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第18話 良からぬ評判

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「実は去年くらいから古山建設さんの評判、かなり悪いんだ。このままなら下請選定リストから外されるよ」
 高橋が眉根を寄せて佐野に言う。廊下を出てすぐの会議室とおぼしき部屋。佐野とユキは並んで座り、高橋は細長い机を挟み、向かい合って座っている。
「これはうちだけじゃない。他の協力会社からもそんな声があがってるんだ」
「大変申し訳ございません。弊社の誰でございましょうか。厳重に注意いたしますので」
 佐野は幾度も頭を下げて謝罪する。ついに来た、星崎の弊害。多分いつかはこうなるとつねづね恐れていたことが、とうとう起きてしまった。
 工事部の誰もが、仕事よりも星崎からの攻撃をかわしたり嫌がらせをやり過ごすことに労力を削がれ、書類や図面、さらには工事現場でミスを多発。元請をはじめ、一緒に施工する同業者からも眉をひそめられているのは工事部内でも前から問題となっていた。
 けれど口の上手い星崎は社長や取締役のお気に入り。だから『やんちゃ』で済まされたうえに、自分が工事部をたたき直すと豪語して、まんまと株まであげてしまう。
 だから誰が評判を落としているかなどと聞くのは最初から愚問。星崎以外の全員だからだ。もちろん自分も含めてだ。
 でもあえて高橋にそう聞いたのは、どうにかこの場を穏便にすませ、一刻も早く現場事務所へ戻るため。
 というのも現在、星崎のターゲットは佐野。よって高橋に警告された内容を星崎へ伝えても、即座にもみ消されるのは目に見えている。下手すれば余計なことを言いやがってと殴られる。仮に星崎を飛び越えて工事部の部長へ言っても聞く耳は持たない。星崎を擁護する取締役の一人なのだから。
 タイミングが悪すぎる。名刺配りの挨拶は鬼門だった。佐野は縮こまりながら高橋の返答を待つ。たとえ聞いても意味のない答えを。
「個人の特定はできない。けれどほとんどの現場でいい話は聞かない。だから気をつけて欲しいんだ。もしこれで労働災害を起こしたら最後、どこも使ってくれないぞ」
 つまりほぼ全員という意味か。
「まことに申し訳ございません」
 うちの会社、大丈夫だろうか。売上のほぼ大半が橋本建設。ここを切られたら完全に路頭に迷う。佐野の心に真っ黒な不安の煙がごうごうと渦を巻く。
「あの――高橋部長」
 そこでユキがようやく口を開いた。
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