異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家

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第七章 魔法王国の動乱

王族派貴族会議1

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 新暦3062年夏二月
 泣き声の荒野での合戦の4カ月前

 王都ローレシアでは王族派貴族への秘密裏の招集がかけられていた。
 厳格な警備に守られた歴史ある魔法王国の王城、その一室にいま国を統治する最重要人物たちが一様に介していた。
 
 部屋は魔道具により防音とセキュリティが万全に整い、蟻一匹入ることはかなわない。長机が置かれたひかくてきこじんまりした部屋で、四隅には剣をたずさえた精強なる騎士たちがいる。
 長机の短辺、奥に座する顎鬚を整えた威風ある男こそ、ローレシア魔法王国を導く指導者ウォルゲル・トライア・ジョブレス王である。
 
「して、どうしたものか」

 ヴォルゲル王は難しい顔をし、眉間にしわをよせ、弱り果てた風にため息をつく。
 もうかれこれ5時間もこうして議論をかわしているのだ。

 王の立派な椅子のうしろに控える屈強な男は「ご無理をなさらず」と王を気に掛ける言葉をかけた。この男は『王の剣』と呼ばれる魔法王国騎士団うち魔法騎士隊隊長、名をマーヴィンと言う。やや後退の激しい薄毛に悩む、糸目の男である。
 武勇に優れ、魔法に優れる彼でも、王の悩みを祓うことはできない。
 そのことにマーヴィンは自らの無力さを痛感していた。
 あるいは自分にどんな大軍をまえにしようと、そのすべてを斬り捨てるほどの伝説的英雄に匹敵する武勇の持ち主であれば、王はこれほどに頭を悩ませはしなかったのだろう。しかし、現実にそんなおとぎ話に出て来るような英雄はいない。

 ヴォルゲル王はマーヴィンの気づかいに「ああ、大丈夫だ。今日は調子がいい」と鷹揚に手をあげる。

 室内にはぺらぺらとわざとらしく紙をめくる音だけが響いている。
 長時間の会議で皆疲れはて、それぞれの手元に用意されたコップの水はぬるくなり、魔法瓶にそそがれていた果実水はなくなっている。
 彼らがこれほどに悩んでいるのは、いよいよ貴族派貴族の動きが怪しくなってきたからだ。

 昨年よりポロスコフィン領では税が引き上げられ、戦争への準備と思われる兵糧の蓄えがはじめっていた。そして、数カ月前には民兵の徴兵が行われはじめた。村々から男出を集めて、町へ連れて来させ、駐屯地で訓練をほどこしているのだ。
 彼らの敵は『卑しき種族と人間族との融和政策をおこなう悪王』である。
 『セントラルの地』には太古の時代より、多くの種族が生きて来た。人間族を筆頭にエルフ族、ドワーフ族などなど、いくつかの種族が台頭している一方で、多くの種族が奴隷とされ、人間文明の人柱にされている。暗黒の末裔などにあげられるこうした者たちは、卑しき者とされ、忌避されてきた。
 ゆえに近年の奴隷解放が人類史の転換期であり、そこに巨大な意見のぶつかり合いが起きるのは必然であった。貴族派は人類の遺産と伝統を守るため、奴隷たちとの融和を嫌がっている派閥なのである。

 戦いの準備を進める貴族派に対して王族派もまた王の号令のもと、兵糧の確保と、民兵の訓練をおこないはじめた。できればそんなことはしたくないが、やらねばならない。徴兵とはすなわち、男出が村々からいなくなることを意味する。男がいなくなれば、それだけ仕事はできなくなり、畜産農作の生産が落ちる。そうすれば、長期的に見て国力の低下をまねき、しまいには食料自給率の低下に出生率の低下を招くことになる。戦争とは、準備をするだけで長期的損失を生むのである。

 王としてもなるべく戦争の号令はかけたくない。貴族たちに「戦争がはじまるから準備をせよ」と言うのには、気を遣う。それは各々の領地に「生産を下げろ。税の取り立てを増やせ」と強制するのと同義であるからだ。
 そのため、王は貴族派筆頭貴族ポロスコフィン領で動きがあるまでは、王族派貴族たちにも戦争の準備はさせなかった。下手に準備をはじめてポロスコフィン領を刺激したくもなかった。
 ヴォルゲル王は内心ではどこかで貴族派貴族たちも思いとどまってくれるかもしれない、などと思っていたのだ。

 しかし、現実に彼らは動き出した。
 動き出してしまったのだ。

「ポロスコフィン領からの内偵の報告によりますと、どうやら泣き声の荒野の東側の町々で動きがあるようですね。まず間違いなく兵糧の運び入れでしょう。この次の段階は騎士たちの移動と民兵の移動です」

 言うのは王族派貴族のなかでも筆頭のロムレ・ハーヴェインだ。切れ長の瞳をもつふくよかな男性で、優れた手腕で派閥間を縫い合わせるやり手である。だが、同時に王族派から貴族派にのりかえる危うさも持っており、旗色が悪くなれば、平気で裏切るとの見方もおおくの領地貴族が思っているのもまた事実だ。
 
「ハーヴェイン殿の言いたいことはわかります。キンドロ領の隣接地帯。数カ月は軍を本格的に動かすまで猶予はあるでしょうが、おそらくはそこでポロスコフィン領は最初の侵攻を行うでしょう。我々も動き出さなくては手遅れになる」

 答えるのはハイランド・ヴァン・キンドロ。
 キンドロ領を第二位領地貴族であり、貴族派筆頭ポロスコフィン領と50kmに渡って領境を隣接する領主である。
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