かなり遅れたクリスマス～最悪な出逢いから始まる、人生の大逆転と恋の予感の物語

第３２９話 今夜で、お互いが過去をリセット

「では――今夜は、お互いが過去のやり直しをしたっていうことでしょうか。リベンジというか」
　佐野が言う。ビールの酔いは、もうほとんど抜けている。
「ああ、そうだな……俺は自分のことに関しては、全部ふっきれたと思っていたが、大きな勘違いだった。それをうどんで気づかされたとはな」
　ユキもほぼ素面の様子で言う。そして苦笑しつつ、空になった鍋を見る。
「だからケイの言う通り、今夜でお互いが過去をリセットしたってことだな」
　そう言って、ふふっと笑う。
「僕、正直なところ、ここへ来た当初は、何かの罰ゲームかと思うくらい、すごく困惑してました」
　佐野は、ユキの顔を真っ直ぐに見て言う。
「でも今は、心がとてもすっきりしています。田上課長と、こうして食事ができて、色々と話もできて――だから、この店での過去の嫌な記憶が、今夜、楽しい思い出に上書きできました。ありがとうございました」
　佐野は深く頭を下げる。
「いやいや。それはこっちも同じだ。ケイの焼きうどんのおかげで、俺の不快な食事の記憶も見事に払拭できた。ありがとな」
　ユキも深々と頭を下げる。
「僕、これを機会に、今着ているスーツ、捨てます。そして全部、買い換えます。靴から小物まで、何もかも」
「そうか。じゃあ、買う時は声をかけてくれ。俺も一緒に行く」
「助かります。一人で行くと、色とかデザインの選択を誤りそうなので」
「俺に任せろ。ケイに一番似合うスーツ一式を見立ててあげよう。そして、そのあと食事もしよう。カフェで美味いコーヒーも飲もうな」
「はい。よろしくお願いします。では早速ですが、次の日曜日はいがかですか。もし現場が忙しくなかったらの話ですが」
「うん。大丈夫だ。その日に行こう。日曜日ぐらい、仕事を忘れて楽しもうぜ」
　ごく自然に次のデートが決まり、佐野とユキは穏やかに微笑みあう。
　こうして二人は店を出て、今度は『花壇』へ向かうのであった。