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第238話 閉店前のお買い得商品

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「このままでは昼飯の時間まで進展もなく、ズルズルと長引いてしまう。そうしたら、コンビニの弁当が売り切れてしまう」
 ユキが言う。その表情は、あくまでも真面目である。
「……朝一番の会議ですものね」
 十時のおやつの次は昼飯か。
 佐野はユキの食い気にあきれながらも、それこそが、この男の原動力であることを改めて実感する。
 思い起こせば、ユキの元彼であるAとのデートは空腹を押し殺した『おしゃれな食事プレイ』が常だった。
 その、ほぼ絶食に近い見栄っ張りデートが終わったあと、ユキは近所のラーメン屋へ駆け込み、汁が飛ぶのもかまわずチャーシューメンと餃子をがっついたのだ。
 そんな端から見れば滑稽で、されど当事者は真剣そのものという痛々しい話からして、空腹がどれだけユキの心身へ影響するのか察するのはたやすい。
「十二時を過ぎたら、弁当売場の棚はほとんどカラになる。それを想像しただけで、俺はいてもたってもいられなくなった」
 ユキが眉間に縦じわを寄せて言う。
 やっぱりか――佐野は心の中でうなずく。
 ユキにとって空腹とは、失恋の古傷を思い出させる引き金なのだ。
 となれば、その時のユキはさぞかし逆上し、反対勢力の考えを空腹パワーで『ひっくり返した』ことだろう。
 では、何と言って円満合意へこぎ着けたのか。
「だから俺は三部署と取締役達にこう言ったんだ」
「はい」
 佐野は息をのむ。
「彼は、閉店前のお買い得商品だと」
「……」
 あんまりである。 



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