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Chapter.9
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「……できた」
乳白色の紙に、テーブルの一部と青い花が焼き付けられた白磁のカップが描き写されている。
今日の日付と自分のサインを入れて、スケッチブックを閉じた。
(私もそろそろ帰ろう)
持ち物をバッグにしまい、ジンジャーエールを飲み干しながら、ふと雁ヶ谷の言葉を思い出した。
“この席、新成くんしか案内しないから”
雁ヶ谷と宿はなにかしらのきっかけで知り合い、“ちょっと特別”な理由で複数の常連からの申し出を断り続けている【予約席】を設けた。雁ヶ谷にとって、宿はなにかしら、特別な存在なのではないか。
経緯は予想できるものの、その理由まではわからない。帰りにマスターに聞いてみようか。しかし事情によっては、人の心に土足で踏み込むことになってしまうかもと考えつつ、テーブルの中央に鎮座している【予約席】のプレートをなんとはなしに指先を近付け…『パチン!』…鋭い音がして、指先に強い静電気が走った。
(いったぁ……)
指先を擦り合わせ、乾燥してるな、ハンドクリーム塗らなきゃと考えて、チヤはプレートを二度見した。
(プラスチックって静電気起きるっけ?!)
中に機械や鉄が入っているものならまだしも、このプレートにそんなものが入っているとは考えにくい。チヤは夏場にも静電気が起こる体質で、慣れているから華麗にスルーしてしまうところだった。
とはいえ、絶対に発生しないと言えるほどの知識もないので、結局すっかり忘れてしまうのだけど、あとでスマホで調べてみようと思いつつレジに向かった。
「スミマセン、カップ、ありがとうございました」
「うん、もういいの?」
「はい、描けたので帰ります。お会計お願いします」
財布を出しつつチヤが言う。
「はーい。ジンジャーエール、400円でーす」
「はい。あれ? ミルクティーは?」
「え? その分はもうもらったけど?」
「え? 払ってないですよ?」
「いや、新成くんにお支払いしてもらった」
「……えっ?!」
「彼が帰るとき、“奥の席二人分”~って」
「えぇ~……」
(一緒に席を立つべきだったか~)後悔するがもう遅い。
【月に雁】には各テーブルに伝票を置く風習がない(客席数が少なくて伝票がなくてもオーダー内容を把握できるから必要ない、とは雁ヶ谷談)。だから気付くことができなかった。
(お礼を言いそびれてしまった……)
追加注文分だけを支払い雁ヶ谷に挨拶をして店を出て、メッセで送るお礼の言葉を考えながら帰路につく。しかし、気の利いたお礼文を考えるのは難しいもので、良い文面はなかなか浮かばない。個人的に送りたい『またお会いできたら嬉しいです』なんて文言はいくらでも浮かんでくるのに。
(……あれ? もしかして、あの場で描いて渡さなかったら、確実にもう一度プライベートで会えたんじゃない?)
ノートを預けるつもりだったらしい宿の言動を思い出す。その場で描くことに驚いていたのだから、いずれまた、アポを取るつもりだったかもしれない。が、その後悔ももう遅い。
失敗した、という思いと、依頼は迅速かつ丁寧に、という自分のモットーがせめぎあう。
しかしもうノートは返してしまったし、去り際に“また連絡します”と言っていたし、終わってしまったことをやり直すことはできないし、と自分を納得させる。
あんなに焦がれていた“新成先生”と個人的に連絡が取りあえるようになったというのに、こんなに冷静なのはこれが“仕事上の関係”だからだろうか。それとも現実に思考が追い付いていないのか……。
(色々妄想してたけど、リアルに会ったらこんな感じなんだなー)
なんて他人事のようにぼんやりと考えながら歩いていたら、家に着いていた。
(まぁ、クライアントだし……っていうか、最初遭遇した時に「ファンです」とか言わなくて本当に良かった)
部屋着に着替えつつ、バッグからノート類一式を取り出して作業机に置いた。スケブを開いて、先ほど描き上げたコーヒーカップのページを眺める。
(……なんでこんなに現実味ないんだろう)
つい二時間前まで目の前にいて会話をしていたのに、就寝中に見た夢を思い出すような、どこか掴みどころのない感覚が付きまとう。【月に雁】で会ってから今日まで一ヶ月程度しか経っていないし、怒涛の急展開に頭が着いて行っていない可能性も考えられる。
(お礼、どう書こう……)
浮かんでくる“お礼の言葉”はビジネス文章ばかり。あまりに色気がないのでは? しかしいまの関係性に色気が必要なのか? なんて悶々と考えるうちに、時間ばかりが過ぎていく。
うーん……と悩んで、開いたスケッチブックの新しいページにペンを走らせる。手の赴くままに描いて、できあがったのはエナガが三羽、枝に止まっている絵だった。バッグから出した色鉛筆で彩色し、お礼の言葉を書き添えて、スマホで写真を撮る。
それだけ送信して終わり、というのもなんなので、やはり文章も改めて考える。
メッセを開いて宿のID宛の個別画面を睨み、うんうん唸りながらやっと入力を終え、最終確認後、画像と一緒に送信した。
(あぁ~、送っちゃった~)と、しばらくは画面を眺めていたが、すぐに既読が付くわけではない。“打ち合わせに行く”と店を出てから数時間経過しているけど、まだ仕事中なのかもしれない。
「仕事しよ……」
自分に言い聞かせるようにつぶやいて、数日前に送られてきた資料を再読する。レギュラーの仕事だから要領は得ているけど、それでも確認は大事だ。
宿との仕事はまだ本格的には活動開始していない。詳細が決まるまでは動いても空振りになりそうだけど、それでもじっと待つのが何故か不安で、空いた時間に宿の小説を再読してイメージを膨らませる練習をしたりしている。
宿の小説には、登場人物の見た目に説明がない作品が多い。それは読み手の数と同数の登場人物像が生まれるということ。
SNS上などで“もし実写化するなら”話に出てくる芸能人の名前もかなり多彩だ。
チヤも何度となく趣味でキャラクターデザインをしたことがあり、ポートフォリオの中にも一点、それとは書かずに宿の小説のワンシーンをイメージした風景画を入れてある。
特徴的な描写は省いて描き、すぐに気付かれないようにしてはいるが、書いた本人が見たらどうか……。
(気付いた上で依頼が来たなら、それはそれでアリだしなー)
パソコンを立ち上げ、資料を確認しながらペンタブレットでカットを描いていく。紙に描くのとは違い、やり直しが簡単に出来るから楽ではあるけど、それだけに追及しすぎてしまい完成の判断に迷うときがある。迷ってるということは自分で納得いってない、ということだから、やはり納得するまで手を入れてから入稿する。
際限を決める判断も必要で、チヤは度々頭を悩ませている。どちらも苦しく、しかし楽しい作業には違いない。
「ん……完成」
数日前から取り掛かっていた数点のカットを描き終えて、デジタル入稿する。あとは直しの注文がこなければ、この依頼は任務完了ということになる。
(お茶淹れよう)
席を立ったところで、机上で充電していたスマホが音を立て、震えた。
(ちょっと……あとで……)
お湯を沸かしつつトイレに行ったりして、マグボトルいっぱいにお湯を入れ、粉末飲料の袋を持って部屋へ戻る。マグカップの中で混ぜて作ったミルクティーを一口すすり
「ん」(そうだ。新着メッセ)
スマホが鳴ったのを思い出して通知を確認する。画面に表示されたポップアップを見て、あやうくカップを落としそうになるくらい驚いた。
表示されたのが【新成 宿】からのメッセージだったからだ。
通知画面の限られたサイズには収まりきらない行数、送信されているようで読み終えることができず、通知窓をスライドしてアプリを起動させた。
画面にポコンと吹き出しが表示される。
『こちらこそ、ありがとうございました。原稿料……というにはささやかすぎますが、そのつもりでしたのでお気になさらないでください。』
宿からのメッセを読み終えたところで、新たに吹き出しがひとつ出来た。
『イラストもありがとうございます! 新作ですか?』
(ふぁっ! クエスチョン来ちゃった!)
鼓動に合わせて微(かす)かに震える指先で返信を打ち込み、送信する。
『はい。イラストはさっき描きました。喜んでいただけていたのならなによりです。』
『お茶代もありがたくお受けします。』
さんざん悩んで、結局必要最低限の言葉のみを送信した。
(あぁ。もっと文才があれば……)
しかし、絵と文章、どちらの才能が欲しいかと問われれば、チヤは迷わず絵の才能を望む。元々描くのは好きだったが、周囲から飛びぬけて上手というわけではなかったからだ。
プロになりたいと思ってから、毎日絵を描くことにした。モチーフもサイズも一定の物には決めず、ただ毎日、最低一点は何かしらの絵を描く、と。
少しずつでも毎日継続していくと、日を重ねるにつれ上達するのがわかってそれも面白かった。
いまでも丸一日、なにも描かない日はない。それがたとえ、手帳に描くような小さく単純なイラストだったとしても。
描かないと腕が鈍るような、居心地の悪さが残るような……ある意味強迫観念のようなものがないとは言い切れない。きっと、まだ自分は未熟者なのだろうと思う。
コゲラ社のスケジュール帳、その月間か週間の欄に、その日の気分や印象に残ったことを最低一点、それとは別にアイデアが浮かべば、メモページに残していく。
チヤはその行為を“才能の積立貯金”と呼んでいる。
毎日コツコツ経験を積み立てていけば、いつか大きな才能が自分に返ってくるかもしれない。
そしてそう信じていれば、それは真実になるんじゃないか。なんて、わりと真面目に期待している。
しばらくして、チヤが送ったメッセに既読がついた。返答しやすいような文章でもないので、返信を待たずにアプリを閉じた。
(個人的に連絡取れるようになるなんて思ってなかったな……)
少しぬるくなったミルクティーをほっこりとした気分で飲み込むと、雁ヶ谷には申し訳ないが、今日飲んだ中で一番美味しく感じた。
* * *
乳白色の紙に、テーブルの一部と青い花が焼き付けられた白磁のカップが描き写されている。
今日の日付と自分のサインを入れて、スケッチブックを閉じた。
(私もそろそろ帰ろう)
持ち物をバッグにしまい、ジンジャーエールを飲み干しながら、ふと雁ヶ谷の言葉を思い出した。
“この席、新成くんしか案内しないから”
雁ヶ谷と宿はなにかしらのきっかけで知り合い、“ちょっと特別”な理由で複数の常連からの申し出を断り続けている【予約席】を設けた。雁ヶ谷にとって、宿はなにかしら、特別な存在なのではないか。
経緯は予想できるものの、その理由まではわからない。帰りにマスターに聞いてみようか。しかし事情によっては、人の心に土足で踏み込むことになってしまうかもと考えつつ、テーブルの中央に鎮座している【予約席】のプレートをなんとはなしに指先を近付け…『パチン!』…鋭い音がして、指先に強い静電気が走った。
(いったぁ……)
指先を擦り合わせ、乾燥してるな、ハンドクリーム塗らなきゃと考えて、チヤはプレートを二度見した。
(プラスチックって静電気起きるっけ?!)
中に機械や鉄が入っているものならまだしも、このプレートにそんなものが入っているとは考えにくい。チヤは夏場にも静電気が起こる体質で、慣れているから華麗にスルーしてしまうところだった。
とはいえ、絶対に発生しないと言えるほどの知識もないので、結局すっかり忘れてしまうのだけど、あとでスマホで調べてみようと思いつつレジに向かった。
「スミマセン、カップ、ありがとうございました」
「うん、もういいの?」
「はい、描けたので帰ります。お会計お願いします」
財布を出しつつチヤが言う。
「はーい。ジンジャーエール、400円でーす」
「はい。あれ? ミルクティーは?」
「え? その分はもうもらったけど?」
「え? 払ってないですよ?」
「いや、新成くんにお支払いしてもらった」
「……えっ?!」
「彼が帰るとき、“奥の席二人分”~って」
「えぇ~……」
(一緒に席を立つべきだったか~)後悔するがもう遅い。
【月に雁】には各テーブルに伝票を置く風習がない(客席数が少なくて伝票がなくてもオーダー内容を把握できるから必要ない、とは雁ヶ谷談)。だから気付くことができなかった。
(お礼を言いそびれてしまった……)
追加注文分だけを支払い雁ヶ谷に挨拶をして店を出て、メッセで送るお礼の言葉を考えながら帰路につく。しかし、気の利いたお礼文を考えるのは難しいもので、良い文面はなかなか浮かばない。個人的に送りたい『またお会いできたら嬉しいです』なんて文言はいくらでも浮かんでくるのに。
(……あれ? もしかして、あの場で描いて渡さなかったら、確実にもう一度プライベートで会えたんじゃない?)
ノートを預けるつもりだったらしい宿の言動を思い出す。その場で描くことに驚いていたのだから、いずれまた、アポを取るつもりだったかもしれない。が、その後悔ももう遅い。
失敗した、という思いと、依頼は迅速かつ丁寧に、という自分のモットーがせめぎあう。
しかしもうノートは返してしまったし、去り際に“また連絡します”と言っていたし、終わってしまったことをやり直すことはできないし、と自分を納得させる。
あんなに焦がれていた“新成先生”と個人的に連絡が取りあえるようになったというのに、こんなに冷静なのはこれが“仕事上の関係”だからだろうか。それとも現実に思考が追い付いていないのか……。
(色々妄想してたけど、リアルに会ったらこんな感じなんだなー)
なんて他人事のようにぼんやりと考えながら歩いていたら、家に着いていた。
(まぁ、クライアントだし……っていうか、最初遭遇した時に「ファンです」とか言わなくて本当に良かった)
部屋着に着替えつつ、バッグからノート類一式を取り出して作業机に置いた。スケブを開いて、先ほど描き上げたコーヒーカップのページを眺める。
(……なんでこんなに現実味ないんだろう)
つい二時間前まで目の前にいて会話をしていたのに、就寝中に見た夢を思い出すような、どこか掴みどころのない感覚が付きまとう。【月に雁】で会ってから今日まで一ヶ月程度しか経っていないし、怒涛の急展開に頭が着いて行っていない可能性も考えられる。
(お礼、どう書こう……)
浮かんでくる“お礼の言葉”はビジネス文章ばかり。あまりに色気がないのでは? しかしいまの関係性に色気が必要なのか? なんて悶々と考えるうちに、時間ばかりが過ぎていく。
うーん……と悩んで、開いたスケッチブックの新しいページにペンを走らせる。手の赴くままに描いて、できあがったのはエナガが三羽、枝に止まっている絵だった。バッグから出した色鉛筆で彩色し、お礼の言葉を書き添えて、スマホで写真を撮る。
それだけ送信して終わり、というのもなんなので、やはり文章も改めて考える。
メッセを開いて宿のID宛の個別画面を睨み、うんうん唸りながらやっと入力を終え、最終確認後、画像と一緒に送信した。
(あぁ~、送っちゃった~)と、しばらくは画面を眺めていたが、すぐに既読が付くわけではない。“打ち合わせに行く”と店を出てから数時間経過しているけど、まだ仕事中なのかもしれない。
「仕事しよ……」
自分に言い聞かせるようにつぶやいて、数日前に送られてきた資料を再読する。レギュラーの仕事だから要領は得ているけど、それでも確認は大事だ。
宿との仕事はまだ本格的には活動開始していない。詳細が決まるまでは動いても空振りになりそうだけど、それでもじっと待つのが何故か不安で、空いた時間に宿の小説を再読してイメージを膨らませる練習をしたりしている。
宿の小説には、登場人物の見た目に説明がない作品が多い。それは読み手の数と同数の登場人物像が生まれるということ。
SNS上などで“もし実写化するなら”話に出てくる芸能人の名前もかなり多彩だ。
チヤも何度となく趣味でキャラクターデザインをしたことがあり、ポートフォリオの中にも一点、それとは書かずに宿の小説のワンシーンをイメージした風景画を入れてある。
特徴的な描写は省いて描き、すぐに気付かれないようにしてはいるが、書いた本人が見たらどうか……。
(気付いた上で依頼が来たなら、それはそれでアリだしなー)
パソコンを立ち上げ、資料を確認しながらペンタブレットでカットを描いていく。紙に描くのとは違い、やり直しが簡単に出来るから楽ではあるけど、それだけに追及しすぎてしまい完成の判断に迷うときがある。迷ってるということは自分で納得いってない、ということだから、やはり納得するまで手を入れてから入稿する。
際限を決める判断も必要で、チヤは度々頭を悩ませている。どちらも苦しく、しかし楽しい作業には違いない。
「ん……完成」
数日前から取り掛かっていた数点のカットを描き終えて、デジタル入稿する。あとは直しの注文がこなければ、この依頼は任務完了ということになる。
(お茶淹れよう)
席を立ったところで、机上で充電していたスマホが音を立て、震えた。
(ちょっと……あとで……)
お湯を沸かしつつトイレに行ったりして、マグボトルいっぱいにお湯を入れ、粉末飲料の袋を持って部屋へ戻る。マグカップの中で混ぜて作ったミルクティーを一口すすり
「ん」(そうだ。新着メッセ)
スマホが鳴ったのを思い出して通知を確認する。画面に表示されたポップアップを見て、あやうくカップを落としそうになるくらい驚いた。
表示されたのが【新成 宿】からのメッセージだったからだ。
通知画面の限られたサイズには収まりきらない行数、送信されているようで読み終えることができず、通知窓をスライドしてアプリを起動させた。
画面にポコンと吹き出しが表示される。
『こちらこそ、ありがとうございました。原稿料……というにはささやかすぎますが、そのつもりでしたのでお気になさらないでください。』
宿からのメッセを読み終えたところで、新たに吹き出しがひとつ出来た。
『イラストもありがとうございます! 新作ですか?』
(ふぁっ! クエスチョン来ちゃった!)
鼓動に合わせて微(かす)かに震える指先で返信を打ち込み、送信する。
『はい。イラストはさっき描きました。喜んでいただけていたのならなによりです。』
『お茶代もありがたくお受けします。』
さんざん悩んで、結局必要最低限の言葉のみを送信した。
(あぁ。もっと文才があれば……)
しかし、絵と文章、どちらの才能が欲しいかと問われれば、チヤは迷わず絵の才能を望む。元々描くのは好きだったが、周囲から飛びぬけて上手というわけではなかったからだ。
プロになりたいと思ってから、毎日絵を描くことにした。モチーフもサイズも一定の物には決めず、ただ毎日、最低一点は何かしらの絵を描く、と。
少しずつでも毎日継続していくと、日を重ねるにつれ上達するのがわかってそれも面白かった。
いまでも丸一日、なにも描かない日はない。それがたとえ、手帳に描くような小さく単純なイラストだったとしても。
描かないと腕が鈍るような、居心地の悪さが残るような……ある意味強迫観念のようなものがないとは言い切れない。きっと、まだ自分は未熟者なのだろうと思う。
コゲラ社のスケジュール帳、その月間か週間の欄に、その日の気分や印象に残ったことを最低一点、それとは別にアイデアが浮かべば、メモページに残していく。
チヤはその行為を“才能の積立貯金”と呼んでいる。
毎日コツコツ経験を積み立てていけば、いつか大きな才能が自分に返ってくるかもしれない。
そしてそう信じていれば、それは真実になるんじゃないか。なんて、わりと真面目に期待している。
しばらくして、チヤが送ったメッセに既読がついた。返答しやすいような文章でもないので、返信を待たずにアプリを閉じた。
(個人的に連絡取れるようになるなんて思ってなかったな……)
少しぬるくなったミルクティーをほっこりとした気分で飲み込むと、雁ヶ谷には申し訳ないが、今日飲んだ中で一番美味しく感じた。
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