174 / 334
第174話 どこにも所属していない人
しおりを挟む
「という訳で、もう現場事務所へは行きません。御社の会議にも出席することができなくなりました」
佐野は無理に笑顔を作ってユキへ言う。そしてこれらを言葉にした途端、猛烈な喪失感に襲われる。
もちろん一番の打撃はユキに会えなくなることだ。しかし職を失うのも、これまた別の意味で非常にキツい。心がぐらぐらと揺れ、何かにすがりつきたくなる。精神的にも金銭的にも、どこかに所属したくなる。どこでもいいから、だれでもいいから、と――
まずい。この感覚、昔もあった。佐野はすんでのところで我に返り、気持ちを立て直すためにコーヒーを一口飲む。
思い出した。これは学生時代の就職活動の時の感覚だ。周囲が次々と名の知れた企業から内定をもらうなか、自分だけが不採用の連続で、みじめで恥ずかしい思いをした時の心情だ。
あの時は焦りに焦って、もう職種なんてどうでもいいから、とにかく一刻も早く内定を手にして安心したかった。
むろん大手企業に越したことはない。でも自分には到底無理。全て不採用だったからだ。
しかも履歴書を送り、後に不採用の連絡が来るのはまだ良心的なほうで、黙殺という名の不採用通知を突きつけてくるのが大半だった。
結果、内定が取れないのは自分の全てがダメだからだと己を責め、自己嫌悪と自己不信の沼にはまり、物事を冷静に考えられなくなってしまった。
そうだ。今の動揺は、あの頃と同じ感情だ。しっかりしろ、自分。これ以上、ユキにみっともないところを見せるな。かっこよく去れ。ユキの中の自分の記憶に汚点をつけるな。最後まで良き下請作業員であれ!
佐野は激しい疲労と喪失感、そして、どこにも所属していない恐怖に翻弄されながら、己を叱咤激励する。
佐野は無理に笑顔を作ってユキへ言う。そしてこれらを言葉にした途端、猛烈な喪失感に襲われる。
もちろん一番の打撃はユキに会えなくなることだ。しかし職を失うのも、これまた別の意味で非常にキツい。心がぐらぐらと揺れ、何かにすがりつきたくなる。精神的にも金銭的にも、どこかに所属したくなる。どこでもいいから、だれでもいいから、と――
まずい。この感覚、昔もあった。佐野はすんでのところで我に返り、気持ちを立て直すためにコーヒーを一口飲む。
思い出した。これは学生時代の就職活動の時の感覚だ。周囲が次々と名の知れた企業から内定をもらうなか、自分だけが不採用の連続で、みじめで恥ずかしい思いをした時の心情だ。
あの時は焦りに焦って、もう職種なんてどうでもいいから、とにかく一刻も早く内定を手にして安心したかった。
むろん大手企業に越したことはない。でも自分には到底無理。全て不採用だったからだ。
しかも履歴書を送り、後に不採用の連絡が来るのはまだ良心的なほうで、黙殺という名の不採用通知を突きつけてくるのが大半だった。
結果、内定が取れないのは自分の全てがダメだからだと己を責め、自己嫌悪と自己不信の沼にはまり、物事を冷静に考えられなくなってしまった。
そうだ。今の動揺は、あの頃と同じ感情だ。しっかりしろ、自分。これ以上、ユキにみっともないところを見せるな。かっこよく去れ。ユキの中の自分の記憶に汚点をつけるな。最後まで良き下請作業員であれ!
佐野は激しい疲労と喪失感、そして、どこにも所属していない恐怖に翻弄されながら、己を叱咤激励する。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
81
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる