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第205話 吐露という名の奮闘

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「仮に僕が入社しても、あの悪名高い古山建設の元社員ということで、歓迎どころか針のむしろだと思います。現に正月の現場でも露骨に村八分でしたし」
 ユキの気分を害してしまう覚悟はできている。だから直球で行こう。佐野は正直に言葉を並べる。
「そんな中で仕事をするのは、自分には難しいかと思います。お声をかけてくださった田上課長にも、きっと迷惑をかけてしまうでしょう」
 話しているうちに胃が痛くなる。でも、ちゃんと伝えなければ。そう自身を鼓舞して奮闘する。
「それに、僕の技術レベルが低すぎて、御社とは釣り合わないと思います。御社の技術者さんと同等になるまで、かなりの時間を要するかと」
「……」
 ユキは黙って腕を組み、佐野の顔をじっと見ている。その表情は硬い。
 身を切るような苦しさだ――佐野はくじけそうになる。大好きな人にこんな話をするのは本当に辛い。でも言い出したのは自分なのだ。膝に置いた両手をぐっと握りしめ、話を続ける。
「ですので、せっかく作業服や名刺などを送っていただいたのですが、双方のためにも、この話はなかったことにしたほうがよろしいのではないかと思いまして」
「……」
 ユキの口は依然、閉じたままだ。微動だにしない。
 これは完全に怒っている。佐野は内心、震え上がりながら臆測する。
 されどもうここまで来たら引き返せない。膝の上で握っている拳の中は汗まみれだ。
「そして、失礼を承知でお聞きしたいのですが、なぜ僕を採用しようと思われたのでしょうか」
 これが一番の謎であり、聞きたかったことだ。 
 しかしながら――さすがに金ラメの地に大きなピンク色のハート模様の包装紙を選んだ理由と、下手くそな文字が書かれたクッキーについての意図は、この状況ではとてもじゃないが恐ろしくて佐野は質問できなかった。



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