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第296話 ゴミ屋敷ならぬゴミ社屋

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「うわ……!」
 三人は、玄関に入るなりギョッとして立ち止まる。
 そして、佐野と鈴木は目の前に広がる光景に絶句した。
 とにかく、汚いのだ。
 スナック菓子の袋や、中途半端に中身が入っているペットボトル、さらには、くしゃくしゃに丸められた印刷物が、床のあちこちに散乱している。
 壁際には、見るからに品のない漫画や、ファッション、ギャンブル、果ては成人男性向けの雑誌が乱雑に積み重なっている。
 そして、猛烈に臭い。
 食品の腐臭と安物の香水が混じり合い、それにカビ臭さがプラスされているのだ。
 とどめは、うるさい。
 一階の奥に社長室があり、そこからすさまじい男女のヒステリックな怒号が聞こえてくる。
 時折、落ち着いた男性の声も入るが、きっとその声の主は警察であろう。
 そんなひどい状況の中で、総務部と経理部の女性社員達は各自の席に座っているのだが、当然、仕事どころの話ではない。
 罵声が響く社長室と、他社の作業服を着た佐野と鈴木、そしてユキを交互に見ては、驚きと困惑の顔をしている。
「なんだよ……これ」
 佐野が呆然として言う。
「もうここは会社じゃねえ。ゴミ屋敷――いや、ゴミ社屋だ」
 鈴木は露骨に眉をしかめ、吐き捨てるようにつぶやく。
 二人が勤務していた頃は、たとえ人間関係が最悪であっても、社内は整理整頓がなされていたからだ。
「ははは。俺の部屋よりひでえや」
 ユキが肩をすくめて小声で笑う。そして佐野に聞く。
「なあ、ここの会社、いつもこうなのか?」
「違います。僕達がいた頃は、ちゃんときれいにしていました」
 鈴木も目でうなずく。
「そうか。じゃあ、業界から仕事を干された今年の一月辺りから、社員が増えたり入れ替わったりしてる間に、こんな状態になったんだな」
「はい」
 されど佐野の返事は、社長室から飛んでくる中年男のわめき声にかき消される。  

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