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第320話 煮詰まりすぎて、鍋の煮汁は三分の二
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「ありがとうございます……!」
佐野は、ユキの心遣いに心の底から感謝して深く頭を下げる。
しかし、そんな気持ちの片隅で、落胆という感情が膝を抱えて座っているのであった。
なぜなら今夜のお誘いは、デートではなかったからだ。
あくまで上司が部下の心の古傷を治すべく、このような席をもうけたのであり、もっとビジネスライクに表現すれば、部下のいじけた態度や失態で、会社へ不利益をこうむるおそれがあるから、早々に対処しただけの話である。
勝手に初デートと勘違いして、一人ではしゃいで馬鹿みたいだ――
佐野は腹の中で苦笑し、次いで、ユキは自分に対して恋愛感情は持っていないのだと確信する。
頻繁に自分を誘ってはキャラメル・フェアリーで食事をしたり、元彼の贈り物の始末に自分を付き合わせたり、はたまた『再就職セット』の中にハート型のクッキーをしのばせてみたりと、気のあるようなそぶりを数多く見せていたユキであったが、結局は仕事のうえでの恩情でしかなかったのだ。
まあ、しょうがない。現実はそう甘くはないさ――
佐野は、ユキに悟られないよう小さくため息をつきながら、煮詰まりすぎて煮汁が三分の二ぐらいに減っている鍋物へ視線を向ける。
これはまるで自分のようだ。一人で熱くなって大騒ぎして、最後は煮詰まって、見た目も味もみじめったらしく落ちぶれてしまう――
そう心のなかでつぶやいて、鍋物と自分を同一視するのであった。
佐野は、ユキの心遣いに心の底から感謝して深く頭を下げる。
しかし、そんな気持ちの片隅で、落胆という感情が膝を抱えて座っているのであった。
なぜなら今夜のお誘いは、デートではなかったからだ。
あくまで上司が部下の心の古傷を治すべく、このような席をもうけたのであり、もっとビジネスライクに表現すれば、部下のいじけた態度や失態で、会社へ不利益をこうむるおそれがあるから、早々に対処しただけの話である。
勝手に初デートと勘違いして、一人ではしゃいで馬鹿みたいだ――
佐野は腹の中で苦笑し、次いで、ユキは自分に対して恋愛感情は持っていないのだと確信する。
頻繁に自分を誘ってはキャラメル・フェアリーで食事をしたり、元彼の贈り物の始末に自分を付き合わせたり、はたまた『再就職セット』の中にハート型のクッキーをしのばせてみたりと、気のあるようなそぶりを数多く見せていたユキであったが、結局は仕事のうえでの恩情でしかなかったのだ。
まあ、しょうがない。現実はそう甘くはないさ――
佐野は、ユキに悟られないよう小さくため息をつきながら、煮詰まりすぎて煮汁が三分の二ぐらいに減っている鍋物へ視線を向ける。
これはまるで自分のようだ。一人で熱くなって大騒ぎして、最後は煮詰まって、見た目も味もみじめったらしく落ちぶれてしまう――
そう心のなかでつぶやいて、鍋物と自分を同一視するのであった。
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