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第163話 電話一本くれてもいいのに
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その日の二十二時四十六分。テナントビルの現場。
さすが大手ゼネコンの現場責任者である。工期を短縮させられて激怒したのは十五時の休憩時間だけで、そのあとは冷静に工事工程を組み直し、佐野や技術者達へ的確に指示をする。近くにハエが一匹飛んできただけで大騒ぎする星崎とは大違いだ。
相変わらず周囲は素っ気ない態度のままだが、自分の勤務先のように怒号や鉄拳、工具や廃材が飛んでこないので、作業が実にはかどる。
佐野は淡々と手を動かし、「がんばってますアピール」もせずに夜間作業へ挑んでいる。
もちろんユキには電話をしていない。そしてユキからも連絡はなかった。
すでに現場責任者からユキへ事の次第は伝わっているはずだ。それでもなお音沙汰がないのは、仕事に集中しろという意味なのか、それとも元々、自分に興味がないせいなのか、はたまた図面の復旧でユキもそんな暇などないからなのか。でも、同じ橋本建設の現場なのだから、連絡の一つもくれたらいいのに。
昼間、鼻息も荒く「ユキ断ち」を決意したものの、もうこのありさま。むろん顔や態度、言動、作業の質へは一切の影響を出さずにいる。これは技術者としてのプライドであり、素質でもある。
人を好きになるって、いいことばかりではないのだな――
佐野は、胸躍る華やかな恋愛の舞台裏をそこで改めて垣間見る。
さすが大手ゼネコンの現場責任者である。工期を短縮させられて激怒したのは十五時の休憩時間だけで、そのあとは冷静に工事工程を組み直し、佐野や技術者達へ的確に指示をする。近くにハエが一匹飛んできただけで大騒ぎする星崎とは大違いだ。
相変わらず周囲は素っ気ない態度のままだが、自分の勤務先のように怒号や鉄拳、工具や廃材が飛んでこないので、作業が実にはかどる。
佐野は淡々と手を動かし、「がんばってますアピール」もせずに夜間作業へ挑んでいる。
もちろんユキには電話をしていない。そしてユキからも連絡はなかった。
すでに現場責任者からユキへ事の次第は伝わっているはずだ。それでもなお音沙汰がないのは、仕事に集中しろという意味なのか、それとも元々、自分に興味がないせいなのか、はたまた図面の復旧でユキもそんな暇などないからなのか。でも、同じ橋本建設の現場なのだから、連絡の一つもくれたらいいのに。
昼間、鼻息も荒く「ユキ断ち」を決意したものの、もうこのありさま。むろん顔や態度、言動、作業の質へは一切の影響を出さずにいる。これは技術者としてのプライドであり、素質でもある。
人を好きになるって、いいことばかりではないのだな――
佐野は、胸躍る華やかな恋愛の舞台裏をそこで改めて垣間見る。
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