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第七章 魔法王国の動乱

王族派貴族会議2

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「こちらも動き出す必要があるということですね。わかっております。すでに領地内の騎士貴族各位には通達を済ませておりますし、戦への備えをはじめてもおります。内々にですが」

 ハイランド・ヴァン・キンドロはこれまで再三繰りかえした話をまたすることになるのか、とあるひとりの貴族へ視線をじっと向ける。
 ルーヴェン・オムニクス、王族派貴族のなかでも保守的な姿勢を持つ貴族である。

「流石はキンドロ殿、王家に仇名す不遜な貴族派を迎え撃つ準備はできているということですな」
 
 声をおおきく、膝を打って、おおげさに言う。
 
「ですが、我が領内の兵だけでポロスコフィン領に集結しつつある貴族群を迎え撃つのは、この際はっきり申し上げましょう、非常に難しいものがある、と。何度も申し上げましたように、領内最大の騎士団駐屯地であるバンザイデス要塞都市が陥落した影響から立ち直れていません。ですので、なにとぞ、ここでひとつお力をお借りしなくてはなりますまい」

 会議の方向としては、王族派はポロスコフィン領に集結しつつある貴族派の軍をいかにして迎え撃つか、という部分で思惑は一致している。
 ここで出鼻をくじけば、王家の威信を示すことができるし、それによって貴族派の王家への威勢のよさをおさえこむことができる。

 王としても次点での対処はこの最初の合戦にあると踏んでいた。
 
 王族派貴族たちは泣き声の荒野での合戦におのおの領地から派兵することで合意はできていた。……つい先日までは。
 というのも、いざ戦争が近づくにつれ、足並みがそろわなくなってきたのだ。
 とりわけ顕著なのはポロスコフィン領を筆頭とした魔法王国東側に集中している貴族派たちからは、遠い地にある西側に領地をもつ貴族たちである。
 ルーヴェン・オムニクスはそんな西側王族派貴族の筆頭であり、おおきな兵力を用意できるにも関わらず、泣き声の荒野での合戦に「我が領地からは派兵はできません」などと、のたまいはじめた不穏因子なのである。
 
 キンドロは眉根をひそめ、オムニクスの楽観的な表情を妬ましく思う。

(自領が戦地から遠いから危機感がまるでないのだろう。他人事のようにしている)

「オムニクス卿、もうポロスコフィン領での動きは到底看過できるものではなくなっております。貴殿のアーケイン領からは3カ月前まで50,000の民兵と4,000の訓練された騎士、あわせて54,000万を派兵してくださるとのことでした。その力が必要なのです」
「その試算なのですが、さきほども申し上げました通り、計算違いがあったのです。実際はその半分がいいところでしょう。なにより我が領地は魔術王国との国境沿いにあります。我が領地は国家存亡という極致において非常に重要な要所、ここから兵を簡単に動かすことはできないのです」

 オムニクスは残念そうな表情をして首を横に振る。

 一見して理があるような意見だが、実際のところは自分の領地から派兵するコストを渋っているのだ。同じ王族派貴族であるが、移動だけで15日以上もかかる泣き声の荒野に大軍を動かすのは非常におおきなコストがかかる。民兵50,000はそのまま派兵してもなんの役にも立たないので、ある程度は訓練をさせないといけないし、そのために駐屯地を設営して、生活をさせ、食わせなければならない。おおきな出費があるのに、他方、農村では男出が減り生産が落ちる。そこまでして得られる王家からの褒賞と信頼には価値があるが、しかしそれは戦争の損失をすべて賄うものではない。
 疲弊した分だけ自分の領地は貧しくなり、失われた分は自分で取り戻すしかない。
 
 西の大貴族オムニクスがこんな姿勢でいるものだから、領地貴族たちもこの戦争に悲観的になり、やや派兵を渋り始めてもいた。

 ヴォルゲル王やキンドロと言った状況は逼迫していることを正しく認識している者ほど、こうしたいまはまだ安全圏に領地貴族たちの保身が、のちに大きな敗北をまねくだろうと危機感を募らせていた。
 
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