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第五章 都市国家の聖獣
巨人が現れた日
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突如として都市外壁上空に現れた黒い巨人たちに、皆が困惑と恐怖を感じていた。
だれもがはじめて見る光景だった。
その正体にはまるで見当がつかなかった。
宙に浮かぶ巨体がどこから来たのか、何者なのか、有害なのか、無害なのか、誰が連れて来たのか、どこへ向かうのか。
クリスト・カトレアの新聞社がすぐに動き出し、デタラメな記事を書いては、市民を煽動し始めるまでわずか数時間しかかからなかったのこともあって、市民は漠然とした不安を大きくさせていくこととなった。
王家は騎士団から兵士を派遣し、新聞社を取り締まった。
同時に外壁で監視をさせることにした。
実際に近づいてみて兵士たちはいくつかの事実を理解した。
巨人は一体一体が10m以上の身長を誇っていて、そのどれもが高い魔力をおびた怪物であることを。外壁に登ろうとも、巨人はずっと高い位置で浮遊しており、高度差は100m以上あることを。
それが60機もズラッと等間隔で並んで、クリスト・カトレアの上空に浮遊している。
兵士たちは外壁の上で頭を悩ませた。
攻撃手段がないのである。
投石器を使おうにも、巨人の浮遊高度は高すぎたし、なにより設置するには相応の時間が必要だった。数日はかかる作業だ。
魔術王国より輸入された魔導砲が国内に4門あったので、それを使おうという案もあったが、こちらは外壁の上まで運ぶ手段がなかった。そもそも100m直上の標的を撃てる精度があるかも不明だった。
兵士たちのボウガンで挑むには殊更に無意味だ。お話にならない距離である。
ゆえにカトレア王家は、いったん黒い巨人の様子を見ることにした。
というより、それ以外の選択肢がなかった。
攻撃を届かせる手段がないのだから。
あるいは、とても自分たちから、あの超常的な存在に対して、なにかをしようとは思えなかっただけかもしれないが。
「宮廷魔術工房は、神秘魔力の層が、都市全体を覆っていると報告を上げています」
巨人出現から数時間が経過して、王家の魔術関連の諸事業・諸事件を全面的に担当する宮廷魔術工房は、そのような報告をあげてきた。
一夜明けて、どうやら都市の外壁に透明の隔離壁のようなものを展開しているのは、黒い巨人たちらしいというところまでわかった。
つまるところ、クリスト・カトレアの全国民は巨人によって都市に閉じ込められてしまったのである。
王女ハブレスは王である父と宰相らほか識者たちと対応に追われていた。
「ハブレス、おぬしの魔術どうにかならないのか?」
「巨人を撃ち落とすという意味ででしょうか?」
「ああ、もちろんだとも。あれがもしこの先もい続けるのだとしたら、周辺国家との繋がりと交易で保たれている都市国家は、またたくまに崩壊がはじまってしまう」
「……おっしゃる通りですね」
ハブレスは神秘学の知識があったので、あの巨人と敵対することに消極的な立場だった。それは宮廷魔術師たちも同様だ。
しかし、やらなければならなかった。
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