅茶飲んでいる所だった。
「雫くん、おはよう!」
声をかけられ慌てて返事を返す。
「あ、おはようございます。」
秀真はニコニコ笑いながら、かたいなぁ、と呟いた。
「雫さん、おはようございますねー。朝食ですよー。」
お盆にクロワッサン、スクランブルエッグにベーコン、サラダとりんご。そして、カフェオレかな?を載せた和美さんが騒がしく挨拶をしながら入ってきた。
「おはようございます。ありがとうございます。」
和美さんは、雫の朝食をいそいそとテーブルに並べる。
「はい、どうぞ!今日はお2人で辺りをお散歩するんだそうですねー。お昼のお弁当作っておきますけど、何かリクエストはありますか?」
クロワッサンから、バターの良い香りがしてかなり美味しそうだ。カフェオレと思わしき物も、大きなたっぷりとしたボウルに入っていて、泡立てたミルクがふわっとかかっている。こういうのは、カフェラテって言うのが正解か…。
どこのカフェ?いや、ホテルか?
雫は椅子に腰を下ろしながら、それらを眺めていただきますと手を合わせた。
思った通り、クロワッサンはサックサクで溶け出したバターの味がじんわりとして、とんでもなく美味しい。
「美味しい。」
和美さんは嬉しそうに笑うと、
「クロワッサンはね、私のお手製なんですよー。」
思わず振り返って和美さんを見てしまった。手作りとか、信じられない。
「雫さん、お弁当はどうします?朝がパンだから、昼はおにぎりはどう?って秀真さんは言ってますけど。」
雫は、サクサクのクロワッサンをもう一口放り込んで、頷いた。
「クロワッサン、超絶美味しいんで、また食べたいけど、昼はおにぎりもいいですね。」
和美さんはうんうんと頷くと、じゃ、そうしましょー、と言いながらキッチンの方へ歩いていった。
2個目のクロワッサンを食べながら、目の前の秀真に目をやると、朝日を浴びて紅茶を飲む姿が様になり過ぎていて眩しい。
今日は昨日よりラフなTシャツ姿だ。
「今日は、ちょっと歩くけど、大丈夫?」
はい、と返事するべきか、うんと答えるべきか、ちょっと悩んで結局頷くだけにした。
すると、こちらの心を読んだかのように秀真は言った。
「一個しか年も違わないし、気楽な喋り方で大丈夫だから。僕も雫って呼ぶから、雫も僕のこと秀真って呼んでよ。」
そして、紅茶を飲み干すと、立ち上がってにっこり微笑む。
雫はカフェラテを一口飲むと、頷いた。そんなに綺麗な笑顔は、自分には難しい、と思いながら。
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