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第312話 相変わらずの辛辣さ 

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「古山建設の工事部のみんなは、今どうしているのかな。ちゃんと再就職は、できたのかな」
 十二時二十四分。キャラメル・フェアリーの特別室。テーブルを挟んで、作業服姿の佐野とユキが向かい合って座っている。
 各自のオムライスには、ケチャップで書かれた、たどたどしい文字が皿一面にひしめいている。メイド嬢達の練習の跡である。
 季節柄、『入学おめでとう』、『卒業おめでとう』、『祝・就職』などの文字が多い。
 よって、先述の言葉は、そのような文字を前にしての、佐野のせりふである。
「鈴木君とは仕事の関係で、しょっちゅう顔を合わせるけど、ほかの元工事部の人達とは連絡とか取ってないのかい?」
 ユキが聞く。
「はい。何せ、あの会社にいたときは鈴木以外の工事部の全員が、いつ何時、星崎の嫌がらせのターゲットにされるか戦々恐々となっていて、常に殺伐とした空気が漂っていましたから、雑談する余裕すらなくて……」
 佐野は残念そうな面持ちで答える。
「じゃあ、鈴木君以外の人とは、まともな交友関係は結べなかったんだな?」
「ええ。鈴木だけは、星崎のやり方にかなり抵抗していたうえに、その標的になった僕をとても気にかけてくれて――で、ほかの人が自分の所へ火の粉が飛んで来ないように星崎へ迎合し、僕を露骨に避けるなか、鈴木だけは、いつも普通に会話をしてくれたんです」
「そうか……言っちゃ悪いが、鈴木君以外の人間は、ケイと親しくする資格はないな。そして、そんな目先の損得勘定だけで動くような薄っぺらい奴は、それ相応の会社にしか行けないだろうよ。だから気にかけるだけ無駄だ。放っておけ。星崎やレイナみたいに、そのうち勝手に自滅する運命さ」
「……はあ」
 さすが根性曲がりのユキ。表現が相変わらず辛辣である。
 しかし正直、胸がスッとする。となれば、根性悪の自分も健在であるということだ。
「それで――ケイ。話は変わるが、今度の金曜日は暇か?」
「はい。空いています。何か急ぎの現場でも入ったのですか」
 夜を徹しての突貫作業は大変だが、実にやりがいのある仕事だ。佐野は、うきうきしながらユキに聞く。
「いや。違う。逆だ。珍しく残業が発生しなさそうなんで、『花壇』へ行かないか」
「花壇……」
 久しぶりに聞く店の名である。

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