かなり遅れたクリスマス～最悪な出逢いから始まる、人生の大逆転と恋の予感の物語

第８１話 仕返し

　佐野は罵詈雑言が書かれたシャッターに目をやりながら、改めてユキの意図を読む。すると即座に疑問が浮かび、続いてそれは確信へと変化した。
　落書き目的の人間が、真冬の深夜の暗闇の中、入念に防犯カメラの有無を確認するだろうかと。
　こういう行為は基本、書き逃げだ。カメラを探す時間も余裕もないはずだ。しかもカメラはわかりにくい角度で設置されている。
　加えて、なぜ現場事務所には近づかなかったのか。どうせ落書きするなら、一番目立つ現場事務所を狙うだろうに――
「……！」
　そこで佐野の脳裏に、とある人物の顔がよぎる。
　星崎だ。どう考えてもあいつしか考えられない。価格交渉でここへ来た時に、カメラの位置や有無を見ていたのだ。あのような気質の人間は、そういう所へ妙に気が回るもの。書かれた文面も、その動機を鮮明に紐付けている。
　しかし物的証拠もなく、防犯カメラにも写っていないからどうしようもない。仮に星崎へ聞いてもしらばっくれるに決まっている。現場事務所へ近づかなかったのも、これを見越してのことだ。
　悔しい。まんまと星崎にやられてしまった。これは昨夜の電話の仕返しだ。ユキに対する応酬だ。加えて、使いっ走りを断った自分への警告でもある。『オレ様に逆らったら、こうなるぞ』という脅しだ。
　きっと今頃、星崎はレイナと一緒に舌を出して笑っているはずだ。今や地球は自分を中心に回っているのだと悦に入りながら、工事部の誰かに命令して買わせた高価なシャンパンを飲んでいるのだ――
　佐野は、警察官と話しているユキの顔を意味ありげにチラリと見た。ユキも素早く目で返す。同じ考えなのだ。