70 / 334
第70話 帰れ。もう来るな。
しおりを挟む
Aは喋り過ぎて喉が渇いたらしく、カウンターに立つオーナーへ水割りのおかわりを頼んだ。
ちなみに当時のオーナーは先代だ。現在のオーナーは後にそこを引き継いたんだ。店のルールもコンセプトもそのままにな。
オーナーの年齢はAよりも二、三下という感じだった。けれど落ち着いた雰囲気で、態度も凜としていた。
そんなオーナーへ、Aはいつも通りの慇懃無礼な振る舞いで注文をした。もちろん俺の前にも水割りはあった。しかし口をつけられるような状況ではなかったから、グラスの中の氷は完全にとけ、外側についた水滴はコースターをずぶ濡れにしていた。
俺は、これから来るであろう二杯目の水割りに戦々恐々としていた。
とにかく会社を休んで出張に同行しろとしつこく言うだろう。でもそれはできない。かといって、絶対に嫌われたくない――じゃあどうしたらいいんだ? 俺は硬く握った両方の拳を膝の上に置き、それをじっと見つめながら細かく震えていた。
けれど、いくら待っても水割りは来ない。Aは再び注文をする。それでも一向に来ないんだ。思えばオーナーの返事がない。最初も、二回目も。
これには俺もさすがに妙だと感じ、こわごわと顔を上げ、カウンター越しのオーナーを見た。するとオーナーはそれを待っていたかのようにAに向かってこう言ったんだ。
「帰れ。もう来るな。あんたはもう出入禁止だ」と。
ちなみに当時のオーナーは先代だ。現在のオーナーは後にそこを引き継いたんだ。店のルールもコンセプトもそのままにな。
オーナーの年齢はAよりも二、三下という感じだった。けれど落ち着いた雰囲気で、態度も凜としていた。
そんなオーナーへ、Aはいつも通りの慇懃無礼な振る舞いで注文をした。もちろん俺の前にも水割りはあった。しかし口をつけられるような状況ではなかったから、グラスの中の氷は完全にとけ、外側についた水滴はコースターをずぶ濡れにしていた。
俺は、これから来るであろう二杯目の水割りに戦々恐々としていた。
とにかく会社を休んで出張に同行しろとしつこく言うだろう。でもそれはできない。かといって、絶対に嫌われたくない――じゃあどうしたらいいんだ? 俺は硬く握った両方の拳を膝の上に置き、それをじっと見つめながら細かく震えていた。
けれど、いくら待っても水割りは来ない。Aは再び注文をする。それでも一向に来ないんだ。思えばオーナーの返事がない。最初も、二回目も。
これには俺もさすがに妙だと感じ、こわごわと顔を上げ、カウンター越しのオーナーを見た。するとオーナーはそれを待っていたかのようにAに向かってこう言ったんだ。
「帰れ。もう来るな。あんたはもう出入禁止だ」と。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
81
1 / 4
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる