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第39話  商談成立

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 ユキに気圧された星崎は返す言葉も見つからず、口をパクパクさせている。
 「では、このようにいたしましょう」
 ユキが一歩前へ進む。すると星崎は再び後ずさりした。けれど凍った路面に足を滑らせ、悲鳴とともに尻餅をつく。
「暴力行為が指導の一環という、人権侵害もはなはだしい会社など、当社は下請には使いたくありません」
 ユキは尻餅をついたままの星崎を見下ろして言う。
「なので、今すぐにでも下請リストから御社を抹消したいところです」
 ユキがまた一歩進む。
「ひいっ」
 星崎は立ち上がれないまま、じりじりとうしろへ下がる。佐野には見えないが、ユキの眼力があまりにも強烈らしい。
「でもとりあえず当社の恩情として、佐野さんは当初の金額で契約を続行します。しかし勘違いしないでください。これは御社を守るためではありません。あくまで私の現場での取り決めです。下請リストについては覚悟しておいてください」
「うう」
「御社の悪評は今やゼネコンはおろか、関連業者にまで広がっています。だから、いいかげん飲み屋の女を社員だといつわっての営業や移動は止めたらどうですか。どこの現場でも笑いものになってますよ。しかもそのせいで鈴木さんが解雇されたことも、もうみんな知ってますよ」
 ユキが黒塗りの高級車をあごでしゃくる。佐野はそこで初めてまじまじと車を見た。
「ああー……」
 佐野があきれて首を横に振る。助手席でレイナが大口を開けて爆睡しているのだ。どうやら昨晩から『デート中』らしい。

「じゃあ、そういうことで。佐野さん、事務所の薬箱に湿布がある。すぐに貼ろう」
 ユキが星崎に背を向けて歩き出す。表情は硬い。けれどさっきよりはいくぶん穏やかだ。
「はい」
 佐野は左の頬をさすりながらついて行く。上司とはいえ、星崎を助け起こす気にはならなかった。会釈すらしたくない。
 とにもかくにも商談成立。ユキの手腕に思わず唸る。
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